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【3つの仮説から考える】発達障害は増えているのか?

発達障害は増えているのか?というテーマは、長年議論の的でもあります。

「発達障害という言葉が出てきたから、今まで見過ごされていた人たちが診断されているだけでしょ」という「増えていない」という主張がある一方で、「概念が生まれた後も、有病率がどんどん上がっている!何か原因があるのでは?」と思い、「発達障害は増えている」と考える人もいます。

特に、「増えている」と主張する人は、いわゆる

「医学的に原因を探そう」
「原因があれば治せる」

という思いからの行動でもあります。

今まで、水銀/ワクチン/グルテン/腸内細菌etcと様々な物質が発達障害に関係しているのではないか、と紹介されてきました。

しかし、これらのテーマは、医学的根拠がまだ十分に示されていませんので、発達障害の数値的な上昇に直接関係しているのかは、まだわかっておりません。

今回は、発達障害の増加に関連していると言われている要因について紹介していきます。

①男性の初婚年齢の上昇


上記以外では「男性の初婚年齢の上昇」の影響が考えられています。

男性は体内で精子を作る際に、遺伝子情報をコピーします。年齢が上がると、コピー回数が増えるので、遺伝子の劣化が増えて、結果的に発達障害他、様々な症状のリスクが増えるという理屈です。

つまり、
「男性の初婚年齢が上昇 = 発達障害が増加している」
という理論です。

実際に、父親が38歳以上であれば、自閉症リスクが上昇するという報告が、アメリカ、デンマーク、イスラエルなどから出ています。(Shah.2009)

元々、女性の高齢出産によってダウン症のリスクが高まることは知られていますので、その意味で、一定の信憑性はありそうです。

しかし、この説はメカニズムに不明な点も多く、日本の浜松医科大学で日本の保護者を対象に行った研究では、必ずしもリスクが上昇するという結果は得られなかったため、今後の研究が待たれています。(土屋,2013)

②低出生体重児の増加


近年、医療の進歩により、低出生体重の子どもの生存率が上昇しています。

(平成30年、厚生労働省)

喜ばしいことですが、その一方で、低出生体重の子どもは、知的障害と発達障害を抱える割合が高いことが報告されています。

そのため、低出生体重児の増加が間接的に、発達障害の増加に関係しているという仮説があります。

ただし、低出生体重児の増加を考慮して、発達障害の診断を受ける子どもが急増しているため、影響は微々たるものであるとも考えられています。

③社会のハードルの増加


発達障害の増加は、「発達障害」という言葉と概念が広まり、診断ケースが増加していることが直接の要因であると言われています。

弘前大学は、2022年、日本国内のASDの有病率の研究を発表しました。
2013年より、ASDを同じ基準で6年間、5歳児検診を実施した結果、「発達障害の増加はなかった」と報告しています。(斎藤,中村,2022)

また、なぜ発達障害という概念が広まっているのでしょうか?

これは、個人に求められる能力のハードルが、社会全体で高まっていることが予想されます。

社会人では、コミュニケーション能力が必須とされますが、近年は、

  • 問題解決能力

  • 国際化社会に対応する英語力

  • Society5.0を支えるプログラミング能力

  • 老後の資金を確保するための金融リテラシー

  • 共働き社会による育児のマンパワーの確保

  • 教育資金の確保

  • 健康維持の力

など一生通じて学び続けることが求められています。

その結果、社会で生きるためのハードルが高くなり、ついていけない人が「発達障害」とレッテルを貼られている可能性が指摘されています。

このように、発達障害という文脈を超えて、今一人ひとりが、幸せに生きるために、「どんな社会にしたいの?」を考えることが求められています。

終わりに


発達障害は、医療/教育という分野を超えて、今様々な業界で注目されていますので、今後とも、様々な動向を紹介していきたいと思います。

以上です。お役に立てば幸いです。


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今回の記事の参考文献


Saha S, Barnett AG, Foldi C, et al. Advanced paternal age is associated with impaired neurocognitive outcomes during infancy and childhood. PLoS Med 2009;6:e40.

土屋 賢治,他. (2013)両親の年齢と子どもの発達. 浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター <https://www.daiwa-grp.jp/dsh/results/38/pdf/19.pdf#search=%27自閉症+旦那+年齢%27>

平成30年度子ども・子育て支援推進調査研究事業『低出生体重児 保健指導マニュアル』

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000592914.pdf

Prevalence and cumulative incidence of autism spectrum disorders and the patterns of co-occurring neurodevelopmental disorders in a total population sample of 5-year-old children. <https://doi.org/10.1186/s13229-020-00342-5

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