セッション定番曲その26:I Wish by Stevie Wonder
1976年の大ヒット曲。ファンク系歌モノ人気曲として定番化しています。演奏する人、特にリズム陣からリクエストされることもありますね。気持ちの良さの秘密はどこにあるんでしょう?
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここでは歌詞のポイントだけ説明します。
ポイント1:何について歌っているのか
genious.comの解説をそのまま引用すると
“I Wish” tells the story of a young boy and all the tales of his childhood and the mischief he got into throughout his childhood and up into his teenage years.
つまり子供時代~ティーン時代を振り返って、「俺もワルだったなぁ」と回想している内容です。「ワル」といっても大した内容ではなくて、いたずら好き、授業をサボったり、タバコ吸ったり、とかわいいもの。
全体的に甘酸っぱい思い出が歌われていますが、子供っぽさが残っているのが面白いですね。
ポイント2:I wish those days could come back once more
タイトルの「I wish」は「それが叶ったらいいけど(たぶん無理)」という状況の時に使う表現です。「もう一度あんな日々に戻れたらなぁ(無理かなぁ)」と。何度も出てくるこのサビ部分がまさに「甘酸っぱい」ところ。それをうまく歌い演奏したいですね。
演奏的にはキメがある部分ですが、
I wish those days/ could/ come back once more
Why did those days/ e-/ver have to go?
という感じで意味の切れ間の「could」「ever」にアクセントが置かれているのも意図的だと思います。
ポイント3:we sometimes would not get a thing
Then my only worry was for Christmas, what would be my toy
Even though we sometimes would not get a thing
We were happy with the joy the day would bring
クリスマスプレゼント(の玩具)を何ももらえないこともあった、と回想しています。裕福な家庭では無かったんでしょうね。お兄ちゃんがいたみたいだから、兄弟ともにクリスマスプレゼント無し。でも、クリスマスがやってくる高揚感だけで幸せだったと。街も家の中も少しずつ飾り付けや音楽で盛り上がっていく感じでしょうか。
ポイント4:those hoodlum friends of mine
「hoodlum」は「チンピラ、不良少年」という意味。果たしてどれくらい本当のワルだったのかは分からないですが、近所にはそういう連中がウロウロしていて、あまり治安の良い地区ではなかったのが分かりますね。親は心配になりますが、生活するのに手一杯で良い地区に引っ越しなんか出来ない。住めば都とは言いますが、当時の黒人達がそういう状況から抜け出すにはスポーツか音楽/芸能の才能を伸ばして認められるしかなかったんですね。
スティーヴィーは音楽の才能に恵まれて、子供の時にスカウトされてモータウンの子供スターとなりましたが、正当な評価や報酬、制作上の自由などを得られたのはやはり大人になってからでした。
お母さんは彼が不良仲間とツルむのを心配して、裏口で見張っていて「ダメよ」と諭していますが、素直に言う事を聞く訳じゃなかったようですね。
ポイント5:you playin' doctor with that girl
「play doctor」は所謂「お医者さんごっこ」ですね。世界共通の遊び。
親にも内緒にしておきたい、ちょっとドキドキする遊び。それをお兄ちゃんは親(母親)に言いつけちゃうよと脅す訳です。その代償がキャンディなのは可愛いですが。
ポイント6:歌詞をメロディに乗せる
けっこう字余りみたいな歌詞の箇所もありますが、うまくリズムやメロディに乗せて歌い切りましょう。スティーヴィーの歌もちょっと怪しい箇所がありますが、流石にノリが止まらないように歌っていますね。この辺りは節回しというよりも歌詞の終わりをどう収めるかという感じなのかもしれません。区切りが「Tryin' your best to bring the / water to your eyes」のような箇所に来る場合もあって、よく歌を聴いて把握しておかないと戸惑ってしまいます。
ポイント7:ノリを持続させる、小さなオーケストラ
イントロのベースラインに続いてギター、キーボード、そしてドラムが入ってきて、明るくファンキーで賑やかな曲が始まります。神がかっていた時期のスティーヴィーの頭の中にあった音がまとまって降ってきた感じ。セッションで演奏する際には誰かの音だけが目立って前に出るのではなく、バランス良く「小さなオーケストラ」のつもりで合わせていくとスティーヴィーの意図に沿った演奏になるんじゃないかと思います。デューク・エリントンがビッグバンド/ジャズ・オーケストラをひとつの楽器として使って曲を表現したように。
この時期のスティーヴィーの曲は沢山の楽器/音が鳴っていてもうるさくないというか、思い付きで音を重ねたのではない、まるで指揮者がいるかのような演奏の曲が多かったですね。
そういう、お互いの音を聴きながらバランスを探っていくのが、初顔合わせのジャムセッションの楽しさであり難しさですね。特にファンク系の曲では誰かひとりが突っ走りがちなので、気を付けたいところ。Enjoy!
ポイント8:様々な演奏
まず原曲
世界中でカバー演奏されています。
Victor Wootenがベースを弾いているスタジオセッション
少しテンポを上げたカバー
Lady Gaga
■歌詞
Looking back on when I was a little nappy-headed boy
Then my only worry was for Christmas, what would be my toy
Even though we sometimes would not get a thing
We were happy with the joy the day would bring
Sneaking out the back door to hang out with those hoodlum friends of mine
Greeted at the back door with, "Boy, thought I told you not to go outside"
Tryin' your best to bring the water to your eyes
Thinking it might stop her from whoopin' your behind
I wish those days could come back once more
Why did those days ever have to go?
I wish those days could come back once more
Why did those days ever have to go?
'Cause I love them so
Brother said he's telling 'bout you playin' doctor with that girl
Just don't tell and I'll give you anything you want in this whole wide world
Mama gives you money for Sunday school
You trade yours for candy after church is through
Smokin' cigarettes and writing something nasty on the wall (You nasty boy)
Teacher sends you to the principal's office down the hall
You grow up and learn that kind of thing ain't right
But while you were doing it, it sure felt outta sight
I wish those days could come back once more
Why did those days ever have to go?
I wish those days could come back once more
Why did those days ever have to go?