第7回毎月短歌/自由詠部門
【第7回毎月短歌/一首単作】
お待たせいたしました、初めて選者となり投稿数に圧倒された湖春です。
各部門から「一席~三席・佳作(三首)」のご紹介と、湖春目線の評を書かせていただきました。一席のみ、乗り鉄らしく私の好きな電車名をつけております。書いているうちに楽しくなり、ドキュメント6枚になってしまったので、部門ごとに掲載することとしました。※敬称略です。
〇自由詠部門(投稿総数/131首)
一席(ラピート賞)
防波堤だったのでしょう月を見るためにあなたが上げる前髪/未知
撃ち抜かれました。
前髪を伸ばしている人の中には「他者の視線を避ける、自分を守る盾」にしている方がいる、というのは知っていたのですが、その防波堤をそっとあげて(心理的ガードを外して)見るのが、月。いま隣にいる人ではなく、月というところに二人のまだ始まっていない関係性が垣間見えて、その二人を優しい月明かりが見守っている様子が、とても素敵でした。前髪を上げてまで見たくなるような月、主体がいつかその月になれるといいな、そう思いました。
*ラピートは、南海電鉄:関西空港まで乗り入れている特急です。端正なフォルム、特にちょっと斜め横から見た時の男前さが大好きで、この歌の前髪を上げた横顔を思わせます(私だけ?)画像は南海電鉄様公式HPより。
二席
アンブシュアはほほえむかたち 朝露の花壇の横になんども立った/石村まい
アンブシュア、ググりました(管楽器の演奏者が、楽器を吹くときの口の形およびその機能)
画像を見て「ほほえむかたち」の意味が分かり、そこから下の句の光景が一気に広がっていきました。吹奏楽の朝練の光景でしょうか、「なんども立った」に凛とした主体が浮かび、花壇に咲いている花と一体化していくような美しさがありました。まだ誰もいない校庭に、主体の練習音だけが響き、一日の始まりを告げる合図のような、心地良い緊張感が伝わってくるところも好きです。
三席
流行りには乗らない主義と言う口でコメダの豆を食らう節分/桜井弓月
上の句には、少し強い印象の言葉がリズムよく並び、「喧嘩でも始まるのか?!」と思っていたら、豆食べてる・・・。なんだかんだ言いながら、仲良くコメダでふたりコーヒーを飲んでいる景が浮かびました。もしかしたら、主体ひとりなのかも知れませんね。自分の主義を主張しているようで、世間の空気を読んだのか、節分をちゃんと意識しているあたりが、いい人感が溢れていて、すごく好きな歌です。これからコメダに行った時に、高確率でこの歌を思い出しそうです。
佳作
切り刻み煮ても焼いても小松菜はいつまでも死を受け入れず青/維々てんき
そういえば小松菜は、何をされても「小松菜です感」が残ります。あの青々した感じを「死を受け入れず」と表現されていることに唸りました。
ザラメのないカステラみたい愛のことすらすら話す人の食感/瀬生ゆう子
「物足りない感」をザラメのないカステラ・・・こういう比喩を思いつくセンス。カステラは、あの甘さがあってこそのカステラ。二人の会話の温度差まで見えてきそうです。
きみもぼくも指から吸い込まれていくフォンがスマートすぎた真夜中/眞木環
下の句が特に好きです。フォンがスマート。言いたいことが言えなかったのか・・・真夜中に指が吸い込まれそうなほどやりとりを続けているのに、スマートすぎるところが何とも切ない。
(続きは明日の予定)