インスタグラム黎明期の極私的想い出 (3): ひたすら対象文言を探し出す日々
これは「インスタグラム黎明期の極私的想い出 (2)」の続きです)
インスタグラム本を書かれたサラ・フライヤー (Sarah Frier) さんからインタビューを受けた時に提出した資料、および10年ほど前にインスタの中の人たちとやりとりしたメールなどを元に綴る昔話。
前回は、実際にインスタグラムアプリの日本語化作業が始まってからの3日間(〜2010年11月23日8時00分あたり)まで書きました。
今回はその続きです。実際にアプリがリリースされるところまで到達するでしょうか。。。(ここを書いている現在は不明)
Finding target sentences to get multilingualized /
国際化されるべき対象文字列をひたすら探す
インスタグラムアプリを日常的に使っていると、最初に Josh から Google ドキュメント形式 (!) で渡された、200箇所前後の Localizable.strings 文字列(既に対応する日本語文字列は作成済)以外にも、いろんな翻訳対象の文言が目につきます。
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例えば、アプリのメイン画面の下に表示されるタブバーのキャプション。これは、単に Josh や Mike が翻訳対象文字列として記載し忘れてただけですね。
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例えば、タイムライン表示時に、当該投稿がどのくらい前に投稿されたのかを表示している文字列。
2021年7月現在のインスタグラムアプリだと、こんな感じで表示されてますよね(英語表記になっているのは、わたしが現在 iPhone を英語モードで使っているからです)。
2010年当時のインスタグラムアプリでは、もっとミニマリズム的というか、極限まで文字列が短縮されていました。「11 hours ago」じゃなくて「11h」といったように。これも Mike と Josh の Localizable.strings への記載漏れですね。
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例えば、ロック画面やホーム画面の際に、プッシュ通知により表示される文字列。これらは、アプリ内部に持っている文字列ではなくて、インスタグラムのサーバ側が持っているもの。そして端末は送られてきた文字列をそのまま表示している、と類推できます。
それにしても、この iOS 4 の画面、なんとも懐かしいですね。
たった11年前なのに。
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例えば、「新規ユーザ登録画面」や「アカウント情報編集画面」。
わたしの記憶が正確でないことと、そして2010年当時の新規ユーザ登録画面 / アカウント情報編集画面のスクリーンショットが手元に残ってないので、実例をお見せできないのですが、この辺りの画面は、実は web サーバにアクセスしてそのページを表示しているだけだった記憶があります(アプリのバージョンによって異なるかも)。
例えばこのメールは、ちょっと時系列的にあとのものになりますが、最初のベータ版が出た翌日(2010年11月24日)に Mike に送ったものです。
Date: Wed, 24 Nov 2010 15:13:32 +0900
Message-ID: <k64ob7dzar.wl%shaolin@rhythmaning.org>
From: "MATSUBAYASHI, 'Shaolin' Kohji" <shaolin@rhythmaning.org>
To: Mike Krieger <mikeyk@instagr.am>, translate@instagr.am
Cc: "MATSUBAYASHI, 'Shaolin' Kohji" <shaolin@rhythmaning.org>
Subject: "Edit Profile" page (was Re: Instagram Japanese translation)
User-Agent: Wanderlust/2.15.6 (Almost Unreal) SEMI/1.14.6 (丸岡)
FLIM/1.14.9 (五条) APEL/10.8 Emacs/23.2 (i686-pc-linux-gnu)
MULE/6.0 (花散里)
Organization: Project Vine
MIME-Version: 1.0 (generated by SEMI 1.14.6 - "丸岡")
Content-Type: text/plain; charset=ISO-2022-JP
Hi,
At Tue, 23 Nov 2010 20:26:37 +0900,
MATSUBAYASHI, 'Shaolin' Kohji wrote:
>
> At Mon, 22 Nov 2010 21:17:19 -0800,
> Mike Krieger wrote:
> >
> > Let me know if you find anything else--thanks!
> > Mike
>
> I found yet another - everything on the "Edit Profile" page itself!
>
> First Name:
> Last Name:
> Email:
> Username:
> Phone Number:
> Gender:
> Male/Female
> Birthday:
> January..December
> optional
> Submit
I know there are exactly the same as the page on the website:
http://instagr.am/accounts/edit/
These are not inside the Instagram app, but on the instagr.am website.
So you'll need another way to provide translated strings for every user
from all around the world - such as detecting Language Settings on
each web browser (or iPhone web browsing engine) each user is using.
Anyway I'll provide here the Japanese translations for them,
in case you'll need localized version(s) of the "Edit Profile" page
in the future:
"First Name:" = "名";
"Last Name:" = "姓";
"Email:" = "メールアドレス:";
"Username:" = "ユーザ名:";
"Phone Number:" = "電話番号:";
"Gender:" = "性別";
"Male" = "男性";
"Female" = "女性";
"optional" = "答えたくない";
"Birthday:" = "誕生日:";
"January" = "1月";
"February" = "2月";
"March" = "3月";
"April" = "4月";
"May" = "5月";
"June" = "6月";
"July" = "7月";
"August" = "8月";
"September" = "9月";
"October" = "10月";
"November" = "11月";
"December" = "12月";
"Submit" = "送信";
Kohji
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そのほか、アプリ画面内に表示される文字列であっても、サーバ側から送られてきたものを表示しているケースがそこそこあります。
プログラムを書いたり、アプリケーションを作ったりした経験のない方にはピンと来ないかもしれませんが、今どきのアプリの多く(いや、ほぼ全てかな)は、ネットワークに接続されていることが前提になっています。
そして、アプリを動かしている際に画面に表示される文字や画像・映像などは、実はアプリの中に最初から全てを持っているのではなくて、アプリ操作中に裏でネットワーク越しに「サーバ」と呼ばれるコンピュータと通信をし、受け取った結果を表示しているものも多いのです。
Google Chrome、Safari、Firefox、Microsoft Edge といった、いわゆる「Web ブラウザ」を考えてもらうと分かりやすいかもしれません。アプリとしての Web ブラウザのメニュー項目、設定項目などの文字列は、手元のパソコンやスマホ上にあるアプリ内に埋め込まれていますが、ウィンドウ内に表示される Web ページに現れる文言は、Web サーバからそのつど取得し、受け取ったものを表示しているわけです。
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閑話休題。
そういった、抜け漏れた翻訳対象文字列を次々特定し、文脈(どの画面にある文字列か、どういう操作の時に現れる文字列か、など)をきちんとメモし、それらを Mike / Kevin / Josh にメールで「先回りして」伝えます。
頼まれもしてないのに(笑)
Date: Tue, 23 Nov 2010 17:20:30 +0900
Message-ID: <k6hbf8e9ip.wl%shaolin@rhythmaning.org>
From: "MATSUBAYASHI, 'Shaolin' Kohji" <shaolin@rhythmaning.org>
To: Mike Krieger <mikeyk@instagr.am>
Cc: "MATSUBAYASHI, 'Shaolin' Kohji" <shaolin@rhythmaning.org>
Subject: Re: Instagram Japanese translation
In-Reply-To: <AANLkTinrzsdrrufmrf8Z1YS-_0JfmOAw544csZx1TtDd@mail.gmail.com>
User-Agent: Wanderlust/2.15.6 (Almost Unreal) SEMI/1.14.6 (丸岡)
FLIM/1.14.9 (五条) APEL/10.8 Emacs/23.2
(i686-pc-linux-gnu) MULE/6.0 (花散里)
Organization: Project Vine
MIME-Version: 1.0 (generated by SEMI 1.14.6 - "丸岡")
Content-Type: text/plain; charset=ISO-2022-JP
At Mon, 22 Nov 2010 21:17:19 -0800,
Mike Krieger wrote:
>
> Let me know if you find anything else--thanks!
> Mike
How about "h", "d", and "w" that appear like
"2h" (this photo is posted 2 hours ago)
"3d" (this photo is posted 3 days ago)
"1w" (this photo is posted 1 week ago)
I've never seen "m" and "y" but I guess they may exist :)
And here's my translations:
"s" = "秒"
"m" = "分"
"h" = "時間"
"d" = "日"
"w" = "週"
"m" = "ヶ月"
"y" = "年"
Kohji
First Internal Beta build released /
開発者向けベータ版リリース
そうこうしているうちに、2010年11月23日(つまり、本稿その2〜その3で書いているのと同じ日!)、日本語文言が組み込まれた初のベータ版が Mike から共有されました。
残念でならないのは、この最初のベータ版を送ってもらった時のメール? メッセージ? が、手元に残っていないことです。
ただ、以下の通り、2010年11月23日15時02分45秒に撮ったスクリーンショットだけは残っているので、この日であることは間違いありません。
見るからにいろいろ不完全ですが、とにかくこの作業のスピード感、素晴らしいですね。一緒に作業したり協力していて、とても気持ちよく感じるポイントですね、エンジニア的には。
A few more needed before the official release /
正式リリースにはまだ作業が必要(だった)
結果的に、わたしが日本語版担当者に選ばれてからたった3日後に、とりあえず動く非公開バージョンができあがったことになります。
私はあるいみ、趣味の範疇で(しかしもちろん熱中し没頭して)外野から手伝っていただけですが、中の方々はもっと大変だったんじゃないでしょうか。
前回も書きましたが、サービスダウンしないようにサーバを監視したり、多言語化とは別にバグ修正を行う必要もあるし、機能追加のバージョンアップの作業もあるし、マーケティングだってしないといけないし、ベンチャーキャピタルとの打ち合わせだってあるだろうし。
しかも4人という限られた人数で。
ホント、彼らは寝る間も惜しんで日々活動し続けていたに違いありません。いま考えても感服です。
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これでほっと一安心。。。というわけもなく、太平洋を隔てての共同作業はまだまだ続きます。
(その4へ続く)
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(便乗宣伝)
2021年7月7日に「シン・デジタル教育」という本を上梓しました。
本の中身については個人ブログ(主に音楽やオーディオ系)の方に書いています。
この本の特別付録として、インスタグラムの共同創業者 Mike Krieger 氏のインタビューが掲載されています(短いですが)。子どもと親とディジタルテクノロジーといった観点から、彼なりの考えを回答してもらいました。Mike、むっちゃ忙しいやろうに、ほんまありがとう。