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セッション定番曲その185:Left Alone by Mal Waldron, Billie Holiday

ジャズ(ボーカル)セッションの定番曲。流行り過ぎて、なんだか「ダサい曲」扱いされてしまっているのが残念ですね。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:一番有名なジャズ曲?

某日本映画で使われたこともあり、一時期は「一番有名なジャズ曲」のひとつになっていました。ジャズミュージシャンの中には「どこのジャズクラブに行ってもリクエストされるし、暗いし、嫌になった」という人も。

「実は日本でしか売れなかった」「演歌みたい」「ダサい曲の代表」とか色々言われがちですが、メロディが印象に残る曲として素直に歌えばいいんじゃないかと思います。この映画自体も1986年公開と大昔の話。


ポイント2:Mal Waldron, Jackie McLean

Billie Holidayが歌詞と曲のアイディアを出してMal Waldronが仕上げた曲ですが、彼女自身はレコーディングのタイミングを逃してしまいました。彼女が亡くなった1959年に出たこの曲は、そういうストーリーも含めて有名です。Mal Waldron自身は「一枚看板」というピアニストではなかったですが、印象的なのはやはりJackie McLeanのサックスの音色ですね。両者ともにヘタウマというか「味で勝負するからゴメンね」系のミュージシャンではありますが、それがまた哀愁タップリの曲調に合っています。


ポイント3:Abbey Lincoln

1961年録音。大きく抑揚を付けながらストレートに歌っています。彼女が歌うと単なる恋愛関係の歌ではなく、もっと大きなスケールの「祈りの歌」のようにも聴こえます。


ポイント3:歌詞のポイント

Where's the love that's made to fill my heart?
Where's the one from whom I'll never part?
First they hurt me, then desert me
I'm left alone, all alone

失ってしまった愛(恋人たち)についての嘆きが歌われています。
なんかあんまり希望が見えない出だしですねぇ。

「heart」と「part」で韻を踏んでいます。スペルが違うので一瞬「あれ?」と思いますが同じ発音です。

「Where's the one from whom I'll never part?」日本人のちょっと苦手な「whom」ですが、素直に文頭から訳していきましょう。「こんな人は何処にいるの?」「その人から私が離れなくてもいい(=関係が続く)人は?」

「First they hurt me, then desert me」ってなんか語呂がいいですね。ここはうまくニュアンスを付けて歌いたいですね。「heart」と「hurt」はちゃんと発音が違うので要注意です。

「I'm left alone, all alone」ここの「all」は強調です。ここをしつこく歌うことで絶望感が高まります。

There's no house that I can call my home
There's no place from which I'll never roam
Town or city, it's a pity
I'm left alone, all alone

ここも絶望的な気持ちが手を替え品を替え歌われています。

「home」と「roam」、「city」と「pity」で韻を踏んでいます。

「house(物理的な「家」)」と「home(心理的な「我が家」)」の違いが分かりやすいですね。

「Town or city, it's a pity」

「town(街)」と「city(都市、都会)」の違いがちょっと分かりにくいですが、前者は割と田舎の街というイメージなのでしょうね。どっちに住んでいるにしろ孤独で惨めな状況にはかわりがありません。

Seek and find they always say
But up to now it's not that way

ここも「say」と「way」で韻を踏んでいます。

「seek and find」は「(ちゃんと)能動的に探して、自分で見つけなさい」と周囲のアドバイス。

Maybe fate has let him pass me by
Or perhaps we'll meet before I die
Hearts will open, but until then
I'm left alone, all alone

ここも「by」と「die」で韻を踏んでいます。
実はかなり技巧的に書かれた歌詞であることが分かりますね。こういう韻を踏んでいる箇所が多い歌詞は、その部分をちゃんと歌って聴かせることで自然とメリハリが付いて、物語が伝わるようになります。


ポイント3:Abbey Lincoln

Helen Merrill、1985年録音?
多くの人がイメージする「ジャズボーカル」という感じがします。


浅川マキ
似合いすぎ。


Monica Zetterlund、1964年録音


中本マリ、1991年録音
ラテンアレンジがユニークで面白いですね。
この時代の日本のジャズ歌手って正直言って現代の基準だと歌唱力も英語の発音もギリギリという感じもします(特に「L」音が弱い)。


Eric Dolphy, Booker Little
、1960年録音
実は存命中のリーダーアルバムは少なくて貴重な音源です。


Archie Shepp, Abdullah Ibrahim、1978年録音


矢野沙織、2021年ライブ録音


◼️歌詞


Where's the love that's made to fill my heart?
Where's the one from whom I'll never part?
First they hurt me, then desert me
I'm left alone, all alone

There's no house that I can call my home
There's no place from which I'll never roam
Town or city, it's a pity
I'm left alone, all alone

Seek and find they always say
But up to now it's not that way

Maybe fate has let him pass me by
Or perhaps we'll meet before I die
Hearts will open, but until then
I'm left alone, all alone



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