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まさかの語り手。めっちゃクセになります|『生殖記』朝井リョウ

こんな小説初めて読みました。

『生殖記』朝井リョウ

主人公は家電メーカー勤務の尚成。そんな「ヒトのオス個体」について、彼の中にいるとある存在が語っている小説です。

視点、そこか!!

尚成は同僚と家電量販店にいるシーンから始まるのですが、彼の言動がずっと解説されているよう。語り手は彼の近くにいそうで、読み始めてしばらくはこの視点は誰なんだろうかと不思議でした。

視点がわかった時は、そこかー!!そんな小説ある??というびっくり。そいつ(語り手のことなんて呼んだらいいのかわからないからそいつでいきます)は、どうやらいろんな種類の生物を渡り歩いているらしい。

その長い長い時間軸の中で、人間が作った世界と、それに対して自分が担当している個体はこんな感じ方をしている、を淡々と観察していて、実況解説のように語り続けます。そいつが人間に対して語る中で

「生存では飽き足らず、構築や幸福度の域で頭を悩ませるこの圧倒的余裕」

という言葉があります。他の生物と人間の違いを客観的に説明しながらも人間がその違いを特別だと思っていることもどこか馬鹿にしているような、そいつの人間に対する目線が伝わってくる一文。

そいつの話し方は軽快で、視点のスケールが大きくて、その中を自由に動き回ってる感じがなんだかクセになって、読んでいてとてもおもしろいんです。人間がLGBTの話を始めたようです、そういえばミジンコの生殖ってさ、みたいな。

どこに連れて行かれるんだ

軽快な喋り方ながらも、尚成の周りで起こる出来事から人間社会全体の話に派生していく壮大さにも驚かされます。人間ひとりひとりが特別なんじゃなくて、個体差はあるけど種全体の特徴はこんなとこあるよね、ってちょっと遠くにいるような客観的な視点で語られていて、ひょっとして人間って変なんだろうかと思えてきて恐ろしい。政治とかジェンダーとか組織とか、この時代が全部詰まっちゃってるんじゃないかと思うぐらい深い話がぽんぽん展開されていきます。なんかぞわぞわするかも?って思いながらどんどんいろんなところに連れて行かれて、気づいたら読み終わってるという不思議な読了感でした。

これを書いた朝井リョウさん、自分と同じ人間だと思えない。

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