第7回毎月短歌/自選部門
最終回です。
〇自選部門(投稿総数/230首)
一席(サンライズ出雲賞)
いつまでもこころが大人になれなくて今もちいさなドラゴンを飼う/佐竹紫円
この歌を最初に見た時、うねるように飛ぶドラゴンに見えました。
そのくらい目立ったというか、目に飛び込んできたのは何故だろう・・・と考えてみたのですが、流れるように読めるのと、漢字と平仮名のバランスの良さも大きいのかな?と。もちろん歌の世界観も好きです。二句の「こころが大人に」は八音なのですが、それも持て余している鬱屈した気持ちに思えました。下の句の「今も」という表現も、昔からずっと、主体の軸になるものがしっかりあるのだと読みました。ちいさなドラゴンかも知れないけど、生きていく上で大切なものだと思います。
*サンライズ出雲は、その名の通り出雲を目指して走る列車。いつか大人になる、その時までは闇の中にいるような歌と重なりました。東京と島根を結ぶ長距離夜行列車の姿も、ドラゴンのようです。※画像:JR西日本公式より。
二席
あーまじで好きって肩まで温泉に浸かった時の声で言われた/プリン
その声が、すぐそばで聞こえてきそうな臨場感があります。言葉だけで、聴覚と温泉につかった時の暖かさが伝えられる歌、うまいなぁ・・・すごいなぁ・・・と唸りました。初句の「あーまじで」がものすごくいいですよね。リラックスした時に、思わず出た本音。言われた主体はどんな風に受け止めたのか、想像するだけで幸せな気持ちになりました。
三席
献立を考えるのはもういやだ妻が突然トリプルアクセル/アゲとチクワ
声を出して笑いました。作者さんのコメント欄からすると、どうも実話のようです。毎晩の献立を考えるという日常を繰り返す様子と、トリプルアクセルの回転がはまっているなと思いました。妻が突然「もういやだ」と言い出すと家族は構えてしまうと思うのですが、こんな可愛い反乱をされたら「今日は俺が作るわ・・・」とか言ってしまいそうです。ここまでが奥様の作戦でしょうか。だとしたら満点です。
佳作
泣きながらご飯食べるし肉焼くしパフェ大盛りでお願いします/マノチハル
辛いことがあっても腹は減る。この歌の魅力は「ちゃんと外出している」ところにあると思います。家にこもって一人やけ食いするのではなく、泣いている自分を隠さずデザートまで食べるタフさがとても好きです。
前転とブランコで酔う僕がいて生きづらさっていくつあんねん/岡乃あや
こんな風に生きづらさを数えたくなるほど、辛い一日だったのかも知れません。確かに、些細かも知れないけど、自分にとって苦手なことや出来ないことが、やけに気になる時があります。自分以外の人が、みんな幸せに見えるというか。
練りに練るLINEの返事 世界一美しい日本語での拒絶/琴里梨央
練りに練ったとはいえ、手軽に使えるコミュニケーションツールであるLINEに対しての返事が「美しい日本語」・・・しかも拒絶。一字空けで分けられていて、どちらも体言止めなので、より拒絶感があります。計算された美しさを感じました。
【所感】
今回選をさせていただいての感想は「浮き彫りになる」です。
どの歌も視点が面白かったり、言葉のチョイスにセンスがあったりで、特に自選部門は選ぶのにずいぶん時間がかかりました。そんな素敵な歌ばかりの中でも、自分が「おっ!」と思う歌の傾向が、やはりあると実感しました。
選は、どなたが詠んだか分からないように印刷しました。A4コピー用紙に横向き、約20〜25首が印刷された状態なのですが、目に飛び込んでくる歌があるのです。「読んで!」と主張してくるというのか。
そして、一首一首小声で読んでいったのですが、すっと読めるリズムの良さというか、句切れが明確というか、意味が取りやすいというか、そういう歌は印象に残りました。短歌歴1年未満で何言ってんだって感じですが、「定型のリズムに乗っている」ってこれか!
定型、大事。
もう少し時間を割いて、縦書きに印刷して読めばよかったな〜というのが、私の後悔です。
最後に、このような機会を下さった深水さん、素敵な歌を投稿してくださった皆様に、あらためて感謝申し上げます。
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