「金」にまつわる曲3選―「あぶく銭」「金曜日」「黄金」の柔らかなカオス
これまでに、「雨を感じる曲3選」「3拍子がクセになる曲3選」を取りあげてきましたが、さいきんは、この「曲3選」シリーズをあれこれ空想しているときがいちばん楽しいかもしれません。
「過去に聴いていたが、近ごろはあまり聴いていない曲」を掘り起こすのに絶好で、曲とともに、いろいろな思い出もよみがえってきます。
さて、今回は、「金」にまつわる曲をテーマに選んでみようとおもいます。
1曲目は、こちら。キングクリムゾンの「イージー・マネー」。
「金」とだけ書いてあって、それを「きん」と読むか「かね」と読むか。後者を選んだひとは、もしかすると、お金にたいする執着が強いのかもしれません(?)。
収録されているアルバムは、1973年の『太陽と戦慄』。バンドリーダーであるロバート・フリップは、前年にすでにバンドの解散を考えていましたが、イエスのドラマー、ビル・ブルーフォードなど新しいメンバーを引きいれてこの一枚を制作しました。
同じ年に、こちらも有名なプログレバンドであるピンクフロイドが、名盤『狂気』において「マネー」という曲を発表しています。
偶然にして奇跡的な共鳴。しかし、ピンクフロイドの曲があきらかに拝金主義への批判を歌っているのにたいし、キングクリムゾンの「イージー・マネー」は、歌詞をみるだけではなんことやらさっぱり。
でも、いいんです。ステレオ効果を生かしたイントロの、「ぺちゃ、ぺちゃ」という謎の水音。そして、スキャットともあるいはマントラともとれる、やはり謎めいた言葉。
このはじまりのイントロだけで、ウィスキーが3杯はくいっと飲めてしまう一曲です。
つづいて、2曲目。セロニアス・モンクとソニー・ロリンズの「13日の金曜日」。
レコードがリリースされたのは1956年ですが、この曲の録音じたいは1953年です。作曲はモンクですが、アルバムの演奏時間を埋めるために、レコーディングセッションの最中にスタジオで書かれたという話があります。
レーベルはプレスティッジ。こののち、モンクはリバーサイドというレコード会社と契約を結びますが、その端境期にあるアルバムです。
モンクにしてもロリンズにしても、1956年にそれぞれ、『ブリリアント・コーナーズ』『サキソフォン・コロッサス』という歴史的な一枚を発表することになりますが、このときの録音は、花が開花をむかえる直前のような、抑圧されたエネルギーを感じさせます。
なお、もし「金曜日」をテーマに邦楽から選ぶなら、ドリカムの「決戦は金曜日」一択ですね。
そして、3曲目。スガシカオの「黄金の月」。
スガシカオというと、NHKの「プロフェッショナル」のテーマソングである「プログレス」や、作曲を手がけたSMAPの「夜空ノムコウ」などのポップスを思いうかべるひとも多いかもしれません。
ですが、彼の本領はどこまでも「ファンク」にあり、あまり日本人にはなじみのないファンクのリズムを、絶妙にポップスに昇華させている貴重なアーティストでもあります。
「黄金の月」は、デビューアルバムの『Clover』(1997年)に収録されています。
作家の村上春樹が、『意味がなければスイングはない』という音楽についてのエッセイ集を発表していますが、そこに取りあげられている日本のミュージシャンは、じつは、このスガシカオただひとりだけです。
そのエッセイのタイトルは、ずばり「スガシカオの柔らかなカオス」。ここで「黄金の月」の歌詞の分析も行われています。
気になるかたは、ぜひご一読ください。