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#239 システム開発の営業におけるコスト計算の難しさを考える

こんにちは。ITベンチャーエンジニアのこへいです。いかがお過ごしでしょうか。

先日、木下斉さんのジブン株式会社ビジネススクールの2024年10月の5時限目の「営業の真髄とはなにか」の放送を聞いて考えたことをこちらのnoteで述べました。

10月のビジネススクールの講義はこちら。

木下さんを始め、5時限目の講師のみなさんが営業にも経営にも数字で考える力が必要だ!とおっしゃっていました。
受託のシステム開発では、パッケージ商品や既存の商品を売るのとは異なり、営業活動は要件定義と見積もりがセットで行われます。そのために数字で考えることが難しい側面があります。

今日は受託のシステム開発における、コスト計算が難しい理由と、そのためにSIerやプロジェクトマネージャーの存在が大きいという話です。


◯システム開発のコストはほぼ人件費だが、その内訳が複雑

システム開発の原価や販管費のほとんどは人件費です。その内訳を非エンジニアである営業が把握するのは難しい側面があります。その理由はざっと下記の通りです。

1. 人件費の複雑な構成
システム開発の人件費には、開発者だけでなく、プロジェクトマネージャー、デザイナー、テスターなど多くの役割が関わります。各役割の給与や工数の割り振りが異なるため、総額を把握するだけでなく、どの工程にどれだけの人件費がかかっているかを明確にするのが難しいです。
また、各メンバーのスキルレベルや経験によって、同じ役割でも人件費が異なります。これも見積もりを複雑にする要因です。

2. 開発プロセスの非定型性
システム開発は「プログラムを1つ作る」といっても、企画、設計、実装、テスト、デプロイ、運用と多段階のプロセスを経ます。さらに、途中で要件変更が入ることもあり、予定通りのスケジュールで進められないケースが多いです。
そのため、システムの開発費を把握するには、開発の流れやプロセス全体の理解が不可欠です。

3. 進捗管理と工数管理の難しさ
人件費の計算には、各メンバーの工数が必要ですが、工数管理には課題があります。特にアジャイル開発のように柔軟な進捗管理が行われる場合、開発状況やスプリントごとのタスク消化具合に応じて工数が変わるため、正確な計算が困難です。
進捗管理が難しいと、どれだけの人件費が投入されたかも正確に把握できないため、利益の見積もりに誤差が生じます。

4. 技術的な理解が求められるため
システム開発では、技術的な要件やプロジェクトの難易度によって工数が大きく変わります。例えば、ある機能の実装にどれだけの時間と人員が必要かを判断するには、非エンジニアでもある程度の技術的な理解が必要です。しかし、非エンジニアにはその判断が難しく、実際にかかる人件費の見積もりが困難になります。

5. 間接費の割合の把握が難しい
システム開発においても、直接的な人件費以外に間接的なコストが発生します。例えば、開発に使うインフラコストや管理者の給与、また会議や教育研修なども間接費に含まれます。これらは明確に分けられない場合が多いため、総コストの見積もりが難しくなります。

以上の理由から、システム開発における人件費の内訳やコスト構造の理解は、開発プロセスと技術的な知識が不足していると困難です。
営業活動においてこれらのコスト構造を理解せずに要件と金額を決めてしまうと、売上よりもコストの方が大きいということが起きてしまいます。

◯受託開発では顧客やプロジェクトごとの差が大きい

受託開発では、顧客やプロジェクトごとの差が大きくなります。
商品の登録という業務の実現を考えた時に、同じ業界であっても顧客によって業務フローや必要な業務が異なり、過去に同様の機能を実現したことがあったとしてもかかるコストは全く違うということがよくあります。そのため、顧客の要求を機能に落とし込めるレベルの解像度を持っていないとコストを正確に見積もることは難しいです。

顧客の熱量や依頼能力によって必要な調整や説明コストが変わってくることも考慮が必要です。お金は払ってあとは丸投げという場合は、依頼を断ることも検討した方が良いくらいです。

また、案件の規模が大きくなると、規模が小さかった時には起きなかった問題が起きます。規模が大きいと、要件定義の期間で要件が決まらないなど次フェーズへの持ち越し、進捗の遅れのリカバリー、大量のドキュメントの修正など、規模が小さい場合には誰かがハードワークでカバー出来ていたようなことも、マネジメント出来ないと炎上するほどの影響に繋がります。

これらの事象は教科書的に共有されたとしても、肌触り感がないと迅速に対応することは難しいです。そのため、経験したことがある人が対応するということが繰り返されて、個人にノウハウが溜まりやすい傾向が強いように感じます。
そのため、どんなメンバーがアサインされるかによって、かかるコストが全然違うということになり得るのです。



これらの要因によって、特にエンタープライズ向けの大規模な受託のシステム開発ではコスト計算が非常に難しいという特徴があります。
(システム開発以外の受託ビジネスでも同様かと思います。)
そのため、プロジェクトのリスクヘッジのノウハウが蓄積されているSIerや、凄腕のプロジェクトマネージャーの存在が大きいのです。

営業時のコスト計算の精度を上げるには、組織や個人のプロジェクト管理能力を向上させることが必要です。

AIの進化によってシステム開発のコストは今後どんどん下がっていきます。そのため、軽微なものからシステム会社への外注をやめてAIエンジニアを採用し内製化を進める動きが強くなることも予想されています。しかし、規模の大きなシステムは、複雑な業務システムの要件を定義しプロジェクトを進める能力がなくては、AIに適切な命令を出すこともできないため、すぐにAIに置き換えられるということはないと考えています。

というこで、今回は受託のシステム開発の営業活動における、コスト計算が難しい理由について考えました。きちんと利益をだすためには、営業担当に任せるのではなく、プロジェクトマネージャーやエンジニアが営業活動に積極的に参加していく必要がありますね。

最後までお読みいただきありがとうございました。



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