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迷魚
最近急に寒くなったよね、なんて言葉が通学途中に交わされている。
よくある雑談のひとつだ。
内容はからっぽだけど、それを楽しむのが普通のことらしい。
周りの普通が苦痛に感じる。
それはいつものこととして通学路を一人で歩く。
目の前をいくつかのグループが点在して歩いていくのが目に映る。
この人たち全員ちゃんと学校に行くんだなあ、なんて呑気に考える。
僕ももちろん、学校に行くからこの道を歩いているわけだけれど。
なんとなく、大量の魚群が同じ方向に向かって泳ぐ姿を思い出した。
群れで泳ぐ魚。
全部同じ方向。
全部同じ。
そんなことを考えていると、少しだけ憂鬱になった。
そっと通学路から外れて、図書館へ向かう道に入り込む。
一限、いや。
午前中の授業をさぼってしまおうと決めて、図書館へと歩く。
出席日数のことでまた何か言われるかもしれないけれど、ちゃんと計算してギリギリをせめているから問題ない。
それなのに周りは余計なお節介ばかりをする。
考えなしで休む人たちがいるから、僕まで余計なお節介を受けることになるのだ。
やめてもらいたいよなあ……ほんと
なにを~?
うわ!
周りに誰も居なかったはずなのに声をかけられたので心臓が一度大きくはねた。
左胸を押さえながら声の方へ振り向く。
落ち葉が舞っているなか、同じ学年のあの子がにへへと変な声を出して笑っている。
え、っと……なんでここにいるの?
ん~、なんか一人だけ道から逸れていったから気になってついてきちゃった
あ、そうなんだ
や、でも駄目じゃない?
君、学校行かないと
それはあなたも同じじゃないの?
いや、僕はちゃんと欠席数えてるので問題ないです、はい
まだ先程の驚きが消えていないせいか、すごくしどろもどろな返答をしてしまった。
だけどあの子は、ふーんと言っただけで通学路の方へ戻ることはなく、僕の後を追うように図書館への道を歩く。
……あのさ、ついて来なくてもいいんじゃない?
乗った船には最後まで乗るのが、あたしのモットー
僕、船になった覚えはないんだけど
ん~、じゃあ迷い魚とは最後まで一緒に泳ぐのがモットーっていうことで
魚?
なんだかつかみどころのない話で煙に巻かれている感じがする。
僕は立ち止まってあの子を見下ろす。
頭のつむじが見えそうで見えないな、と思ったけどそれを頭の中から追い出す。
魚って、どういうこと?
ほら、登校中ってさー、みんな同じ方向に歩いていくじゃない?
それがなんとなく群れで泳ぐ魚と似てるなーって思って
だから魚!
……そう
似たような考え方をする人も世の中にはいるんだなあ、と不思議なものをみたような顔で僕はあの子を見つめる。
あの子は特に何も続きを話すようなことはなく先程と同じように、にへへと笑っている。
僕は立ち止まり続けるのに飽きて、図書館へとまた歩き出す。
後ろにはあの子がピッタリとついて来ていた。