はじめましてとおかえりなさい
はじめてだった。
人が1人はいりそうなくらい大きなキャリーバッグも、かさばりそうな電圧機も、分厚いガイドブックも、そしてぶっさいくな写真が貼ってあるパスポートもはじめてだった。
母親が見つけてきた新聞の切り抜きの記事にあたしはすぐに飛びついた。
それは、カナダへの留学を無料で支援してくれるというものだった。
それは今考えれば、母親たちからの謝罪だったのかもしれない。
大きな地震と津波ですべてを失って、あたしが選んだ道は留学じゃなく地元に帰ることだった。
それはしぶしぶではなく、必然であり後悔したこともその選択に迷いもなかったけれど、そして誰のせいでもないけれど、両親は娘の夢を1つ潰してしまったことに何かしらの責任と後悔を感じていたのかもしれない。
これはあたしの勝手な想像だし、違うかもしれない。
でも、その記事はあたしの背中を確実に押してくれたし、諦めなくていのだという確信をあたしに与えてくれたことは事実。
2週間だけの、自分の人生においては微々たる時間だったけれど、それはあたしの最初の日本脱出であり、かつ今のあたしを作る確固たる土台になっている。
戻ってきたあたしの夢はあの頃と変わらない。
海外で働きたい。
まだまだ道半ばではあるけれど、あたしの夢はあの時、はじめてだらけの空港でキラキラ輝く新品のキャリーバッグをゴロゴロいわせてはじまった。