ヒトリゴト:映画「レ・ミゼラブル」私的主人公はジャベール
映画「グレイテスト・ショーマン」でヒュー・ジャックマンの歌声にヤられて、
観たいと思っていた「レ・ミゼラブル」。
デジタルリマスター/リミックスで劇場公開していると聞き
急ぎ観に行ってきました。
観終わった後、いつまでも心に残っていたのは
楽しみにしていたヒュー・ジャックマンでも
大好きなアン・ハサウェイでもなく、
ラッセル・クロウ演じる「ジャベール」でした。
記憶に残ったシーン① 欄干の上で歌うStars
主人公ジャン・バルジャンを執拗に追う嫌なヤツ。
その印象が変わったのは「Stars」を歌ったシーンでした。
法こそがただ一つの正義であり
それを守ることが神の道だという信念を持っている。
ジャベールは、ジャン・バルジャン個人ではなく
法を犯した存在を憎み、信念に沿って追い続けているんだと。
ただ、屋上の欄干の上を歩く姿に
彼の信念の不安定さや危うさを感じました。
記憶に残ったシーン② ガブローシュへの勲章
その後ジャベールはジャン・バルジャンに命を救われ、
一方で革命は失敗したくさんの若者たちが命を奪われました。
彼らの亡骸を見るジャベールの表情に浮かぶのは
これまでの法の番人としての冷徹さではなく「戸惑い」。
今までであれば「法を犯した者は死んで当然」と考えたはずが、
そう思えない自分に対する戸惑いのように見えます。
自らの勲章をガブローシュという男の子の亡骸の胸に置くシーンに
ジャベールの中で「正義」が揺らいでいるのが感じられました。
ミリエル司教の赦しによってジャン・バルジャンが変わったように
ジャン・バルジャンの赦しによってジャベールにも変化が起きていることがわかりました。
そして私は、その変化がジャン・バルジャンのような明るいものだと……
記憶に残ったシーン③ ジャベールの自殺
瀕死のマリウスを背負い下水道から出てきたジャン・バルジャン。
彼を待っていたのは銃を構えたジャベールでした。
今までのジャベールであれば、容赦なくジャン・バルジャンを逮捕したはず。
しかし彼はジャン・バルジャンを見逃します。
「やっぱりジャベールにも慈悲の心が芽生えたんだ!」
そんな私の希望は次のシーンで打ち砕かれました。
ジャン・バルジャンが彼に与えた赦しは
彼の命を救った代わりに
彼の「信念」を殺してしまったのです。
服役囚の両親のもと徒刑場で生まれたジャベールにとって
法の番人であることが自分の存在意義だったのでしょう。
彼にとって唯一の正義(善)は法だったのに
ジャン・バルジャンによって新たな価値観に気付かされ
それに困惑し、受け入れられず死を選びます。
融通がきかないといってしまえばそれたでですが、
自分の信念に誠実な生き方が、私はカッコイイと思いました。
罪(パン1切れの窃盗と脱獄)を犯して19年も投獄され
世の中に絶望していたところから、
ミリエル司教の赦しによって善人になろうと
生き続けたジャン・バルジャン。
獄中で生まれ、法の番人として誠実に生きていたところから、
ジャン・バルジャンの赦しによって自身の存在意義を崩され
死を選んだジャベール。
なんとも皮肉な対比です。
「赦しは万人にとって光になるわけではない」
ということだと、私は解釈しました。
作品の趣旨とは違う解釈かもしれませんが、
あくまでもヒトリゴトということで……