読書ノート|『死んだ山田と教室』金子玲介
どこかの教室でとったような写真が使われている表紙が目に止まった。手にとってみてあらすじを見てみると「教室のスピーカーから死んだ山田の声が聞こえた」なにそれ。すぐに買って帰って読んだ。めちゃめちゃおもしろかった!
確かに「教室のスピーカーから死んだ山田の声が聞こえ」る話だった。クラスの人気者だった山田が突然死んでしまうのだが、その数日後、教室のスピーカーから山田の声が聞こえてくる。これだけの情報だとホラーっぽいけど怖さは一切ない。男子高校生たちの会話がずっとくだらなくて、あほすぎて笑えてしまう。山田のスピーカーのことはクラスメイトと担任だけが知っていて、他の人がいないときだけ話すことになっているのだが、山田はクラスメイトの声を聞くことしかできないので、話しかけるときの合い言葉が定められている。この合い言葉が男子校すぎて、くだらなくて笑える。何を真剣に討論しているんだこの人たちは。他にも教室で裸で寝転がって日焼けしようとしたり、先生のものまねで盛り上がったり、男子校ってこんな感じなんだろうなと通ったことがなくても思えてしまうノリが詰め込まれているようでとても可笑しくて、教室に心がぐいぐい引き込まれた。彼らぐらいの年代の男子の「今」しか見えていないような感じは、とても暑苦しくて眩しい。
でも、くだらない話をしていても、ふとした瞬間に山田が死んでしまったことに気づいてしまう。見ることはできない山田に、クラスメイトが綺麗な夕焼けを一生懸命説明して、なんとか一緒に見ようとするシーンは、胸がきゅっと苦しくなった。文字で読んだ私にもちゃんと伝わったから、きっと山田も見ることができたと思う。しんみりしながらページをめくると、もうふざた会話が始まっていて愛おしい。
声は聞こえてくるし話すこともできる。でも山田は死んでいる。状況に疑問を持つ者も出てきたり、クラスメイトが知らなかった山田の一面が明らかになったりして、山田とまた話せて楽しい!だけではなくだんだんと切ない部分も見えてくる。山田はなぜ蘇ったのか、なぜ完全に消えていないのか。このままで良いのか。自分たちが卒業したらどうなるのか。このままにするにしてもしないにしても、いったいどうするのか。山田のクラスメイトたちと一緒に考える。どこに着地するのかわからなくなって、ひたすら読み進めた。悲しい、でも、彼らを見届けたい。そう思いながらたどり着いたラストは真夏の日差しのようにギラギラと熱くて、苦しくて悲しいのになぜかとても爽やかだった。
部活に打ち込まなくても、恋愛をしていなくても、彼らが過ごしたのは間違いなく青春だ、と思った。
心のエネルギーをチャージしたい大人におすすめ。
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