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【読書感想文】町田そのこ『星を掬う』を読んで
「はぁ〜」
読み終わった後の感想です。
町田そのこさんの本は以前『52ヘルツのクジラたち』に感動したので、文庫本になった『星を掬う』を買って読んでみました。
『52ヘルツのクジラたち』にも感じられたことですが、人間の感情の細かな揺れや絶望、そしてその中でも希望を描くのが上手く、そのストーリーに引き込まれてしまいました。
読み終わってからしばらく心にずっしりと重みが残ったので、「はぁ〜」という感想になったというわけです。
ここから先はネタバレも含まれますので、まだ読んでいない方や、ネタバレを避けたい方は注意してくださいね。
『星を掬う』では、特に「家族」というテーマが強調されています。
家族とは何か、愛とはどうあるべきか、そしてその愛が誰かを傷つけてしまうことがあるという複雑な現実が描かれています。
読み終えた時に感じた「重さ」は、単なるストーリーの展開以上に、作品の中で扱われている社会的なテーマの数々が、私たちの生活と深く結びついているからだと感じました。
特に「DV問題」「母娘の関係」「介護問題」という3つの軸が、この作品をさらに重く複雑なものになっていると思います。
DV問題とその描写
『星を掬う』では、主人公が夫によるDVの被害にあうというストーリーが、なかなか強い衝撃をうけます。
暴力そのもの以外に、相手との関係で逃げられない状況に追い込まれていく過程が読んでいて苦しい。
暴力の被害者が、なぜその場を離れることができないのかその心理が描かれていることで、「どうして逃げないの?」という単純な疑問がいかに的外れであるかを思い知らされます。
この部分を読むと、暴力が人を精神的にもどれほど追い詰めるかがひしひしと感じられます。
母娘の関係の葛藤
もう一つのテーマは「母娘の関係」です。
作品の中で描かれる母と娘にある深い溝や、愛し合いながらも互いを理解しきれない複雑さが、非常にリアルに表現されています。
母親は時に子供のために最善を尽くしているつもりでも、娘にとっては逃げ場のないプレッシャーに感じられることもあると思います。
その中で特に印象に残った言葉がありました。
「不幸を親のせいにしていいのは、せいぜいが未成年の間だけだ」
「自分の人生を誰かに責任を取らせようとしちゃだめだよ」
私たちは、時に自分の不遇や苦しみを他人や環境のせいにしてしまうことがあります。
特に親との関係において、育てられた環境や過去の出来事が今の自分に影響を与えていると感じることは、多くの人にとって共通する経験かもしれません。
しかし、この言葉が示しているのは、どんなに辛い過去や不遇な状況があっても、それを「誰かのせい」にし続ける限り、結局は自分自身を縛り付けているのではないかと感じました。
親との関係において、未成年の間はどうしても親の影響が大きいですし、その環境下でしか生きるしかない状況もあります。
しかし、成人してからも同じように「親のせい」「他人のせい」と思い続けることは、実は自分自身の人生から逃避しているのだと教えてくれています。
誰かのせいにするのは一時的には楽かもしれません。
この言葉に触れた時、自分の今の環境や過去の出来事を他人のせいにしがちな部分に気づかされ、自分を見つめ直すきっかけになりました。
介護問題の現実
さらに、作品内で非常に印象的だったのが「介護問題」です。
介護は、多くの家庭で避けて通れない現実であり、その負担は時に人を精神的、肉体的に追い詰めます。
介護の過酷さや、それが家族の関係性に与える影響について考えさせられ、介護をする側の苦悩と、介護される側の辛さがリアルに伝わってきました。
「わたしの人生は、わたしのものだ!」
『星を掬う』の中で繰り返される叫び。
「わたしの人生は、わたしのものだ!」
この言葉こそ、物語り全体を貫くテーマだと感じました。
このフレーズは、一見すると当たり前のように聞こえますが、実際は多くの人が自分の人生を「自分のもの」として生きられていないという現実を突きつけてきます。
物語りの中では、それぞれの立場や過去の経験の中で、自分の人生がどこかで奪われていると感じています。
親の期待や家庭内暴力、介護という避けられない現実…。
「自分の人生は自分のものではない」と、無意識に思い込んでしまっている。
だからこそ、このフレーズが繰り返されることに、大きな意味があるのだと思います。
「わたしの人生は、わたしのものだ!」
という叫びは、過去の傷から解放されたいという切実な願いの表現です。
私自身、この言葉を読むたびに、胸に強く響くものがありました。
私たちはしばしば他者の期待や常識、義務に縛られ、無意識のうちに自分の選択を狭めてしまうことがあります。
家族や職場、周囲の人間関係で、どうしても自分の意思を後回しにしてしまうことも多いでしょう。
それでも「わたしの人生は、わたしのものだ!」という言葉は、そうした状況に対する反逆であり、人生を取り戻すための第一歩なのかもしれませんね。
この言葉が響いたのは、私自身「自分の人生を生きること」に葛藤しているからなのかも。
最初に書いた「はぁ〜」は、読み終わった後の心の重さだったのかもしれません。
単に暗さや悲しさからくるものではなく、この作品が伝えたかったテーマが、複雑で解決が難しい問題に触れたからこそ心に強く残ったのだと思いました。
登場人物たちは、それぞれ未来に向かって一歩踏み出そうとしています。
自分自身もまた、自分の人生とどう向き合うべきかをもう一度考えてみようと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
いまだに簡単に消化できない感情ですが、それこそがこの作品の魅力なのだと思います。