カガヤの名盤探訪 #3 - フィッシュマンズ『ORANGE』
名盤探訪シリーズ、久しぶりの更新です。
今回はフィッシュマンズの4thアルバム『ORANGE』について書こうと思う。
つい先日フィッシュマンズのドキュメンタリー映画『映画:フィッシュマンズ』を観たこと、公開に向けて個人的にフィッシュマンズ月間的なことをしていたこともあり、最近は気が付くとフィッシュマンズを聴いているという状態だ。
4thアルバム『ORANGE』は、名曲「いかれたBaby」収録の前作『Neo Yankee's Holiday』と翌作の金字塔アルバム『空中キャンプ』に挟まれ、なんとなく影の薄い作品だ。
一般的なフィッシュマンズ評としては『空中キャンプ』、あるいはラストアルバム『宇宙 日本 世田谷』がキャリア中の名作に挙げられることが殆どなのだが、僕はこの『ORANGE』、かなり好き。
フィッシュマンズで好きなアルバムランキングを作るとしたら『空中キャンプ』と『ORANGE』が同率1位かな。
確かこのアルバムを初めて聴いたのは去年の冬あたり、大学の卒業研究に勤しんでいた頃だと思う。それまでいわゆる"世田谷三部作"をだけを聴いてそれなりな感じにフィッシュマンズを好きだった自分が、もう一段階フィッシュマンズにのめり込むきっかけになった。
世田谷三部作を聴いて持っていた「音の作り込みがすごいバンド」という印象が、「めちゃめちゃいい曲のバンド」に変わった瞬間でもあった。
『ORANGE』は前作『Neo Yankee's Holiday』までのわりと明るくてフィジカル感のあるフィッシュマンズと、次作『空中キャンプ』以降の唯一無二の音世界を構築するフィッシュマンズの成分がちょうどいい塩梅に混ざっているアルバムだと思う。
基本は前半の「忘れちゃうひととき」「MY LIFE」「MELODY」あたりのライブ感のある楽曲がアルバムの雰囲気をリードしているものの、ラストトラック「夜の想い」などでは、ちらほら『空中キャンプ』以降のフィッシュマンズも見え隠れする。
『空中キャンプ』『LONG SEASON』『宇宙 日本 世田谷』は紛れもない名盤なのだが、正直なところ聴くのに少しばかり気力が必要だ。作品の持つエネルギーがとてつもなすぎて、個人的にしょちゅうは聴けないという感じである。
これは、ビートルズでいうところの『Abbey Road』や『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』は額に入れて飾ってる名作だけどついつい毎日聴いてしまうのは『Rubber Soul』という現象に似ている。というか全く同じだ。『Rubber Soul』もまた、アイドルバンドであったビートルズがより音楽志向になっていく過渡期のアルバムである。
『Rubber Soul』同様、『ORANGE』はフィッシュマンズビギナーに優しい入門編的アルバムでもあるのだ。
パっと聴いてオシャレな印象の曲も多く(意外と他のアルバムには少ない)、シティポップや渋谷系が好きな人にもフィッシュマンズワールドの玄関口として気軽にレコメンドできる作品だと思う。アルバム全体の尺も40分と比較的短く、すっきりしていてかなり聴きやすい。
前述した映画だったか他のメディアだったか忘れちゃったが、Vo佐藤伸治曰く、タイトルの"ORANGE"は果物のオレンジではなく夕暮れのオレンジだという。
フィッシュマンズの楽曲に「夏」「夕暮れ」というモチーフはよく現れる(気がする)が、『ORANGE』はそのイメージを最も顕著に感じるアルバムだと思う。このオレンジベタ塗りのジャケットにもそれは表れている。
サマーサンセット、オレンジデイズ。これも僕が『ORANGE』を好きな理由の一つだ。
近頃『Neo Yankee's Holiday』までの3作がアナログ化されるらしいが、個人的にはこの『ORANGE』も早くアナログでリリースしてほしいところ。まあリマスターでこの3作をアナログ化してくれるだけで感謝(驚)。
フィッシュマンズを聴いたことがない、ファンがコアすぎて聴き始めにくいといった人も、まずは『ORANGE』からフィッシュマンズの音楽に触れてみてはどうだろうか。
これは名盤。