破産ブログ第2話:コロナでの事業転換とキャッシュアウトの危機
「なぜZEPPELINは破産したのか?」についての第2話です。前回の第1話では、破産の引き金となったEC事業への事業転換を決定する『直前期』の話を書きました。
(もし第1話をお読みになっていない方は先に下の「なぜZEPPELINは破産したのか?」をお読みいただければと思います↓↓)
そして、今回の第2話は、コロナでの「事業転換」についてとその後のキャッシュアウトの危機について書き綴りたいと思います。
下記が今回のブログの流れです。
第2話:コロナでの事業転換とキャッシュアウトの危機
1:コロナ拡大と受託事業からの転換
2:AR技術を利用したEC事業への全リソース投下
3:キャッシュアウトの危機と再リストラ
4:資金調達と事業提携の兆し
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1:コロナ拡大と受託事業からの転換
前回の第1話では、ZEPPELINの創業時からスタートし、2020年3月期に私が体験した創業以来の経営危機に瀕して行った「リストラ」と、その後の経営努力により年度末には売上を大きく伸ばした話をお送りしました。
今回は、2020年度の売上が確定してきた2020年3月の中頃からスタートします。
2020年3月時点では、ZEPPELINは前年度から売上が倍増し、利益も十分に出て、社員数もドンドン増加している状態でした。わたしをはじめとして、半年前にどん底の中でリストラをしていたことが嘘のように感じられました。
しかし、社会情勢はわたしたちと異なりました。
2020年3月下旬頃にもなると、世界中で新型コロナウイルスが感染拡大し、コロナの不安を現実的に感じるようになりました。
当時私が、通勤途中でよくみていたニュースアプリ内では、「ニューヨークの感染拡大の様子」の動画が特集されていました。
動画では、普段なら人が行き交うはずのマンハッタンから全ての人が途絶えた様子と、飲食店や学校などが閉鎖された様子が映し出されていました。
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4月に入り首都圏に緊急事態宣言下に発出されると、動画で見たニューヨークの様子が東京でもみられるようになりました。
つい何週間か前までは、息が詰まる程いたはずの人の姿が、駅や街中から消え、無人の閑散とした表参道通りを目の当たりにしました。
わたしは、これまで経験したことがない現実に直面し、「ほぼ外に出られない中、対面営業が主体の受託事業が危機に陥るのではないか?」と考えるようになります。
あの頃から1年以上経過した今から、改めて当時を振り返ってみても、2020年の4〜5月に緊急事態宣言が発出された際には、渋谷、新宿、原宿といったオフィス密集地、商業地域から多くの人がいなくなりました。
代わりに家の中での生活を強いられ、ステイホームという言葉が世界中を飛び交い、外には出られないようになっていました
また、実店舗や対面営業で売上をあげる業態の企業は大幅な打撃をうけ、家に籠る生活が何日も続くことによる人々の精神的ストレスも高くなっていることが、コロナ感染の増加や恐怖とともに、連日のようにニュースで取り上げられていました。
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一方で、2020年4月頃のZEPPELINには、社内の技術研究として進められていた最先端のAR技術がありました。
様々な試行錯誤の結果、完成したデモ用のARアプリは、スマホの画面を通して手軽に非日常を体験することができるというものでした。
(※ AR技術と広告利用の可能性を示すためのデモ動画↓)
わたしは、コロナ感染者が拡大する半年以上前からAR技術を活用した事業創造に取り組んでいました。すでに海外ではARを使った広告展開の事例もあり、AR広告事業として育てていく計画を立てていました。
ARを活用すれば、コロナによって家から出られない人達が、家の中にいながらでも「街中でショッピングするように」楽しく買い物ができる。
当初の計画こそAR技術の活用先を広告事業としていましたが、コロナという情勢にはEC事業を活用先にするのが良いのではないか。
このような技術と社会課題を結びつけた意義のある事業が求められているのではないかと考えました。
とはいえ、実際のニーズはどれほどあるのかわかりません。
そこで、すでに社内で完成しているAR広告のプロトタイプを活用したEC事業の可能性を探るべく、プロダクトの仮説検証を進めました。
同時に、知り合いや取引のあった大手企業の担当者・役員に事業案についてのヒアリング・ディスカッションを行ないました。
検証やヒアリングを進めていくと、過去に何度も失敗してきた新規事業とは違ったとても良い反応を得ることができたのです。
私は、「これは成功できる」という考えから、当時アルバイトなども含め80名の社員を抱えているにも関わらず、無謀にも2020年4月より受託事業を完全ストップさせ、ARを活用したEC事業へ舵を切ることを判断しました。
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2:AR技術を利用したEC事業への全リソースを投下
今冷静になって振り返れば、80名もの社員を抱えた状態で受託事業をストップさせる時点で、経営危機につながる可能性があるのは明らかです。
しかし、前年度の業績拡大の勢いでキャッシュフローが伸びていたことに加え、コロナ拡大によって常に緊張感に追われた日々の中で、「何か革新的なことをやらないといけない」という焦りと、「この事業を飛び立たせることができる」という盲目的な想いがわたしを支配し、ただひたすらに突っ走っていました。
EC事業へ舵を切ってからまず、事業そのものと言ってよいプロダクト(iOS / Android アプリ)の開発に着手しました。
開発するのは、AR技術を使った様々な商品を閲覧できるシステムと、商品を買うことができるECシステムです。
AR技術はこれまで開発してきたものがありましたが、ECのシステム部分はまだ何も着手していませんでした。にもかかわらず、1から自前で開発を行うという判断をしました。
売上が何もない状態で、ECのシステムを1から作るというのは、狂気そのものです。
しかしながら、なまじこれまでの15年間の受託事業の経験の中で、クライアント向けに多くのシステムを開発してきた経験があったこと。
加えて、「クライアントがいない自分たち向けのシステムであれば、これまで多くの時間を割いてきたMTGや資料作成を減らし、本質的な意思決定に集中できるため、短期間で開発できる。」という傲慢な自信のもとに進めていきました。
その後、自信は容赦無く崩れ落ち、なかなか開発が進まぬままに時が過ぎていきます。
これは、AR技術は新しい技術であるため、システムの設計や表現の模索に時間がかかる上に、システム全体が通常のECシステムよりも複雑になったことで工数が大きく増加したことが原因です。
増加した工数に対処するべく、開発プロセスの高速化のためのエンジニア要員の追加採用と、EC事業に必要な人材獲得のために、積極的に採用を行ないました。
積極的に採用を行なったことによって、2020年の5月末には100名近くまで社員が増えました。
全社の売上がないままに、プロダクトの利用者数増加のために赤字覚悟で積極投資を行います。
結果として、人件費や関連費が大きく増加し、さらに様々な施策を行なったことによって、コストが嵩んでいき、月に7000万円を超える支出まで膨らみました。
この支出増が引き金となり、2019年に経験したキャッシュアウトの危機から1年も経過しないうちに再度キャッシュアウトの危機に陥ることになったのです。
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3:キャッシュアウトの危機と再リストラ
2020年4月時点では、前年度の売上から得られた利益が、キャッシュベースで1億4000万円ほどありました。
しかし、5月には月のコストが7000万円を超えるレベルになったことであっという間にキャッシュがなくなっていきます。
このままでは3ヶ月も持たずにキャッシュアウトしてしまうために、前のリストラから1年も経過しないうちに、再度リストラを行うことになります。
前回は40名いた社員を半数まで減らすリストラでしたが、今回は100名近くいる社員を一気に30名近くまで減らさなければならず、より規模が大きなリストラです。
わたしは、前年度のリストラの経験があったため、実務面では比較的スムーズにリストラを始めることができましたが、100名を30名まで減らすとなると、毎日誰かが辞めていくような状況です。
わたしや主軸社員がリストラの対象者に声をかけ、MTGルームへいき、そこでリストラを告げるということが毎日続きます。
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2020年の6月のある日、リストラを進めている中で、突然営業部署の社員が大声を上げ、罵りながらわたしに襲いかかってくるということが起こりました。
オフィス全体が騒然となり、その場にいた社員は凍りつきました。が、しかし、今となって振り返ればこのようなことが起きるのも無理のないことだと思います。
ただでさえ、新型コロナウイルスの感染拡大で社会的な不安やストレスが大きく増大している中で、会社を長年支え続けてきた受託事業から新しいEC事業へ転換したのです。
この転換によって、多くの社員が振り回される日々になり、更なる負荷がかかります。多くの社員がこのような様々な負担を受けているのを理不尽に感じ、状況を見かねて怒りが頂点に達したためこのようなことが起こりました。
事業転換から2ヶ月近くの間溜まっていた社員のストレスが、一気に爆発しように感じました。
襲いかかってきた社員とは一緒に会社の外に出て、時間をかけて丁寧に話をし、その社員には会社を辞めてもらうことを受け入れてもらいました。
オフィスに戻ると社員は凍りついたまま厳しい表情をしています。誰もが大きなストレスを抱えていました。
毎日誰かが辞めていき、EC事業がうまくいくかも分からない、膨れ上がっていくストレスをなくしたいですが、以前の事業はストップし、EC事業で全社が動いています。今更止めることも戻ることもできない状況でした。
残念ながら、社内の惨状に十分な対処を行う余裕はもうありませんでした。なんとしても会社を継続しEC事業を立ち上げるべく、キャッシュの流出を止めるためにリストラを続けなければいけません。
結果として、100名の社員を30名まで減らすのに、2020年5月から7月まで、およそ3ヶ月間かかりました。
この間は、日に日にキャッシュアウトが迫っていることによるストレスと、日々誰かが辞めていくことによるストレスとで、残された社員もわたしも精神的に押し潰されそうな毎日を送っていました。
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極限に近いストレスの中ではあるものの、どうにかプロダクトを完成させ売上を増やさなければなりません。そのため、土日も休まず、朝は9時から夜は2時ぐらいまで働く毎日が続きました。
2020年の8月頃にもなると、前年度のリストラと同じような現象が起こりました。急ピッチで事業を立ち上げることに対して、同じレベルのマインドと素早い意思疎通ができるメンバーのみになったことで、コミュニケーションの速度が素早くなりました。
加えてEC事業への事業転換のチャレンジ精神を持った社員のみが残ったことにより、戦える組織になってきました。
キャッシュアウトの危機は、リストラを進めることでどうにか回避することができました。
このリストラによって、100名近くいた社員が30名まで減り、あらゆる経費もカットできました、ですが依然として毎月のコストは3000万円近くかかり続ける計算でした。
いまだに売上の見通しが立たないため、このままでは約5ヶ月後にはキャッシュアウトする予測となりました。
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4:資金調達と事業提携の兆し
EC事業への転換を決断した頃から、事業の立ち上げに大きな資金が必要であることが明確だったので、取引先の銀行へ追加融資の相談を進めていました。
2020年4月頃に銀行へ相談した際には、前年度の売上によるキャッシュ(1億4000万円ほど)がまだ残っていたために、銀行からは「しばらく様子を見ましょう」という返事でした。
ですが、5月後半にもなるとエンジニアの追加採用などの経費によってキャッシュがどんどん溶けていきました。そのため、キャッシュアウトの危機を抜け出すため、リストラと並行して銀行への追加融資をお願いしました。
このころ、全国規模になったコロナに対する緊急事態宣言を受けて、国の経済支援政策により、中小企業をはじめとしてコロナでダメージを受けている企業への資金繰り支援が活発になります。
ZEPPELINは創業以来15年間に渡って、一度も銀行融資の返済を遅延したことがなく、地道ではあったものの、15年間継続して成長してきた実績があったこと。
加えて、国が行う企業への「資金繰り支援」の一環で、融資を受けやすい環境があったこと。
そしてなにより、前年度の大幅な売上増の決算書があったこと。
これら複数の背景によって、2020年7月中旬頃に、幸か不幸か、これまで付き合いのある銀行や新しい銀行から合計で2億円以上を借りることができたのです。
EC事業は、過去に取引のあった大企業の顧客へ声かけをしていたことが実を結び、誰もが知っている有名企業とのEC事業提携が始まろうとしていました。
融資をお願いするのにあたり、銀行の方からもEC事業転換への理解もいただき、融資資金の使途をご理解していただくことができたのです。
月に3000万円が出血し続けていましたが、この追加融資によってひとまず少しは生き延びることができるようになりました。
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リストラから少し時間が経ち、追加融資によってキャッシュアウトの危機が遠のいたことにより、組織内のムードも少し明るくなり、大手企業との提携も芽が出始めていたことから「ここからなんとか盛り返せるのではないか」という雰囲気になってきます。
そして、残ったメンバー達から「本当はずっと新しい事業をやりたかった。今が一番楽しい!」という声も上がり、この極限状態でも残ってくれているメンバーと一緒に危機を乗り越えている感覚が、わたしの中に生まれてきました
わたしが15年間ZEPPELINを経営する中で、何度も新規事業への投資と撤退を繰り返してきました。今回は過去の取り組みと比較しても大きな方向転換となりました。
今回のEC事業挑戦に対する周囲の反発と、キャッシュアウトへの恐怖心によってこの頃のわたしはかなり限界に近い状態でした。
しかし、今回のリストラ後に残ったメンバーから「今が一番楽しい!」と言われたことによって、少しの明るい兆しを感じることもできました。
その兆しは、もう抜け出せないのではないかというぐらい闇が深くなった長いトンネルを、ようやく抜け出せるのではと思えるような強い光のように感じられました。
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しかしながら、事業の立ち上げは、思っているほど甘くはありません。
2020年8月中旬以降、うまくいくと考えていた頼みの綱の大手企業との提携が次々と失敗したことによって、再度キャッシュアウトの危機が迫ります。
大企業連携の道を失い、自分たちのみで事業立ち上げを行わなければならず、EC事業をピボット(方針変更)するという事態になっていくことになり、更なる混乱へと突き進んでいくのです。
当時は、100名を30名まで減らしたリストラと、ずっと側で横たわっているキャッシュアウトの危機に精神的にも肉体的にもボロボロになっていましたが、まさかここから更なる極限状態に向かっていくとは思いも寄りませんでした。
ここから、翌年度破産する2021年7月まで、この極限状態がさらに「1年」近く続いていきます。
次回は「大手企業との連携失敗と事業ピボット」について書き綴りたいと思います。
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プロローグ:ZEPPELIN創業とその後の15年間
①:大規模リストラとそこからの大逆転
②:コロナでの事業転換とキャッシュアウトの危機
③:大企業との提携失敗と事業ピボット
④:VCからの資金調達失敗
⑤:クラウドファンディングの失敗と破産申告