セッション定番曲その94:How High The Moon
ジャズセッション定番曲。このタイトルでは歌モノですが、同じコード進行でインストでも演奏されます。
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:Les Paul & Mary Ford
「How High The Moon」はもともとは1940年にミュージカルナンバーとして書かれた曲で、いわゆるスイングジャズ時代にも録音されていますが、一般にもヒットして知られるようになったのは1951年録音のLes Paul & Mary Fordのバージョン。時代の先を行っていたLes Paulのギター・オーケストレーション(12回のダビング)、Mary Fordの一人多重コーラス(同じく12回のダビング)で、なんともキレのいい楽しそうな曲に仕上がっています。Queenとかの先駆的な録音ですね。
歌詞もミュージカルナンバーらしく能天気なものなので、このアレンジにピッタリでした。
このバージョンはJeff Beckも丸々コピーしていましたね。
ポイント2:Ornithology(鳥類学)
1946年にはチャーリー・パーカーによって「Ornithology」というタイトルでインスト曲として録音されています。正確に言うと「How High The Moonのコード進行を使って、全然別のメロディをのせて別の曲にした」というやつです。バードの曲にはこういうパターンも多いです。元の曲を素材にして遊んでいるうちに「面白い展開が出来た」と自分のものにしてしまう。バップ(Bebop)曲として人気で、楽器奏者の人にはこっちの方が人気ですね。
せわしなくメロディが上下するテーマ部分はいかにもバップ曲という感じですね。こういうメカニカルなメロディって無機質になりがちで、当初はバードもそういう狙いだったのかもしれませんが、実際にはなんとも歌心のある楽しそうなテーマです。
バップって「プログレ」っぽくて、演奏者に対しては「ヘイ、俺のやってることが分かるかい?ついてこれるかい?」と挑戦しながら、リスナーに対しては「理屈なんて分からなくても、凄い演奏だろ?楽しいだろ?」と歩み寄る姿勢があって、現代まで生き残っている曲にはちゃんと普遍性がありますね。
で、これに歌詞を付けて歌ちゃおうという人もいます。
こういうのが面白いのかどうかは好みの分かれるところではあります。
ポイント3:How High The MoonからOrnithologyへ
という訳で両方を合わせて、テーマ部分でHow High The MoonとOrnithologyのメロディを歌って、アドリブ部分は両方を意識してスキャット・・・という人も出てきます。
Karrin Allyson、1995年録音
How High The MoonからOrnithologyへ
ポイント4:「月」
タイトルや歌詞に「月」が出てくるジャズスタンダード曲は山ほどあります。ジャズは基本的に「都会の音楽」だけど、ちょっと郊外に行ったり裏通りに入ったりすれば周囲は暗くて、月明かりは頼りになる存在。手を伸ばせば届くかもしれないと思う星は月だけな感じがします。そして実際に人類が辿り着けたのはまだ月だけ。
恋人同士で見上げれば、月はとてもロマンチックな存在になります。
独りで自室の窓から見上げれば、月は孤独を癒してくれる存在に。
遠い帰り道を歩く時に見上げれば、月は自分の道を照らしてくれて導いてくれている気もします。
Somewhere there's heaven, How high the moon
Somewhere there's heaven, How near, how far
「天国」ってお空の上にあるってことになっているけど、それは果たして「月」よりも遠くにあるんだろうか・・・なんて少し気になりますね。
「How high the moon」は単なる情景描写ではなく、「あなたの心もまだ遠い」という思いがこもった表現だろうと思います。夜空を見上げれば手が届きそうな存在なのに、そばに寄っても確信が持てず、いったい自分のことをどう思ってくれているのだろう、と。ちょっとせつないですね。
ポイント5:ここだけ歌詞が詰まっている
The darkest night would shine, If you would come to me soon
Until you will, how still my heart, How high the moon
ここは意味的にひとつの文に近くて、息継ぎも難しく、一気に歌ってしまいたくなります。先にあったメロディに歌詞を乗せようとしたら、ぎっしり詰まってしまった感じですね。比較的早いテンポで歌われることの多い曲なので、歌う際には要注意です。発音の難しい単語は無いので、歯切れよく発音/発声しましょう。
ここで瞬発的なスピード感を出せるかどうかが歌う際のポイント。
ポイント6:色々なバージョンを聴いてみよう
Robin McKelle、2023年録音
Ella Fitzgeraldへのトリビュートの匂いがしますね。
Erin Bode、2022年録音
ゆったりしたテンポでしっとりと歌っています。歌詞もなんかロマンチックなものに聴こえます。
Emilie-Claire Barlow、1998年録音
ゆったりとしたスイングで始まって、テンポを上げてスキャットに突入。現代的なお手本だと思います。
Sammy Davis, Jr.、1958年ライブ録音
歌ではなくタップダンスを聴かせるもの。
Marvin Gaye、1961年録音
本当はクルーナーになりたかったようで、ジャズスタンダード集を何回も出しています。
Mel Tormé、1960年録音
バラードで、ヴァースから歌っています。Marvin Gayeと比べても正直言って深みがありますね。
Emmylou Harris、1981年録音
完全にLes Paul & Mary Fordのカバー(カントリー色強め)
Dianne Reeves、1991年録音
リズムパターンに工夫があって一風変わっています。
ポイント7:色々なバージョンを聴いてみよう(インスト版)
Erroll Garner、1958年録音
彼の演奏の特徴がすごく出ていますね。
Oscar Peterson、1958年録音
Emmet Cohen, Patrick Bartley、2022年ライブ録音
Steve Kuhn、1987年録音
Art Pepper, Sonny Stitt
◾️歌詞
本当は2番までしかないけど、Ella Fitzgeraldのアドリブ歌詞やスキャットまでご丁寧に書き起こしたもの。こうしてみるとEllaがスキャットで使っている子音は「b」と「d」が多いのが分かります。最初に管楽器奏者にスキャットを習った(鍛えられた)せいかもしれませんね。
Somewhere there's music, How faint the tune
Somewhere there's heaven, How high the moon
There is no love, When love is far away too
Till it comes true, That you love me as I love you
Somewhere there's music, It's where you are
Somewhere there's heaven, How near, how far
The darkest night would shine, If you would come to me soon
Until you will, how still my heart, How high the moon
How high the moon, Is the name of this song
How high the moon, Though the words may be wrong
We're singing it, Because you ask for it
So we're swinging it just for you
How high the moon, Does it touch the stars
How high the moon, Does it reach up to Mars
Though the words may be wrong, To this song
We're asking how high, high, high, High, high is the moon
Boo bi yoo bi
Bi yu di di ooh dun
Dabba oohbee
Boo di yoo di
Di yu di dee dee doohdun
Di di oohnbee
Bu di yu dan dan dan
Dee boognbee
Aheedee doo doo abbi woo do ee
Woah ba bee ba bap beya oh
Ein bap bap dein
Hey ohndalady deepbap
Bumblebee
Deedeedeedeedee deedee
Doo doot doop antdoodly wah
Vebeeoopm dabba oohbayoum dabie
Oohmbappa eupembappi ah
Baby ohm bap
Baby ooh bee bap bey
Oohtoo undn datley udnda da
Eun bu! eun bi! un ba! un bey!
Un bey un bey in byron bay
Moody eetn deeby deepi ah ba
Beebeeoohdibap Da Bap! un boo bay
Deeoohdedootundap lah day
Oohtdee undeedoodee dootn
Dadaploday
Beepbee oo'bapbee ootndap bobay
Beepbee ootn da loday
A dooblydoobly dooblydoobly
Dooblydoobly dooblydoobly
Dooblydeetn deepdeedee eudabapoya
Beebeeum beep beebee bebop
Beebeeoohbebap dedap un boobay
Deeodeedoodee dap lady
Oohtdee undeedoodee dootn
Dadaploday
Beepbee oo'bapbee ootndap bobay
Beepbee ootn da loday
Deudedeu deun daudau baubau
Bieubau badee beiu beiu ooh
Heee he a we ah
Heee he a eeah hah
Eeetdee eutandabbie utan
Dooiedoodoon'lyba
Bieu bau bau n daisy ba
Beedeedee dedee deDee
Beedeedee ba-oi
Adoodlyoohtndo oohntdo oohntdo
Deedee oothndo baobaobao baeu
Beet-deet-dee doodly'ap'n'boobie
Bootbe up'n babba un baw baw ba-bey
Beedeedee yabadoreda bababo
Baya baba bobobo bi'yabeeba
Though the words may be wrong to this song
We hope to make high, high, high, high, High as the moon
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