セッション定番曲その38:Killing Me Softly with His Song by Roberta Flack / Fugees
ポップス、R&Bセッションの定番曲。ゆったりしたバラードでもビートを強調したメロウファンクとしても演奏され、歌われます。
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
1、カバー曲
あまりにもハマっているので、ロバータ・フラックのオリジナル曲だと思われがちですが、実は作詞作曲は別のミュージシャンで、彼女のはカバーなのです。オリジナルを歌っていたのはロリ・リーバーマン(Lori Lieberman)という女性シンガーで、彼女が原型になる歌詞を書いて、それをチームを組んでいた作詞作曲チームが曲に仕立てて録音して1972年に発表しましたが、それ自体はヒットしませんでした。
その曲をロバータ・フラックが飛行機の中で聴いて(昔は専用のイヤフォンを付けてフライト中に音楽を聴けるサービスがありました)、気に入って、アレンジしてレコーディングしたようです。
その辺りの経緯は下記の動画で詳しく解説されています。
The Truth About "Killing Me Softly"
ロバータ・フラックがアレンジしてメジャーとマイナーが交互に出てくるような進行になったのも、大ヒットした要因のひとつかもしれません。マイナーだけのベタっとした感情ではなく、気持ちの高揚もちゃんとある。ゆったりとした中での落ち着かなさ。それが聴いていて飽きないポイントですね。
2、Killing me softly, with his song
「Killing me」の解釈ですが、文脈によって意味が変わります。
「The heat is killing me」なら「暑くて耐えられない、やってられない」だし
「His joke is killing me」なら「彼の冗談はサイコー」だし、良くも悪くも強いインパクトを与える/受ける、という感じですかね。それを「softly」=「そっと、優しく、穏やかに」。
で、そういう強く感情を動かされたのは「his song」。この「彼」はドン・マクリーン(Don McLean)だと言われています。ロリ・リーバーマン(と彼女のチーム)がコンサートに行って感激して、その気持ちの動きを題材に書いたのがこの曲。誰かがライブで歌うのを聴いて、どうしようもなく心を動かされる経験は多くの人にありますが、それを曲の題材にするというのがユニークですね。
ドン・マクリーンは1971-1972年に「アメリカン・パイ」という大ヒットを飛ばした男性シンガー。当時としては異例の8分もの長さの曲で、ひとつの物語になっていて、ラジオでも全部流さないと意図が伝わらないので、ラジオ局も苦労したようです。声も歌も魅力的。それ以外にも良い曲を多く書いて歌ったのですが、なぜか「一発屋」扱いされることの多い人です。
構成としてはいわゆる「サビ始まり」の曲です。前置き無しでいきなり本音を歌い出す感じなので、冒頭からの説得力が必要です。気を抜かずに最初の声を出しましょう。何度も繰り返し出てくるサビ(コーラス)部分にいかに抑揚を付けるかも大事なポイントですね。一回目よりも二回目、二回目よりも三回目、と徐々に感情の高ぶりを籠めて歌いたいですね。
「やさしく歌って」という邦題に影響され過ぎずに、ある意味「感情むき出し」の歌と解釈するのもアリだと思います。
3、Strumming my pain with his fingers
Strumming my pain with his fingers
Singing my life with his words
自分を楽器(たぶんギター)に例えて、「彼の指が私を搔き鳴らして、私の傷に触れるの」、そして「彼の歌う言葉がなぜか私の人生を語っているよう」と。
単に音楽に感動したというのではなく、あまりにも自分の心の深いところ(柔らかいところ)に突き刺さって、「何故この人は自分のことをこんなに知っているのだろう」と心を揺り動かされたという体験。優れた創作物によってそういうことが起きる時がありますね。すごく個人的な体験に感じるという。
ドン・マクリーンのギター演奏、歌声、曲、歌詞などがそういう奇跡的な体験を呼び起こした、と。
4、I felt all flushed with fever
I felt all flushed with fever
Embarrassed by the crowd
I felt he found my letters
And read each one out loud
「flushed」は「上気して顔が赤くなる」という意味です。まるで熱に侵されたように。周りには大勢の人がいるというのに。
まるで自分が書いた秘密の手紙をみんなの前で読み上げられているみたい。ひとつひとつの言葉を大きな声で・・・
歌い手と共鳴した個人的な体験の記述の続きです。
最初は驚きと感動だったけど、少し恐怖も感じ始めていますね。何故?何故?と
これが「blushed」だと何かが恥ずかしくて赤面するという意味なので、少しニュアンスが異なりますね。
5、He sang as if he knew me, In all my dark despair
He sang as if he knew me
In all my dark despair
And then he looked right through me
As if I wasn't there
「despair」は深い絶望です。
私が深く暗い絶望の淵に落ち込んでいるのを、全て知っているかのように彼は(私のことを)歌っている・・・と感じた、と。
そして私の方を見たけど、彼の視線はもっと先。まるで私なんか存在しない(透明人間の)ように。
共鳴、共感を得たと思ったのに、次の瞬間には自分の存在が消えてしまっているのを感じます。もちろんステージで歌っていた彼からしたら、会ったこともない観客のひとりでしかないし、歌手と視線が合ったと勝手に感じるのはよくある観客心理。
観ている彼女も歌手(そんなに売れていない)なので、より共感を感じやすかったし、その体験を曲にすることが出来る感受性を持っていた人でした。
6、発音のポイント
発音が難しい部分をピックアップしてみると、
・「Strumming my pain」「s」「t」「r」と子音が続くところは母音が入らないように注意しましょう。
・「flushed with fever」「ed+w」「th+f」と難しい音が続く箇所は何度も練習してスムースに発音出来るようにしましょう。
・「Embarrassed」綴りから発音が想像しにく単語なので、まず音を聞いて覚えましょう。「rr」とか「ss」とかウザいですよね。
・「looked right through me」これも「ed+r」「t+th」と難しい音が続く箇所があります。「d」音や「t」音は場所によってハッキリ発音した方が良い場合と弱くして音を飲み込んでしまった方が良い場合があります。語尾の場合は後者の傾向が強いです。これも誰かネイティブスピーカーが歌っているのをよく聴いて真似してみましょう。
7、物語
前述のような経緯で出来た曲ですが、ロバータ・フラックにカバーされて大ヒットすると、印税の問題が発生します。原案はロリ・リーバーマンでしたが、作詞作曲にはクレジットされておらず、そこには彼女とチームを組んでいたメンバーの名前が。こういう揉め事って音楽業界では付きものですね。彼女はまだ20歳で、しかも作詞家でマネージャーだった男性とは男女の関係だったようで、自分の立場を強く主張出来なかったのかもしれません。原案は、その男性との関係も含む非常に個人的な思いを込めたものだったのに。
後年になって、ロバータ・フラックやドン・マクリーンからのサポートを得て、彼女は「名誉回復」をすることが出来たようです。
こういう「誰がアイディアを出して、誰が実際のカタチにしたのか」は音楽や他の芸術の世界でも、当事者にしか分からない現場の状況もあり、お互いの記憶違いや気持ちのズレもあり得ますね。
Lori Lieberman sang 'Killing Me Softly' before Roberta Flack, who is being honored at the Grammys.
8、カバーいろいろ
有名なのはThe Fugeesの1996年のカバーバージョンですね。サンプリングによるヒップホップっぽいトラックにのせてローリン・ヒルが気怠く歌うバージョンは賛否両論ありましたが、大ヒットしました。こっちのイメージで覚えている人も多いかもしれませんね。より「強い女性」というイメージの歌になっていますね。
スタンダードということで言えば、ペリー・コモだのフランク・シナトラだのもこの曲を歌っています。もはやムード歌謡という感じですが。
Killing Me Softly With Her Song
Frank Sinatra-Killing me softly
もしかすると同じオケ?
個人的に好きなのはこのバージョン
Citizen Queen
古いジャズ風にアレンジしたもの
"Killing Me Softly" 1940s Swing Cover by Robyn Adele Anderson
ボサノババージョンも当然あります
この肩の力を抜いた感じがこの曲に相応しいかも
レゲエバージョンも
何度も書いていますが、どうアレンジしてもメロディがちゃんと浮かび上がってくるのがスタンダードたる所以ですね。
■歌詞
Strumming my pain with his fingers
Singing my life with his words
Killing me softly with his song
Killing me softly with his song
Telling my whole life with his words
Killing me softly with his song
I heard he sang a good song
I heard he had a style
And so I came to see him
To listen for a while
And there he was this young boy
A stranger to my eyes
Strumming my pain with his fingers
Singing my life with his words
Killing me softly with his song
Killing me softly with his song
Telling my whole life with his words
Killing me softly with his song
I felt all flushed with fever
Embarrassed by the crowd
I felt he found my letters
And read each one out loud
I prayed that he would finish
But he just kept right on
Strumming my pain with his fingers
Singing my life with his words
Killing me softly with his song
Killing me softly with his song
Telling my whole life with his words
Killing me softly with his song
He sang as if he knew me
In all my dark despair
And then he looked right through me
As if I wasn't there
And he just kept on singing
Singing clear and strong
Strumming my pain with his fingers
Singing my life with his words
Killing me softly with his song
Killing me softly with his song
Telling my whole life with his words
Killing me softly with his song
Ohhhh ohhhh ohhhh
Ohh ohh ohh ohh ohh ohh ohh
La la la, la la la
Ohh ohh ohh, ohh ohh ohh
La ahh ahhhhhh haaaaaaaaaaaaaa
Ha ahh ahh, ahh ahh ahh ahh
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Empty Chairs
I feel the trembling tingle of a sleepless night
Creep through my fingers and the moon is bright
Beams of blue come flickering through my windowpane
Like gypsy moths that dance around a candle flame
And I wonder if you know
That I never understood
That although you said you'd go
Until you did, I never thought you would
Moonlight used to bathe the contours of your face
While chestnut hair fell all around the pillowcase
And the fragrance of your flowers rest beneath my head
A sympathy bouquet left with a love that's dead
And I wonder if you know
That I never understood
That although you said you'd go
Until you did, I never thought you would
Never thought the words you said were true
Never thought you said just what you meant
Never knew how much I needed you
Never thought you'd leave, until you went
Morning comes and morning goes with no regret
And evening brings the memories I can't forget
Empty rooms that echo as I climb the stairs
And empty clothes that drape and fall on empty chairs
And I wonder if you know
That I never understood
That although you said you'd go
Until you did, I never thought you would
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