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セッション定番曲その44:This Masquerade by Leon Russell/ The Carpenters/ George Benson, etc.

R&Bやファンクの歌モノのセッション定番曲。通称「黒本2」にも掲載されているので、ジャズセッションでボサノバアレンジで歌われることも。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:Masquerade

「仮面劇/仮面舞踏会」のことです。ベネチアのカーニバルが有名ですね。

この歌詞では比喩として使われていて、お互いの本心を隠して、まるで仮面を被って付き合っているような2人の関係が描かれています。歌詞で使われている言葉はシンプルですが、このタイトル/比喩が非常に効果的で「オトナの恋愛」の機微が描かれている感じがしますね。

相手に対して静かに呼び掛ける内容になっているので、歌う際にもそういう距離感を意識しましょう。

「仮面」には背景となる文化によって籠められている意味合いが異なりますが、基本的には顔の表情を隠すことで「本性」や「本心」を見せないようにする、相手との距離を取る、と。華美な仮面で相手の気を惹いて「素顔を見てみたい!」という気持ちを掻き立てることもありますね。

ちょっとアプローチは違いますが、平安貴族などはまさにこんな感じで、仮面ではなく簾や衝立で自分の姿を見せずに、和歌などを使って相手の気を惹いて駆け引きをするという時代でしたね。

ポイント2:Leon Russell

作者のLeon Russellは今ではもう忘れかけられていますが、1970年代前半に素晴らしい名曲を沢山生み出した人です。スタンダード化しているものだけでも「A Song for You」「Superstar」などのちょっと都会的でお洒落な曲、その他にも「Tight Rope」「Lady Blue」「Delta Lady」などいい曲がありますね。

本人は癖の強いダミ声での歌唱ですが、それがきれいな声の歌手にカバーされると、より曲の魅力が輝き出すという不思議。

実はロックンロール時代からセッションミュージシャンとして活躍していた長いキャリアの人で、ピアノを基本にギターも弾き、作詞作曲も、ツアーバンドのリーダーも。出身地の米国南部オクラホマ州から地元のミュージシャン達を沢山LAやNYに引っ張ってきて活躍させたのもこの人でした。


ポイント3:Are we really happy here, with this lonely game we play?

歌詞の冒頭から、心が離れつつある恋人に向けての呼び掛けが始まります。
「this lonely game we play」がつまり「Masquerade(仮面劇/仮面舞踏会)」みたいだと。

この2人は出会った当初からずっと「仮面」を被った状態で付き合っていたのかもしれませんね。すごく魅力的に見えた相手が、徐々に「あれっ?どうも気持ちが分からないなぁ」「本心はどこにあるのか?」という感情に変わっていき、苦しくなってしまう。
掛ける言葉さえ見つからなくなってしまう・・・。

明確に嫌いになった訳ではないから、ここからどうしていいのか戸惑ったまま。

ポイント4:We tried to talk it over but the words got in the way

「talk over」は「話し合う/議論する」という意味。
「get in the way」は「邪魔になってしまう」。

だから「言葉ではうまく伝えられないことを、言葉を使って話し合おうとしても上手くいかなかった」という、恋愛ではよくある状況。気持ちや肉体で通じ合っていた相手だから、概念(言葉)がうまく紡ぎだせない。


ポイント5:To understand the reasons why we carry on this way

「carry on」は「そのまま続ける」という意味。

君の瞳を見てしまうと、やっぱり離れられない。
今のこの関係を続けていく(幾つもの)理由を一生懸命に考えてはみるけど。

結局、別れるの別れないの?
もう終わりは見えているのに、もどかしい感じのまま、この曲は終わります。想像の余地を残すところが「オトナの歌」ですね・・・。


ポイント6:発音のポイント

カギを握っている「masquerade」は「m`æskəréɪd」で、割とボソボソした音の単語です。この言葉を上手く歌えるかがこの曲のツボですね。

「Thoughts of leaving disappear, every time I see your eyes」
この箇所の発音が一番難しいかもしれません。「th」「f l」「v」「g d」「disappear」「ry t」「r eyes」と難しい音が続きます。前後の単語の音の繋がりを意識して、スムースに歌えるようにしましょう。

「We're lost in a masquerade」
re l」と「r」音と「l」音が、こもった母音を挟んで出てきます。音の違いを意識しましょう。

歌詞全体を通して使われている単語は中学校で習う基本的なものが大半なので、復習のつもりでそれぞれの発音をチェックしてみてください。


ポイント7:どんなアレンジで歌うか

Leon Russellはピアニストらしく所々にテンションを入れた複雑なコードを使っていて、それが1970年代当初としてはすごく都会的な響きに聞こえました。
原曲では、かなり癖の強い声で、米国南部訛りもあるモゴモゴした歌い方になっていて、これを真似するのはかなり難しいですね。相手に呼び掛けている歌詞なのに、なんだか独り言に聴こえる感じの歌い方。


で、1973年にカーペンターズがカバーしました。バート・バカラックの複雑なコード進行に慣れていたカレンは、この曲を響きの豊かな中音部の声を活かして素敵に歌いこなしました。女性の立場から、まだ未練たっぷりに聴こえる曲になっています。この時代の、無暗に高音部を歌い上げない歌い方は耳に優しいですね。


1976年にはジャズギタリストとして知られていたGeorge Bensonがカバーして、ちょっとHな感じに歌いました。コードの響きも更に工夫して複雑になっています。スキャットとユニゾンするギターも話題になり、彼の代名詞になりましたね。すごく「夜の香り」のするアレンジになっていて、大ヒットしました。リズムも強調されていて、踊れるアレンジ。


David Sanbornがインストでカバーしたのはこんな感じ。しっとりしていて、完全に夜の曲になっていますね。夜景の見えるバーとかで静かに流れていそう。


ラテン系にアレンジしたのもありました。ジャズセッションなんかではこんな感じでやるのもいいかもしれませんね。みんな踊り出しそう。


けっこう無理矢理ですが、レゲエにしたものも。オトナの情緒とか無くなってしまいますが、相手に呼び掛ける歌としては、こういうのも意外と官能的なのかもしれません。


■歌詞

Are we really happy here with this lonely game we play?
Looking for words to say
Searching but not finding understanding anywhere
We're lost in a masquerade

Both afraid to say we're just too far away
From being close together from the start
We tried to talk it over but the words got in the way
We're lost inside this lonely game we play

Thoughts of leaving disappear every time I see your eyes
No matter how hard I try
To understand the reasons why we carry on this way
We're lost in a masquerade



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