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10-4 便秘治療薬・浣腸薬


排便の仕組み

口から摂取した食物は、消化管内で消化され、小腸の粘膜で吸収されます。吸収した栄養素は、門脈から肝臓を経由、もしくは、リンパ管から全身循環へと移行します。残渣は大腸内を運ばれるうちに、水分が吸収され、便が形成されていきます。便が直腸へ運ばれ、便がたまると、直腸内圧があがり、直腸内壁の伸長の刺激が、直腸壁の骨盤神経から仙髄の排便中枢へと伝えられ、大脳皮質へと伝えられます。「便意」を感じると、中枢から排便のための命令が伝えられます。肛門括約筋を弛緩させ、直腸内容物よりも上の緊張や運動を高めることで、排便が行われます。

便秘

便秘とは、本来対外へ排出すべき糞便を、十分量かつ快適に排出できない状態のことをいう。
便秘とは、単に排便回数が少ないことだけではなく、硬便等の便性状の変化、いきみや残便感等の排便関連症状も含まれる。

便秘とは
本来、体外へ排出すべき糞便を、十分量かつ快適に排出できない状態のこと

慢性便秘症診療ガイドライン 2017

便秘が持続し、日常生活に支障を生じている場合、便秘症として、治療が必要である。

便秘症の分類

(従来、日本では、このような分類が使用されてきた。)

慢性便秘症は、機能性便秘と二次性便秘に分類される。

二次性便秘には、腫瘍や炎症が原因で腸内容物の輸送が障害されて起こる器質的便秘のほか、全身性疾患(糖尿病、甲状腺機能低下症、パーキンソン病など)に起因する腸管運動障害、薬剤性の便秘症などがある。
機能性便秘は、弛緩性便秘、けいれん性便秘、直腸性便秘に分けられる。

弛緩性便秘
腸の動きが弱いため、便が滞留し、その間にも便の水分が吸収されるため、便が太く硬くなり、ますます排便困難に陥る。原則として、日常生活指導を含めた一般的治療が原則であり、その効果が不十分な時に、薬物治療が行われる。

けいれん性便秘
ストレスの影響など、副交感神経の過緊張により腸管が過緊張となり便移送が妨げられている状態。便は兎糞状で硬い。
そのため、治療のためには、自律神経系作用薬が使われることもある。

直腸性便秘
便が降りているのに、直腸刺激による感受性が低下し、排便が起こらない状態。何度も便意を無視したり、下剤や浣腸の乱用が原因で起こると言われている。
直腸性便秘は、弛緩性便秘に合併している場合が多く、弛緩性便秘に対する処方に、坐薬や浣腸薬を適宜併用して用いられる。

(国際的には大腸通過時間よりに分類される)

機能性便秘は、排便回数減少型と排便困難型に分類される。
排便回数減少型
排便回数や排便量が減少して、結腸に便が過剰に貯留するために、腹部膨満感や腹痛などの症状を生じる。直腸内での糞便の滞留時間が長くなると、水分が吸収され硬便化し、硬便による排便困難を生じる場合もある。
専門医により行われる大腸通過時間検査により、さらに、大腸通過遅延型と大腸通過正常型に分類される。
大腸通過遅延型:大腸の動きが悪く直腸まで便が運ばれにくい状態。ストレスにより大腸蠕動運動が低下していたり、運動不足が原因となる。また、薬剤も大腸通過時間を遅延させるものがある。
大腸通過正常型:過剰な少食やダイエットなどによる食事制限で便の量が少ないため、うまく運ぶことができない状態。
排便困難型
排便時に直腸内の糞便を十分量かつ快適に排出できず、排便困難や不完全快便による残便感を生じる。
大腸通過正常型:排便回数や排便量は減少していないにもかかわらず、便が硬く、硬便のため、排便困難を生じる。日常的な水分摂取量が少ないことや、大腸で過剰に水分が吸収されていることが原因で起こる。
機能性便排出障害:機能的な病態によって、直腸にある糞便を十分量かつ快適に排出できない便排出障害のために、排便障害や不完全排便による残便感を生じる。原因として、習慣的に、便意を我慢していると、慣れてしまい直腸の排便反射が弱まることがある。

大腸の動きが弱い(ストレス、薬剤性、加齢による変化)
便のかさが少ない(過剰なダイエット、食物繊維摂取量不足)
便が硬い(水分摂取量が少ない、大腸での水分吸収が過剰)
便意を我慢
 などが、便秘の要因となる

生活指導

硬便で排便困難な場合、食物繊維摂取不足である場合がある。
食物繊維は、水溶性食物繊維と、不溶性食物繊維に分類できる。
水溶性食物繊維は、水を含むため、便を柔らかくし、排出しやすくさせる。
不溶性食物繊維は、便のかさを増やし、腸を伸展させることで、腸運動を刺激するため、便を排出しやすくさせる。
そのため、高齢者では、腸の運動が低下しているため、便のかさを増やしても、送り出せないため、不溶性食物繊維の取りすぎは、腹部膨満感など、腹部症状につながる可能性もある。

規則正しい食事や睡眠などの生活習慣は、排便習慣の確立のために重要である。
また、便意を感じたら、我慢しないことも、排便習慣のために重要である。

便秘治療薬

作用機序から、排便習慣をうながすようなコントロール薬と、効果発現が比較的早く、頓用として使われるレスキュー薬に大別できる。

浸透圧下剤

浸透圧下剤には、主に3種類がある。
塩類下剤:酸化マグネシウム など
糖類下剤:ラクツロース
高分子化合物:マクロゴール4000 など
いずれも、それ自身が大腸では吸収されないため、浸透圧が上昇し、それを薄めるために、大腸から便へ、水分が移行する。その結果、便を軟化・膨張させるため、便を排出させやすくする薬である。
浸透圧下剤を服用するときは、併せて水分も十分量摂取した方が効果が得られやすい。

塩類下剤:酸化マグネシウム(マグミット (R)) など
作用が穏やかで、習慣性も少ないため、第一選択薬として汎用される。(詳細は後述)

糖類下剤:ラクツロース(ラグノス (R) NF)
高アンモニウム血症改善薬としても使われる。一部の薬剤は、便秘症にも適応がある。
吸収されない合成糖であるため、血糖値も上昇させない。

高分子化合物:マクロゴール4000(モビコール)など
大腸検査などの前処置でも使用されている。腸内の電解質バランスを維持し、便中の浸透圧を保持する目的で、無機塩類が配合されている(スポーツ飲料のような味)。

膨張性下剤

膨張性下剤:カルメロースナトリウム
水分を含んで膨張するため、便を軟化させ、便容積を増やすことで、便の排出をしやすくさせる薬である。
・カルメロースナトリウム:便秘症
・ポリカルボフィルカルシウム:それ自体は吸収されず、消化管の内腔で内容物を正常化させる‥“下痢にも便秘にも有効な、過敏性腸症候群治療薬”

浸潤性下剤

浸潤性下剤:ジオクチルソジウムスルホサクシネート・カサンスラノール(ビーマス(R))
ジオクチルソジウムスルホサクシネートは、界面活性作用をもち、便を柔らかくして、出しやすくする薬である。
単独では効果が弱いので刺激性下剤と一緒に用いられる。

刺激性下剤

大腸運動を亢進させる薬である。腸運動を刺激し、かつ、便も柔らかくなるので、便の排出を助ける。(詳細は後述)
常習性弛緩性便秘に用い、けいれん性便秘には使用しない。

アントラキノン系・・植物に由来する成分(アントラキノン系)を含有する。
便秘改善効果が高いが、常用すると耐性が生じてくるため、頓用的に使用する(漫然使用しない)。人によっては、腹痛を生じる場合もある。
また、成分が尿中に排泄され尿の着色(黄褐色〜赤褐色)が見られるが、成分の色であり、心配ないことを説明しておく。
・センノシド(プルゼニド (R))

ジフェニール系・・大腸で分解されて、大腸粘膜に作用する。蠕動運動を亢進させ、水分吸収を阻害する(便を柔らかくする)ことで、排便を促す。
便秘改善効果が高く、アントラキノン系に比べると、耐性を生じにくい。
・ピコスルファートナトリウム(ラキソベロン (R))内用液・・水に溶かして、服用する薬。薬用量を滴数で細かく調節できる。

外用薬

・浣腸薬

腸壁を刺激することで、排便を促したり、浸透圧作用で、糞便を柔らかくするため、排便を促す。
(使用上の注意点)
使用時の体位:腸粘膜を損傷させないために、左側臥位で使用する(立位で使用しない)
温度:体温ほどに加温する
常用しない:グリセリン浣腸は市販薬としても入手可能である。ただし、自己判断で連用すると、便意のリズムを乱すため、医師の判断で必要時に使用するのが望ましい。

・坐剤

・炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム(新レシカルボン(R))
腸内で炭酸ガスを発生して、直腸の刺激となる。作用発現が15〜30分後と早い。
・ビサコジル(テレミンソフト (R))
直腸を刺激し、排便を促す。作用発現時間は、15〜60分後である。


この他、外国では、5-HT4 受容体刺激薬が使用されている。日本ではモサプリドが保険適用外として便秘症や便秘型の過敏性腸症候群に使用されることもある。

また、新規の薬剤も多く開発されている。

上皮機能変容薬

腸管粘膜からの水分分泌を促し、便を軟化させる薬である。第二選択薬として使用される。

・クロライドチャネルアクチベーター
・ルビプロストン(アミティーザ (R))
塩化物イオン(クロライド)が、チャネルを通って、小腸内腔に排出されるのを促進(アクチベート)する。塩化物イオンを薄めるために、水分排出も促されるため、便を軟化させる。

・グアニル酸シクラーゼC受容体アゴニスト
・リナクロチド(リンゼス (R))
グアニル酸シクラーゼC受容体刺激をきっかけに、小腸内腔へ塩化物イオンの排出を促進し、水分も便中へと移行するため、便が軟化する。また、同じ作用機序で、便秘に伴う腹痛を改善させる効果もある。

胆汁酸トランスポーター阻害薬

・エロビキシバット水和物(グーフィス (R))
通常、胆管から分泌された胆汁酸は、腸内で脂質と混ざりあい、脂質の消化を助けている。結合型の胆汁酸は腸内細菌で分解され、胆汁酸は再吸収を受け、再利用される。胆汁酸トランスポーター阻害薬は、胆汁酸の再吸収を抑制し、大腸の胆汁酸量を増やことで、水分分泌を促し便を軟化させたり、消化管運動を促進し、排便を促す。

オピオイド誘発性便秘症治療薬

ナルデメジン(スインプロイク (R))
オピオイド使用中に発生するオピオイド誘発性便秘症の治療薬。
オピオイドは、腸管のオピオイドμ受容体に結合し、腸管の運動を抑制するため便秘症になる。ナルデメジンは、腸管の μ 受容体でオピオイドの作用に拮抗することで、便秘症の治療効果を示す。ナルデメジン自身は、血液脳関門を通過しないため、オピオイドの鎮痛効果は阻害しない。

○ 塩類下剤

作用が穏やかで、習慣性も少ないため、第一選択薬として汎用されるが、使用には注意点もある。

マグネシウム製剤
・酸化マグネシウム(マグミット (R))
・水酸化マグネシウム(ミルマグ (R))
・硫酸マグネシウム

マグネシウム製剤のうち、酸化マグネシウムや水酸化マグネシウムは、胃酸や膵液によって変換され、炭酸マグネシウムになる。炭酸マグネシウムは、粘膜からは吸収されないため、浸透圧作用により、腸管から水分を引き寄せるため、便を軟化させ、便が膨張かすることで腸管に刺激を与え、排便を促す。
硫酸マグネシウムは、それ自身、粘膜から吸収されないため、腸管から水分を引き寄せる。
そのため、胃酸が分泌できない人では、薬効が減弱する。例えば、無酸症、胃切除、PPI(プロトンポンプ阻害薬)服用中など。
他にも、マグネシウムと結合することで、併用薬の薬効を減弱させる場合もあるため、安全性の高い薬とはいえ、その点には、確認が必要である。

また、マグネシウムは一部、血中に吸収され、最終的には、腎臓から排泄される。そのため、腎機能が低下している人などでは、高マグネシウム血症の可能性があることに注意が必要である。(後述)

○ 刺激性下剤(腸刺激性下剤)

植物由来成分のアントラキノン系は、大腸刺激効果が高いため、必要に応じて適宜使用されている。

植物のセンナやダイオウの成分として、センノシドA・Bがある。
センナ葉やセンナ実の製剤として、アローゼン、
センノシドの製剤として、プルゼニドがある。
ダイオウは、いくつかの漢方処方に使用されている。

アントラキノン系
(特徴)
・大腸刺激効果が高い・・レスキュー薬として使用される
・長期連用すると耐性が生じる・・必要に応じて使用される
(注意)
・腹痛が出る人もいる・・大腸を刺激するので、人によっては腹痛を生じる
・尿が着色する・・成分の色がつく。血尿?などど、不要な心配を与えないように、あらかじめ説明しておく。

下剤は、必要に応じて適宜調節しながら使用される。以下は、製剤を切り替えるときの量のおおまかな目安となる。

長期使用時の注意点

耐性

下剤の一部には、長期連用する内に、耐性を生じ、薬が効かなくなることがある。
・刺激性下剤
・グリセリン浣腸
そのため、漫然使用せずに、レスキューとして使用するなどの対策が行われている。もちろん、非薬物療法も併せて行うことも重要である。

高マグネシウム血症

上述したように、炭酸マグネシウムや硫酸マグネシウムは、腸管から吸収されないため、塩類下剤として効果を発揮するが、一部は、血中へ吸収される。
高マグネシウム血症の初期症状として、嘔吐・徐脈・筋力低下・傾眠等がある。

マグネシウム製剤自体は、非常に安全性の高い薬であり、年間4,500万人に使用されているとも言われているが、これまでに数十件の副作用症例が報告されている。
非常に稀であり、過剰に怖がって、服薬を辞める必要もないが、リスク因子のある患者には、注意し、定期的に血清マグネシウム値を測定するなどの対策を行うことは重要である。
リスク因子として、高齢者、腎機能低下のある人、便秘症の人、がある。

患者背景を考慮した便秘症治療薬の使い分け
<妊婦>
妊娠中期〜後期にかけて、ホルモンバランスの乱れから腸の動きが弱まること、子宮が大きくなり腸を圧迫することで、便秘になりやすい。
妊婦に対して、「刺激性下剤」の使用には注意が必要である。
センノシド:原則、禁忌・・子宮の収縮を誘発するため
<小児>
基本的に、浸透圧下剤がよく用いられる。
世界的には、マクロゴールが第一選択。
乳児の便秘には、マルツエキス(麦芽糖)(市販薬のみ)も使用されている。

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