セッション定番曲その65:Blue Bossa by Joe Henderson, Kenny Dorham
ジャズセッションの人気曲として、今日も日本中のセッションイベントでリクエストされている定番曲。日本人好みの哀愁サウンド!
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここでは歌詞のポイントだけ説明します。
ポイント1:Blue + Bossa
作曲をしたKenny Dorhamが「1961年にリオ・デ・ジャネイロのジャズフェスに出演した際に聴いた現地の音楽にインスパイアされて書いた」ということになっています。1963年録音。時代はハードバップ後期、キャッチーなメロディやキメの曲が求められていたところで、ジャズに影響を与え始めていたボサノバの要素を取り入れて、ボサノバに足りないブルース風味を加えて・・・という感じでしょうか。
実はシャンソンの「パリの空の下( Sous le ciel de Paris)」(1950年代にヒット)が元ネタという説も。確かに今の時代なら訴訟ギリギリの線かも・・・
Sous le ciel de Paris
Nicki Parrott - Under Paris Skies
多分このシャンソンの曲にもどこかに元ネタ的なもの(民族音楽、クラシック音楽の曲)があるのかも。キリがないですね。
哀愁を感じるメロディってどこか「異国情緒」があるもので、その「異国」はむしろ「どこにも無い場所」なのかもしれませんね。
曲名に「ボサノバ/ボサ」と付いていても実際にはボサノバのリズムではない曲も当時は多くて、この曲も微妙にアフロキューバンっぽい感じです。
Afro-Cuban Rhythmsの例
Essential Afro-Cuban Rhythms for Drum Set
原曲をちゃんと聞かずに「ボサノバだろう」と思い込んで演奏を始めると「あれれ?」ということもあり得るので要注意。事前の共通認識が必要ですね。
ポイント2:Kenny Dorham
ビバップ期から活躍していたトランペット奏者。クリフォード・ブラウン死後の後継者としてマックス・ローチのクインテットに加わっことからも分かるように腕の確かな人。1955年には「Afro-Cuban」というアルバムを発表しています。カッコいい曲揃い。
Kenny Dorham - 1955 - Afro-Cuban - 01 Afrodisia
昔、日本各地にあった「ジャズ喫茶」は、まだまだ輸入レコードが高価だった時代に愛好者がジャズを聴きに行く場所として栄えましたが、実際にどんな曲がリクエストされていたのかの記録を見ると、結構ポップな、上記のような明るくてメロディが明快な曲も人気があったようです。「Recado Bossa Nova」とか。
みんながみんなコルトレーンとかアルバート・アイラーとかを暗い顔をして聴いていた訳じゃなさそうです。
ポイント3:Joe Henderson
比較的長く活動したサックス奏者でスタイルもどんどん変わっていきましたが、印象に残っているはやはり初期の「Recorda-Me」やこの「Blue Bossa」ですね。この曲の二管でのテーマ演奏はやはり素敵ですね。
その後はこれまた人気曲、Horace Silverの「Song for My Father」やLee Morganの「The Sidewinder」で吹いたり、表舞台で活躍していました。1971年にはなんとBlood, Sweat & Tearsに参加しています。
個人的にはこんな曲も好きです。
Black Narcissus
ポイント4:色々な演奏を聴いてみよう
原曲
1973年の来日ライブ録音
Dexter Gordon、割とオーソドクス
George Benson
George Benson - Blue Bossa
Chet Baker、速いテンポでの演奏
Blue Bossa
歌入り
これも歌入り、完全にボサノバ
ポルトガル語での歌唱
Blue Bossa
ポイント5:Joan Cartwright
歌詞を付けたのはJoan Cartwrightという人。
これ以外にも「A Night in Tunisia」にも(よく知られているバージョンとは別の)歌詞を付けたり、マイルスの「Tune Up」やコルトレーンの「Bessie's Blues」にも歌詞を付けて歌っていたようです。
Joan Cartwright Musician - All About Jazz
ポイント6:歌詞と発音のポイント
所詮は後付けの歌詞なので、細かい考察には意味は無いのですが・・・
The blueness of the trueness of our love
各コーラスの最後に「私たちの真実の愛」には何かブルーなところがある、と歌っていますね。何か不安なことがあるのかな?確かにメロディにはぴったりハマる歌詞ですが、その「ブルー」の要因はどこにあるのでしょうか。
A place inside my heart is where you live
Memories of our start, the love you give
Days when we're alone and you are in my heart
「私の心の中には貴方が棲みついている場所がある」と歌っていますね。
相思相愛なのでしょうか。その割には「私たちが孤独な日々」ともあります。まだまだ「私」からの一方的な思いの段階?
Nights of moonlit skies, a gentle kiss
Something in your eyes fills me with bliss
Hold me in your arms, and then I will recall
「貴方の瞳の中には私を喜びで満たす、特別な何かがある」
「貴方を私の腕に抱くと、私たちの真実の愛のブルーさを思い出す」と。
やはりまだ「私」の思いの方が強くて、相手は思わせぶりなキスをしてくれるだけ、という段階のようです。
「bliss」は「最高の喜び」という意味です。
The thought of how we met still lingers on
How could I forget that magic dawn?
All the warm desire, the fire in your touch
「linger on」は「そこに留まり続ける/思い続ける」という意味です。
2人はどうやって出会ったのでしょうか。「魔法のような明け方」に一体何が起こったのでしょうかね。ここでも「貴方が私に触れると、温かい欲望を感じる」と、相手のアクションについては語られていますが、確証のある言葉は得られていません。
この「ずっともどかしい感じ」が「Blue」なんでしょうね。
「blueness」「trueness」は韻を踏んでいるというよりは語呂の良い歌詞という感じですね。それぞれ「L」音と「R」音を含んでいるので、発音には注意しましょう。
「moonlit skies」は「月に照らされた夜空」。「lit」は「lít」と短く鋭い音です。
「magic dawn」は意外と発音の難しい部分です。「mædʒɪk」とちゃんと発音出来ていない場合もあるので、練習しましょう。
ポイント7:曲の解析
分かりやすい解説はこれ
ポイント8:別パターンの歌詞;It's No Time To Be Blue
ギタリストのKenny Burrellが歌っている「It's No Time To Be Blue」が異名同曲ですね。
上手い歌ではありませんが、呟くような感じで味があります。ギター演奏のスピード感とのミスマッチが面白いですね。(キーはDm)
Alex Bairdという女性歌手が歌ったもの、より自由な感じで素敵です。
It's No Time to Be Blue - YouTube
更にまた全然別パターンの歌詞で歌たわれたものもあります。
Blue Bossa
■歌詞
A place inside my heart is where you live
Memories of our start, the love you give
Days when we're alone and you are in my heart
The blueness of the trueness of our love
Nights of moonlit skies, a gentle kiss
Something in your eyes fills me with bliss
Hold me in your arms, and then I will recall
The blueness of the trueness of our love
The thought of how we met still lingers on
How could I forget that magic dawn?
All the warm desire, the fire in your touch
The blueness of the trueness of our love