インスタグラム黎明期の極私的想い出 (7): good ol' days in 2011
これは「インスタグラム黎明期の極私的想い出 (6)」の続きです)
インスタグラム本を書かれたサラ・フライヤー (Sarah Frier) さんからインタビューを受けた時に提出した資料、および10年ほど前にインスタの中の人たちとやりとりしたメールなどを元に綴る昔話。
前回は、Kevin ないし Mike 自作の翻訳文言バージョン管理システム「Pidgin」がリリースされた直後(〜2011年1月14日頃)まで書きました。
7回目となる今回はその続きです。Pidgin 登場により中の開発者の方々との齟齬もほぼ解消し、書くことがないくらい(笑)スムーズに進んでいる時期のあれこれです。いちインスタグラムユーザとして最も楽しかった時期かもしれません。
Pidgin The Great / Pidgin のおかげでスムーズに
Pidgin が翻訳協力者に公開されたのが2011年1月14日、その後、実にスムーズに開発は進むようになりました。
中の人たちにとっては、それまでほぼ手作業で行っていた翻訳文言管理をシステマチックに行えるようになり、恐らくはビルド時の自動フローにも組み込めるようになったことで、アプリそのものの修正や機能追加により人的資源を割けるようになったというメリットがあったはずです。
そして翻訳担当者の人々にとっては、やるべき作業が明確化し、全てのデータがバージョン管理されたテキストとしてスマートに扱えるようになって煩雑さが解消しました。同時に、非エンジニアの翻訳担当者の人にとっても、cvs / svn / Mercurial / git など敷居の高い (?) コマンド群を使わなくても、バージョン管理システムの恩恵を受けつつ気軽に協力できるようになった、というメリットがあったはずです。
そして、翻訳担当者のうちプロパーなエンジニアにとっては、翻訳文言そのものは Pidgin 上でやりとりすればよくなったことにより、直接的な連絡は、より技術的なことに絞ることができるようになりました。
そのため、インスタグラムアプリそのものへの提案や(主にローカライズ / インターナショナライズに関する)技術的やりとり、そして Pidgin そのものに対する技術的なやりとり、をメールやメッセージングアプリなどで集中して行えるようになりました。
つまり、コミュニケーションの種類によってチャネルを分けることができ、ますます齟齬が少なくなっていったのです。
March 11, 2011, 14:46 / 2011年3月11日14時46分
そんな折、あの東日本大震災が発生しました。
午前中に子育て施設に娘と一緒に行き、おともだちとひとしきり遊んだのち持参した弁当を施設で食べ、午後に帰宅した直後でした。
ちょうどこの14時46分の数時間前から、Kevin と頻繁にメールのやりとりをしている最中でした。10時27分に私から送り、Kevin から10時37分に返事があり、上述の子育て施設から帰宅したあと14時2分に私から再びメールを送り、14時14分に再び Kevin から返事をもらったので、14時36分にさらにメールを送った直後のことでした。
被害は少なかったとはいえ、仕事部屋は書籍が散乱し、娘をなだめ、家族に連絡を取り、情報収集を始めている最中の15時1分に Kevin から再び返事が。
今後どうなるかわからないので、とりあえず一報だけ送っておきました。
Date: Thu, 10 Mar 2011 22:44:59 -0800
Message-ID: <AANLkTi=LcsfgaUbZw8+kgxWuR9Cy0v+LA+9BjkyuF2fi@mail.gmail.com>
Subject: Re: Thank you translators!
From: Mike Krieger <mikeyk@instagram.com>
To: "MATSUBAYASHI, 'Shaolin' Kohji" <shaolin@rhythmaning.org>
Cc: Kevin Systrom <kevin@instagram.com>, translate@instagr.am
Content-Type: text/plain; charset=ISO-8859-1
Hi Kohji,
Very glad to hear that you and your family are safe! Hope all of your loved
ones are ok as well.
Best,
Mike
Content-Type: text/plain; charset=us-ascii
Message-Id: <C19A1081-80A8-4C92-8283-84218AB786DB@instagram.com>
Cc: "MATSUBAYASHI, 'Shaolin' Kohji" <shaolin@rhythmaning.org>, "translate@instagr.am" <translate@instagr.am>
X-Mailer: iPhone Mail (8C148)
From: Kevin Systrom <kevin@instagram.com>
Subject: Re: Thank you translators!
Date: Fri, 11 Mar 2011 07:05:51 -0800
To: "MATSUBAYASHI, 'Shaolin' Kohji" <shaolin@rhythmaning.org>
Oh wow - I'm so sorry to hear that. I'm glad you're ok too. Keep safe!
Kevin
当時のインスタグラム上でも、多くのユーザが被害を投稿で共有したり、避難情報を共有したりされていた記憶があります。
わたし自身の投稿にも一部残っていました。
私のインスタつながりの方々の中にも、交通機関が麻痺した都心勤務で帰宅難民になり、意を決して夜半に青梅街道を徒歩で西へ進まれる方がいました。Twitter、Facebook、Foursquare、その他を通じて、その方々を自宅からサポートしたりした記憶があります。
Betagram 2.0.0
インスタグラム的には順風満帆となっていた2011年夏、マイクからこんなメールがクローズドメンバに届きました。2011年8月19日のことです。
Date: Fri, 19 Aug 2011 18:22:15 -0700
From: Mike Krieger <mikeyk@instagram.com>
To: Mike Krieger <mikeyk@instagram.com>
Message-ID: <E9E93AD7BB1D438C9D468FF1B54D348B@instagram.com>
Subject: Top-Secret Betagram coming your way
X-Mailer: sparrow 1.3.2 (build 814.60)
MIME-Version: 1.0
Content-Type: text/plain; charset="utf-8"
Content-Transfer-Encoding: quoted-printable
Content-Disposition: inline
Hey folks,
Just a heads up that you'll be getting a TestFlight email tonight with a
top secret Betagram that has some of the new camera & filter features
we've been working on and wanted to to open up to a couple of our testers
for feedback and early bug-finding.
Some very important things to know:
— We're keeping this very quiet for now, so please do not show the app
to anyone at all.
— The UI is still in progress, so the camera UI is currently a placeholder.
Please only install if you're okay with some rough edges.
— It's okay to post photos using the new filters
(just don't mention it in the comments if people ask, etc)
— Please let us know about any issues at all with it—your help is super
important in getting a solid release out.
Thanks! We're looking forward to your feedback,
--
Mike Krieger
Co-founder, Instagram
We're hiring! jobs@instagram.com
結局、このシークレットリリースは、2011年9月20日頃に Instagram 2.0.0 としてリリースされました。
この頃になると、日本語を含め各言語版の品質も相当こなれてきて、もはやローカライズに関する不平不満(あるいは好意的コメント)もみかけなくなってきました。単なるインスタグラムアプリとして徐々にユーザベースが増えていっている状態。
翻訳(やそれにまつわる技術的サポート)は、あくまで裏方仕事です。何も言われなくなった時に初めて、自分のやってきた / やっていることが認められた気分になります。
IG Posts around that time / 当時のインスタの世界
やりとりもスムーズになり、翻訳品質もこなれてきて、特筆すべきトピックがあまりないのがこの時期です(笑)
なので、当時のインスタがどんな世界観だったか、そして自分がどんな写真を投稿していたか(笑)、懐かしいのでいろいろ見てみました。
2011年当時のインスタグラムは、現在のインスタとはまるで異なる、ほのぼのした世界観でした。
「インスタ映え」なんていうコトバが生まれる前のインスタグラム。広告もない、動画もない、複数写真の一括投稿もない、スクエア(正方形)以外の写真も投稿できない、そんな時代のインスタグラムです。
日本ではまだまだ好きものしか使っていない時代でしたが、それでもすでに何百何千と like を受け取る人気インスタグラマー(のはしりのような方々)がいました。
そういえば、当時は "Popular" (ポピュラー) タブというものがありました。
いまでいう "Explore" に相当するものでしょうか。どういうアルゴリズムで表示される投稿を選出していたのか分かりませんが、「like 総数」「単位時間辺りの like 数」「フォロアー数」などを加味して計算していたのではないかと推測します。
自身の投稿がポピュラー入りすると、こんな通知が届いていました。
余談ですが、似たような UI のものとして SoundTracking というアプリもありましたね。こちらでは "Trending" というタブでした。
2015年にサービス終了してしまったのが残念ですが、当時は SoundTracking → Instagram → Twitter と連携して使っていた方が多かった記憶があります。
My IG Posts around that time / 当時の自分の投稿
あっとランダムに。当時の日常が懐かしいです。
自宅でリモート開発仕事しながら楽しい子育ての日々でした。
(May 30, 2011) She was in cranky mood yesterday - she had been in bad temper, had been angry with me somehow - but after she woke up this morning, she came to me and said "I'm sorry Papa I was hard on you yesterday..." - Now we are in good mood again :) / 昨日はなぜか終日ご機嫌斜めで私にあたったりしていた娘。今朝起きてきたら「ぱぱ、きのうはおこってごめんなさい」と言ってきました。というわけで無事に仲直り。
(Jul. 17, 2011) Her favourite contact - touching and feeling the big old tree
(Jul. 28, 2011) The lady tasting "nata de coco" yogurt juice - looks like she'll be a jughead when she grows up ;-) / まるで飲兵衛のようなポーズでナタデココジュースを飲む娘
(Sep. 5, 2011) FIELD GLASSES: one of the outtakes at the photo studio last Sunday - playing with a pair of binoculars / 昨日のオフショット。双眼鏡にやたらとご執心でした。
(Sep. 15, 2011) THE LETTER: to her dear classmate at the kindergarten - she needed about an hour to finish this last night / 幼稚園のお友達にあてた手紙。昨晩頑張って書きました。今朝渡すそうです。
... until the year 2012 comes / そして問題の2012年へ
そんなこんなでまったりと品質保守・改善を裏方として行う日々が平和に続き、純粋に投稿を楽しみ、世界中の投稿者の方々との交流を楽しむ、そんな日が続いていました。
翌年のあのニュースを目にし、そして徐々に変化が訪れるまでは。
(その8に続く)
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(便乗宣伝)
2021年7月7日に「シン・デジタル教育」という本を上梓しました。
本の中身については個人ブログ(主に音楽やオーディオ系)の方に書いています。
この本の特別付録として、インスタグラムの共同創業者 Mike Krieger 氏のインタビューが掲載されています(短いですが)。子どもと親とディジタルテクノロジーといった観点から、彼なりの考えを回答してもらいました。Mike、むっちゃ忙しいやろうに、ほんまありがとう。