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レストランを転職した理由③-食の最高峰へ-

美食が集まる街、東京。
その中でも世界から認められる店、ミシュラン星付き。

今まで何度も食べに行ったことはある。
数ある星付きレストランの中で2回だけ出会った感動する料理、ずっと印象に残り続けている料理がある。
(その料理については別で記事にします。)
世の中には一口食べるだけで思考が停止するほど美味しいものってあるんだ、初めてそう思った。

星付き店で働ければ、そういう料理にまた出会えるかもしれない。
感動できる料理を作れるようになるかもしれない。

何を食べても「普通」としか思えなくなった現状を打破するには、自分が出会った感動する料理にまた出会うこと、そしてその料理を越さなければならないと思った。

当時自分は28歳。
正直あまり時間は残されていない。
なら叩く門は1つ。
世界から認められている食の最高峰、三ツ星レストラン。

飲食求人サイトを漁ったが、やはり条件付きが多い。

「星付きのフレンチレストランで〇年以上働いた経験者のみ」

「フレンチレストランで重要なポジションの経験者のみ」

自分はイタリアン出身だから応募資格すらない。

でも1つだけ、条件なしの店があった。
東京西麻布の三ツ星フレンチ、L'Effervescence(レフェルヴェソンス)。

早速応募と思ったが、ためらった。

理由は2つ。
まずはL'Effervescenceに食べに行ったことがないこと。
この業界、食べに行ったことのない店に面接に行くと、
「食べに行ったことが無い店で働きたいと思える思考が理解できない。」
「店のブランドをぶら下げたいだけ?」
これらをほぼ必ず言われる。
つまり門前払いだ。

そして家族。
妻は東京には引っ越したくない。
つまり採用が決まったら単身赴任となる。
そして二重生活をするには給料がギリギリ。
それは家族にとって幸せなのか。

レストランを転職した理由①でも書いたが、
家族と料理を天秤にかけたとき、家族のほうが大事ではある。
しかし食の最高峰に身を置けるチャンスはそう回ってこない。
心のどこかで、料理が大好きで、諦めがつかない自分がいるんだと思った。

悩みに悩んだが、決め手は妻の言葉。
「私は大丈夫。料理人と結婚した時点で、いつかはこうなるってなんとなく覚悟はしてたから。
家族を理由にやりたいことを諦めないでほしい。」

自分も覚悟を決めなきゃ。
料理人として成り上がれるか、それとも家族のために働く料理人になるか、ラストチャンス。
食の最高峰を見たうえで出した決断ならきっと後悔はしない。

そう思って応募をした。

意外にもすぐに面接は決まった。
応募要項にありのままを書いたら、とにかく会ってみたいと言ってくれた。
面接はオーナーと1対1だった。

不思議と緊張しない。
面接でありがちな定型文みたいなものは何も用意せず、
今の自分の現状や料理人としての悩みを
一緒に飲みに行った先輩に吐き出すかのように喋った。

そして案の定、
「食べに来たことはありますか?」

この質問に対して嘘を言ったとしても、お店側は確認する術を持っていない。
どんな料理を食べたか聞いても、SNS等に載っている料理を答えればいいだけだから。

でも正直に答えた。
「食べに来たことはありません。私の料理に対する悩みや現状から、三ツ星レストランに入って食の最高峰に触れてみたい。関われるチャンスは今しかないと思って応募しました。
しかし私には家族がいて、もし採用されたら二重生活になります。覚悟はできていますが、心の隅っこで、家族と一緒にいたい気持ちもあります。」

正直に喋ると饒舌になり、説得力が増す。

するとオーナーから意外な提案を受けた。
「料理に対する熱い気持ちが伝わりました。
まずは私たちの料理を食べてください。
そして研修という名目で厨房に入ってみてください。
今の店の都合もあるでしょうから、可能な限り一緒に働いてみましょう。
実際に私たちと働いてみて、二重生活をしてみて、それでも働きたいと思えるなら、この面接の話を進めましょう。」

断る理由がなかった。

すぐに自分が働く店と都合をつけ、東京に出発した。

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