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セッション定番曲その85:It's Only a Paper Moon

ジャズの歌ものセッション定番曲、親しみやすいメロディでインストでも楽しめます。歌詞もメロディにもノスタルジックな雰囲気がありますね。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:Paper Moon

You say it's only a paper moon
Sailing over a cardboard sea

これは一体どんなシーンなのでしょうか?
「紙の月」?「ボール紙で出来た海」?

古い写真を検索すると、月(三日月)の形に切り抜かれた飾りの付いたベンチに腰掛けて恋人や家族で撮影した(してもらった)写真が沢山出てきます。まだ個人がみんなカメラを持っている時代ではなかったので、写真は写真館や遊園地のスタッフに撮ってもらうものでした。みんな着飾っていましたね。

この曲は1933年にNYのブロードウェイ上演されたミュージカルの中の曲で、舞台はNY近郊の「コニーアイランド*」という遊園地。NYを描いた映画にはよく登場します。最近の映画では「かつて栄えたけど寂れてしまったダサい場所」みたいな描かれ方ですが、昔の映画ではデートや家族旅行で遊びに行く賑やかな場所として登場します。

この歌はそんな場所でデートしているふたりを描いたものなのが分かります。昔の遊園地は数少ない「非日常的空間」でしたね。夢見心地で過ごす一日。

*「コニーアイランド」は正確には地名で、その場所に遊園地や水族館、ビーチやボードウォークなどがあります。


ポイント2:make believe

But it wouldn't be make believe
If you believed in me

この「make」も「believe」も動詞ではなく「make believe」で「作りもの、空想」という意味の名詞です。

「believe in」は単に「信じる」よりももう一歩進んで「信頼する、相手の存在を認める」というニュアンスになります。

If you believed in me
と仮定法過去になっているので「君が僕のことを信頼してくれるなら(してくれていない気もするけど・・・)」という感じですかね。

「君が僕のことを信頼してくれるなら、紙の月も海も作りものじゃなくなるよ」と。

「僕は君にいつでも素晴らしい夢を見せてあげる」
「僕といれば月にだって座ることが出来るんだ」

ポイント3:canvas sky

Yes, it's only a canvas sky
Hanging over a muslin tree

「canvas」は帆布(油絵を描くキャンバス)、「muslin」は平織りの綿布地。だから「空」も「木」も偽物です。

でも「君が僕のことを信頼してくえれるなら、空も木も作りものじゃなくなるよ」と。

ポイント4:honky tonk parade

Without your love
It's a honky tonk parade
Without your love
It's a melody played in a penny arcade

「honky tonk」は元々は酒場で演奏される賑やかなカントリー音楽を指す言葉ですが、そこから転じて「賑やかなだけで中身の無い音楽」というニュアンスで使われることもあります。また酒場なので調律の狂ったままのピアノで演奏することも多くて、「そのピアノ、ホンキートンクだね」=「チューニング狂っていて、ちょうどよく酔っ払った感じだね」と皮肉に使われることも。

「penny arcade」はコインを入れて遊ぶゲーム機が並んでいるところ。この時代なのでアナログなゲームばかりですね。

なので、「君の愛が無ければ、ここは調子外れで騒々しいだけの場所」だと。

ポイント5:Barnum and Bailey

It's a Barnum and Bailey world
Just as phony as it can be

「聞きなれない単語はだいたい固有名詞」です。
「Barnum and Bailey Circus」はかつて存在した米国の人気サーカス団。実際には1933年の時点では「Ringling Bros.」に買収されて「Ringling Bros. and Barnum & Bailey Circus」になっていたようですが。

phony」は結構大事な言葉で「いんちきの、でっちあげの」という意味です。「The Catcher in the Rye(ライ麦畑でつかまえて)」の主人公ホールデン君の口癖がこれでしたね。

「この場所はまるでサーカスのテント小屋みたいに、まがいものばかりだよ」と。


ポイント6:発音のポイント、歌い方のポイント

平易な言葉が並んでいるので、発音の難しい部分はそんなにありません。

上記の「Barnum and Bailey」は固有名詞なので、歌をよく聴いて素直に発音するしかありませんが、現代のネイティブスピーカーでもこの言葉を聞いてピンとくる例えなのかはちょっと分かりません。

「phony」は「fóuni」。最初の「f」音をちゃんと出しましょう。

But it wouldn't be make believe
If you believed in me
発音も歌い方も最大のポイントは繰り返し出てくるこの箇所だと思います。
「wouldn't」の「w」音、「believe」の「v」音に注意してちゃんと発音しましょう。歌い方も、この箇所は相手に対しての「説得」として歌っているので、語り掛けるような気持ちで歌うといいと思います。

歌詞の内容的に「今進行中の恋愛」について歌ってはいますが、舞台装置が古めかしい遊園地ということもあって、全体にノスタルジックな雰囲気の曲です。その雰囲気をどう歌で伝えるか、工夫してみてください。


ポイント7:ヴァース(バース)があります。

例によってこの曲にも前節(ヴァース)があります。
どのくらい一般的なのか分かりませんが、実際にライブで歌われているのをあまり聴いたことはありません。通常は調子のいいスイングで歌われることが多い曲なので、どうもこのヴァースは合わない気もします。

I never feel a thing is real
When I'm away from you.
Out of your embrace,
The world's a temporary parking place.
Mm, mm, mm, mm, A bubble for a minute,
Mm, mm, You smile, The bubble has a rainbow in it.


ポイント8:様々なバリュエーション

Django Reinhardt, Stéphane Grappelli
忘れてはいけないのはこのジプシースイング演奏


Art Blakey & The Jazz Messengers
早いテンポの4ビート


Count Basie, Zoot Sims
カウント・ベイシー御大のピアノがいい調子です


Nat King Cole
優しい歌声


Ella Fitzgerald feat. The Delta Boys

意外としっとり歌っています


Paul McCartney


ライブ演奏のお手本として

ヴァース〜平歌(フルコーラス)〜メロディフェイク(フルコーラス)〜ピアノソロ〜ベースソロ〜ヴォーカルとドラムの4小節交換〜後テーマ(メロディフェイク)〜エンディング


◾️歌詞


(You) say it's only a paper moon
Sailing over a cardboard sea
But it wouldn't be make believe
If you believed in me

Yes, it's only a canvas sky
Hanging over a muslin tree
But it wouldn't be make believe
If you believed in me

Without your love
It's a honky tonk parade
Without your love
It's a melody played in a penny arcade

It's a Barnum and Bailey world
Just as phony as it can be
But it wouldn't be make believe
If you believed in me


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