インスタグラム黎明期の極私的想い出 (10): 最後のプレゼント
(これは「インスタグラム黎明期の極私的想い出 (9)」の続きです)
インスタグラム本を書かれたサラ・フライヤー (Sarah Frier) さんからインタビューを受けた時に提出した資料、および10年ほど前にインスタの中の人たちとやりとりしたメールなどを元に綴る昔話。
前回は、2013年暮れまで書きました。
2012年暮れに Language Ambassador としての役目が実質的に終了してから、いちユーザに戻っていた頃。
2013年9月に Josh と Bailey と東京で再会した時のこと。
Pidgin での翻訳管理がフェードアウトした直後、2013年10月頃からインスタ日本語版の翻訳文言が再びグチャグチャになっていったのち、中の人から泣きつかれて特急対応してあげた時のエピソード(〜2012年12月13日)など。
最終回、10回目となる今回はその続きです。
Facebook 社内、正確には日本拠点に、日本国内マーケット向け部隊が立ち上がり、いよいよ日本でインスタグラムがメジャーとなっていく2014年〜。
そして、思わぬ形で Kevin と Josh とリアルで会えた2016年などです。
Summary so far / ここまでのあらすじ
ここまで、覚えていることをあまり推敲しないまま、思いつくままに時系列になぐり書きしてきました。読みにくくてすみません。
とりあえず、ここまでのあらすじとして、以下にまとめておきます。
その1: (2010年10月下旬〜2010年11月20日)
初めて Instagram を使い始める
ボランティア日本語化担当者 (Language Ambassador) として選ばれる
その2: (2010年11月20日〜2010年11月23日)
Josh / Kevin / Mike らとのメールでのやりとり開始
その3: (2010年11月23日)
ひたすら共同作業
作業開始4日目にして初のクローズドベータ版ビルド
その4: (2010年11月24日〜2010年12月8日)
さらなる共同作業、Web 整備、正式リリース直前
その5: (2010年12月8日〜2010年12月19日)
不完全ながら初の日本語版正式リリース
自動化されていなかった当時のビルドフロー
結果として不本意なひどい日本語が紛れ込み酷評
その6: (2010年12月19日〜2011年1月14日)
Kevin 自家製の他言語翻訳バージョン管理システム Pidgin 登場
ついに多言語化管理がシステマチックに遂行可能に
その7: (2011年を通して)
品質も高水準で安定した「幸せな時代」
東日本大震災 / 当時の純朴素朴なインスタの世界
その8: (2012年を通して)
Facebook による買収、迫り来る変化
Josh / Shayne / Greg との渋谷での歓談
外部ボランティア開発協力体制のフェードアウト
その9: (2013年を通して)
ますます変化するインスタ、手を離れ劣悪化する翻訳文言
Josh / Bailey および当時の日本のユーザと新宿で懇親会
年末に中の人に頼まれて日本語化周りで急遽ヘルプ
Offical Instagram account for Japanese market / 日本向けインスタグラムアカウント
2014年2月14日、Facebook 東京オフィスの三島さん(当時)からメールをいただきました。その数日前に Instagram Direct (Messenger) で連絡をくださって、その後メールでの連絡になったのでした。
Subject: Instagramの新しい試み
Thread-Topic: Instagramの新しい試み
Thread-Index: AQHPKUwaosBHREgv7UKPN2Db+xPaCQ==
Date: Fri, 14 Feb 2014 06:15:05 +0000
Message-ID: <CF23E375.3AEC2%misheri@fb.com>
Accept-Language: en-US
Content-Language: en-US
X-FB-Internal: deliver
Content-Type: text/plain; charset="iso-2022-jp"
Content-Transfer-Encoding: quoted-printable
Kohji (@kohji405mi16) さん
お世話になっております。Instagramの三島です。
先日はInstagram Direct にて失礼いたしました。
本日は、Instagramが日本で実施する新しい試みについてお知らせしたく、ご連絡させて頂きました。
近日中に、日本向けのInstagramアカウント、@instagramjapanをオープン致します。
このアカウントでは、主に日本のInstagrammer、イベント、ロケーションなどをピックアップし、
日本語でコンテンツを展開します。
このアカウントは、日本のコミュニティの皆さんと共に作り上げて行きたいと考えており、
ぜひKohjiさんにもご参加頂きたいと思っております。
日本人Instagrammerのご紹介、ハッシュタグプロジェクトのアイディア、Instameetのプランなど、
色々情報をシェアして頂けると幸いです。
現段階では、2月15日(土)にアカウントを公開して、2月17日(月)に正式アナウンスをする予定です。
現在はプライベートアカウントにしていますが、ぜひ今からでもフォローリクエストをお送りください。
また、もしよければ2月17日の発表以降に、"@メンション"や投稿にコメントなどをして頂いて、
@instagramjapanのオープンを一緒に盛り上げて頂けると嬉しいです。
@instagramjapanのアカウントについてご不明な点やアイディアなどございましたら、
お気軽に三島までご連絡ください。
今後とも、何卒よろしくお願いいたします。
三島
Eri Mishima
Facebook | Tokyo Office | Instagram Community Manager, APAC
(以下省略)
ここに書かれている @instagramjapan というアカウントは、すでに存在していませんが、当時世界で2番目にユーザ数が多かった日本において、本格的にマーケティングに力を入れる予定であったことが伝わってきます。
この日本向け公式アカウントについては、以下の記事が残っていました。
そして、2012年4月に Facebook に買収されたのち、日本のユーザコミュニティの活性化に力を入れていくにあたり、Facebook 東京オフィス内に日本のインスタグラム専門チームが作られた、ということのようでした。
で、三島さんはコミュニティマネージャという肩書き、と。
この頃から、徐々に日本での利用者数が(2010年〜2011年頃から使っていたアーリーアダプタ層のユーザ以外に)どんどん増えていったんだと思います。
実際にはその2年後の2016年頃から、「インスタ映え」という言葉が流行語大賞を取った2017年頃まであたりが最初の爆発的ピークなのでしょう。
ともあれ、やはり東京オフィスが積極的にかつ地道にマーケティングを仕掛けた努力の賜物だったということなんでしょうね。
In-Reply-To: <CF23E375.3AEC2%misheri@fb.com>
References: <CF23E375.3AEC2%misheri@fb.com>
Date: Fri, 14 Feb 2014 15:25:35 +0900
X-Google-Sender-Auth: Qf_DNg8rpCjUIKQ-tHFrydYGq6E
Message-ID: <CAPpG=BRxz7-hoXcYZRTDkW-4r4V6RpPYGee77MtkCfE6vjCJtQ@mail.gmail.com>
Subject: Re: Instagramの新しい試み
From: "MATSUBAYASHI 'Shaolin' Kohji" <shaolin@rhythmaning.org>
To: Eri Mishima <eri@instagram.com>
Cc: "MATSUBAYASHI 'Shaolin' Kohji" <shaolin@rhythmaning.org>
Content-Type: text/plain; charset=ISO-2022-JP
三島さん、ご連絡ありがとうございます。
新しく日本向けのアカウントを開設されるとのこと、楽しみです。
日本でも着実に Instagram が成長していくことを祈っております。
なお、三島さんはその後 2018年に(Kevin と Mike が Instagram を離れる直前に) Facebook を退社され、Strava に移籍されました。そちらでも Instagram 時代同様に Senior Country Manager として活躍されているようでなによりです。
Gifts for "Early Adopters" /
アーリーアダプタへのプレゼント
急に思い出しました。
黎明期〜のインスタグラムにおいては、ある程度アクティブに投稿しているユーザなのか、そこそこフォロアー数がいるアカウントなのか、に、折に触れてプレゼントを送ってくれることがありました。
その多くは、インスタグラムに世界中から投稿された写真を使ったカレンダーやブックレットのようなものでした。Tシャツやステッカーをいただいたこともありました。
昨年(2020年)の引っ越しで、それらの多くは部屋のどこか(あるいは段ボールの中)で行方不明になってしまっているのですが(笑)、ひとつだけ見つけることができました。
その 2015年度版 では、とても分厚い(7cm 以上)CD ジャケットサイズに、世界中のインスタグラマーのペットや動物のインスタ投稿を印刷した、日めくりカレンダーになっています。
Tシャツは、最初期のロゴのものを2013年1月に(ステッカーと一緒に)送っていただいたほか、2013年9月に Josh と Bailey が来日した際に改訂版ロゴのものを手渡しでいただきました。
残念ながら、どちらもボロボロになるまで着古してしまいました(笑)
Featured on InstagramJapan /
InstagramJapan でのフィーチャー記事
その後、再び三島さんから2014年2月26日にメールで連絡があり、その新しく作られたアカウント上で、私のフィーチャー記事を書いてくださることになりました。
その時に回答した返事はこんな感じでした。長くなりますが、これも記録として全文を掲載します。
その後、2014年3月4日に、このインタビューをもとに簡潔に編集されたかたちで、Facebook 上の InstagramJapan アカウント、および Instagram 上の公式アカウントで、以下の写真と共に紹介していただきました。
残念ながら当該投稿はいまは残っていないようです。
Innocent Days of Instagram, Revisited /
改めて当時のインスタグラムの純朴な時代
繰り返しになりますが、この一連の記事で触れている当時のインスタグラムには、ストーリー(24時間限定投稿)もなく、ダイレクトメッセージ機能もなく、広告もなく、動画もなかった、そんな時代です。
ちなみに、2010年リリース当初の投稿画像フォーマットは、縦横比 1:1 の正方形のみで、640 x 640 ピクセル固定でした。
2015年7月7日になってやっと 1080 x 1080 ピクセルに拡大されました。
さらにその直後、2015年8月27日に正方形以外のフォーマットでの投稿も可能になりました。
15秒動画投稿が可能になったのは2013年2月でした。ビデオ投稿といえばいまどきは TikTok などでしょうが、そのさらに前、Vine という6秒ショート動画投稿サービス(2012年〜2017年)が流行っていた時代です。
広告導入は2013年10月にアナウンスされ、11月に初の広告投稿が試験的にお目見えしました。
ダイレクトメッセージ機能の導入は2013年12月。
ストーリー導入は2016年8月。当時は Snapchat のパクリと揶揄されたりしていましたね。
フォロアー数 like 数で競ったりすることもなかった時代。
「インスタ映え」という言葉も一般的ではなかった時代。
そういえば、いわゆる有名人、セレブリティのアカウントもほぼ皆無でしたね。ある意味ほのぼのとした、世界中のユーザ間でのコミュニケーションツールでした。
2010年〜2013年頃のインスタグラムはそんな世界観でした。
十年一昔とはよくいったものです。
Growth of IG User Base in Japan /
日本でのインスタユーザ拡大
2014年〜2015年。目にみえて一般ユーザ数が増えていく実感がありました。
例えば、仕事の打ち合わせで電車に乗り込むと、スマホを持つ周りの乗客は、それまでは例えば LINE POP やツムツム、パズドラといったゲームや、Twitter や Facebook といった SNS、各種ニュースアプリを使っている人が多かった記憶があります。
あるタイミングから、Instagram のタイムラインを眺める人を見かける率がぐっと増えたのです。個人的体感としては2015年くらいだったでしょうか。
ギーク向けではない一般 web メディア、あるいはテレビのバラエティ番組や情報番組などでも、インスタグラムが取り上げられることが増えていきました。広告媒体として活用する企業も一気に増えました。
そして、私自身のインスタ投稿が滞り出したのも、ちょうどこの頃でした。
娘も小学生になり、子どもたちだけの時間も増え、常に親というか家族と一緒にいるわけではなくなった、ということが重なったというのもあるのですが。
Kevin & Mike in Tokyo / ケヴィンとマイク来日
上述の通り Instagram 上での投稿も散発的になっていたその頃。
2016年3月28日、三島さんから久しぶりにメールをいただきました。
なんと、Kevin と Mike が来日するというのです。
どうやら、日本国内のアントレプレナー(起業家)向けのクローズドイベントのようです。わたし、アントレプレナーでもなんでもないんですけど、いいのかな。。。
けど、せっかくなのでお言葉に甘えることにしました。そういう世界を覗き見ることができる機会もそうはないですし。
会場に写真まで飾っていただけることになりました。。。
Meeting Kevin & Mike in Person, Finally /
ついに Kevin と Mike に会う
2016年4月11日、東京のライカ銀座店にて、そのイベントは開催されました。17時20分頃現地到着、受付を済ませて中に入ります。なんか意識高い系(笑)な方々だらけで明らかに場違い感満載でしたが、まぁいいや、楽しみましょう。
17時50分頃、急に銀座店内のスタッフがあわただしくなりました。Kevin と Mike が黒塗りのワンボックスハイヤーで外に到着したようです。
店内に入ってきた2人は、まっさきに私のところにきてくれました。
Web 上の各種動画で見ていた通りの、そして、6年前からメールでやりとりしていた通りの、リアル億万長者になったあとも(笑)気さくで親切で茶目っ気があって、純真なギーク心を忘れない、けど立派なビジネスパーソンなお二人でした。
「やっとリアルで会えたね弘治!」
「というか Kevin って想像以上に背が高くてびっくりした(笑)」
「どう、弘治は最近どんな仕事してるの?」
「あっちこっち分刻みのスケジュールで引っ張り回されてお二人大変だったでしょう?」
「そういえばいつもインスタで見てる娘さんは元気?」
「来日してからどういうところを回ってきたの?」
「いやー、あの当時の弘治とのリモート共同作業は楽しかったし懐かしいよねぇ」
とかなんとか、他愛もない雑談であっという間の10分強が過ぎてしまいました。2人は続くトークイベントの準備のために上の階のスペースへ移動。
その後、2人の来日の特集コーナーを取材されていた NEWS ZERO のスタッフの方からインタビューを受けました。黎明期のインスタグラムについて、日本語化をボランティアで手伝っていた頃のエピソード、わたしからみた Kevin や Mike など、当時のインスタの中の人たちについて。
Public Talk with Japanese Entrepreneurs /
日本のアントレプレナーとのトークイベント
19時15分、招待されたアントレプレナーの皆さんを前に、予定通りトークイベントが始まりました。
イベント会場の壁には、Instagram の日本ユーザによる投稿が多数飾られ、ドリンク (FUGLEN TOKYO) や、ケータリングサービス (MOMOE GOHAN) も、そして会場に展示されている花 (Little Shop of Flowers) なども全て、インスタを活用されているお店/企業によるもの、ということでした。
司会者の方によると「このようにインスタグラム満載の環境の下、今回、日本の起業家の皆さんとお話しできる機会ができて本当に嬉しく思います」と。
Kevin と Mike と一緒に登壇されたのは、クービック (Coubic) の倉岡さん、そして every.tv の菅原さんでした。
逐次翻訳者付きのイベントで、発話者の言語に応じて英語→日本語、そして日本語→英語がスムーズに翻訳されていました。
Kevin と Mike が紹介され、2人にマイクが渡され「Hello - how are you guys?」と挨拶、拍手喝采の会場。続けて、インスタグラムについての概要や今までの経緯、これからの展望を2人が話される前に、会場にいる私を紹介してくれました。
なんか、今までに書いてきた事実と異なる箇所がありますが(笑)、だって2010年11月にこちらから手をあげて協力しただけですし、リアルで会うのもこの日が初めてですし。
けど、錚々たるアントレプレナーの皆さんの前で紹介していただいたことは、とても光栄ですし率直に嬉しかったです。いい思い出になりました。
Kevin、Mike、三島さん、市村さん、Wong さん、当日はお世話になりました。本当にありがとうございます。
帰宅後、Kevin と Mike の2人から、娘に向けたビデオメッセージも届きました。
お礼に、娘も私と一緒になって文章を考えて英語にして、小3娘の話す拙い英語のビデオメッセージを撮影し、2人に送り返しました。
また、イベント会場に展示していただいた写真は、後日 Kevin と Mike の厚意で、額装されて突然自宅に届けられるというサプライズもありました。
The Aftermath / その後
わたし自身はインスタグラムへの投稿もめっきり減り、せいぜい2ヶ月に1回程度に減ってしまいました。けど、まだ素朴なコミュニケーションツールだった 2010年〜2012年当時にインスタを通じて知り合いになった方々とは、今でも仲良くさせていただいています。
2018年9月25日、共同創業者である Kevin と Mike が Instagram を退社する、というニュースが世界を駆け巡りました。
すぐ Kevin にメッセージを送ったところ「Time for a new chapter!」と返事がありました。 Kevin と連絡をとったのは現時点ではこれが最後となりました。
2020年4月、ふたりが Rt.live という COVID-19 実効再生産数可視化サイトを立ち上げたことを知り、相変わらず軽やかなフットワークで活躍されているんだなぁ、と嬉しく思いました。
2021年3月、7月に上梓する本を執筆中、担当編集者から「インスタグラムの共同創業者にメールインタビューをお願いできないか?」と無茶振りをされ、ダメ元でコンタクトをとってみたところ、Mike が回答してくれました。
その本は、2021年7月7日に「シン・デジタル教育」という本となって出版されました。
子どもと親とディジタルテクノロジーとの関わり方という観点から、彼なりの考えを回答して、拙書の特別付録に掲載させてもらいました。Mike、むっちゃ忙しいやろうに、ほんまありがとう。
以上、特筆すべき内容では全くありませんでしたが(笑)、黎明期のインスタグラムにまつわる、極めて個人的な想い出話でした。
自分はオープンソースの世界のエンジニアですが、クローズドソースのアプリやサービス、しかも世界中の誰もが知るアプリ、にボランティアとして末席ながら開発に関わる、という、貴重な体験をさせてもらったことは本当に楽しかったです。
もし、これら一連の記事を読まれた方のなかに、ひとりでも興味深いと思って面白がってくれる方がいましたら、光栄です。
(了)