✍️③「農家における自家採取の割合に関して」と「種苗費が上昇した場合の影響について」
最初にnoteにまとめた「✍️『種苗法改正案』に関する誤解を解いておきたい」に関して、新たなご質問をいただきました。それが今回の表題です。
またまた長くなります(苦笑)
今回もnoteにまとめましたので、お時間のある時にどうぞ♪
あー、今回は父の自慢話も多いので、興味の無い方は読み飛ばしてくださいね(笑)
※回答だけでも読みたい方は、質問①・②共に回答の途中に太文字の部分があるので、そこから先の所だけでOK♫
最初の記事の赤①「種・苗の保管ができなくなり農家の負担増」の問題→この回答として「自家採取している農家は少ない。(中略)おそらく10%前後ではないか。(中略)もともと購入しているのだから、急な負担増にはなりえない」とのことでした。
① ご質問は「農家における自家採取の割合に関して52.2%というデータがあるが、そうなると自家採取している農家は少ないという前提が狂うのではないか?」というもの。
↓
この画像のデータ、手に入れたくて見つけられなかった資料。これを提供してくださり、本当にありがたい。
「農林水産省のホームページにあったのに恥ずかしい…。」と。
最初の記事で、自分の肌感覚では「自家採取率が比較的高いと思われる有機栽培農家仲間の中でも、おそらく10%前後ではないか」と書いたのだけれど、ご指摘いただいた通り、その数字が間違っていたということ。
まず、お詫び申し上げたい。
それにしても、想像を絶する高い数字。なんと52.2%!日本の農家さん、凄い。自分も農家の端くれだけどね(笑)
ただ、これ本当かな?正直、ちょっと考えにくいなぁー。いや、データを無視することはできない。それを前提に、自分なりの意見をまとめたい。
「ただし本当に大事なのは、農家の何%が自家採取しているかではなく、農家が実際に栽培している生産物のうち、一体何%にあたる品種(品目)を自家採取しているかなんだけどね」と。
ここでまず、自分の畑についての説明をしたい。興味の無い方は飛ばしてOK。
「宣伝するつもりはないのだけれど、書いておかないと説明がしにくいし、主張そのものの説得力が落ちるから…。」と。
自分は子供の頃から生物が大好きで、その延長で大学は農学部に進学した。幼少の頃から「終の仕事は農業」と決めていた。大学を卒業して研究開発型のベンチャー企業(環境制御機器メーカー)に就職したが、それも「ハーブの研究をさせてもらえる」からだった。
農家になる夢を叶えたのは47歳の時。
「農業やるなら有機栽培で」というのは決めていた。トマトが大好きで、大学の時にトマトの研究をしていたのだが、ガラス温室での農薬散布に辟易としていたし、圃場で作っていた有機栽培のトマトの方が断然美味しかったから。
脱サラして一年間、都内の有機栽培農家で研修した。難しさは痛感したし、歩留りの悪さには正直、絶望感も覚えた。それでも、美味しさと自分の考え方は変えられないと、新規就農しても「有機栽培」にはこだわった。
「まぁ正確に言うと、有機JAS認証制度には反対していて、認証取得していないので、『有機栽培』とか『有機野菜』は名乗れない。あくまでも、農薬・化学肥料不使用栽培野菜だけどね」と。
圃場(畑)の広さは、わずか50a(50アール:5,000㎡:五反)。農家を名乗れる最低限の面積でやるミニマム農家。しかも、そのほとんどがトラクターを入れられないぐらいの傾斜地。まぁ、東京で新規就農なんて、そんなに条件の良い畑は借りられないよね(苦笑)
そういう農家が生き残る為に、何をやるか。
例えば「農薬・化学肥料不使用」というフック(人の興味を引く何か)を全面に押し出すとか、売り先と売り方を考えるとか、他の人が今まで農業でやっていなかったことを積極的に取り入れるとかとか。
そして、実は一番工夫していることが、限られた農地で出来うる最大限の生産量をあげること。これが、今回の表題の回答に深く関わる。
なぜか?
自分の畑では多毛作は当然で、基本二毛作。また、野菜の品目によっては六期作さえやる。
農家でない方々には、わからないと思うので、以下に簡単に説明。
二毛作とは、同じ畑で年二回作付するということ。例えば夏にトマトを作った畑で、冬はキャベツを作るということ。
多毛作なら、そこに春物や秋物も間に生産するということ。
六期作とは、例えば小松菜とかは播種から収穫まで約二か月かかるが、ほぼ一年間を通して栽培できるので、年6回作るということ(実際自分は2週間毎に播種するので年12回作っている)。
ここまで徹底的に生産効率を重視して野菜を作っている。
そこに「自家採取」という作業が入るとどうなるか?
答え。
畑の稼働率(生産効率)が極端に落ちる。つまり、売り上げが極端に減るということ。
一例を上げれば、自分は「城南小松菜」という江戸東京野菜を生産し、自家採取している。自家採取するとなると、菜の花を咲かせ、実を結実させて、さらに熟させて、乾燥させてから収穫することになる。11月に撒いた種を、1月に収穫せず、3月に花を咲かさせて、自家採取するのは5月。つまり、播種から種取まで7ヶ月。収穫して出荷していれば、3.5回分は換金できるということ。その負担、わかる?
大変なのよー。正直、割に合わない。でも、その品種を残したいし、その味の良さは譲れないので、自家採取している。だけど、このように負担が大きいので、自分は全栽培作物の10%程度の品目と品種しか自家採取していない。
ということで、話を元に戻す。
ここからが一番大切な話。↓
今回の種苗法改正案で、登録品種ではない一般品種(在来種を含む)の自家採取は禁止されない(後述:参考資料参照)。反対派の人達は「全面自家採取に及ぶ危険性がある」と論じてるが、なぜ?その具体的な理由は何?
改正案を読んでも、心配になる要素なんて一つも書いてない。
つまり、農家の自家採取率が低ければ元々種苗は購入しているのだから、改正案により種苗費の負担増になることはない。また、農家の自家採取率が高くても合法的に自家採取しているのであれば、そのまま続ければよいので、改正案により種苗費の負担増になることはない。
結論、農家全体で見ると自家採取の割合と種苗費の負担増は関係が無く、結果として種苗費が極端に上がることは無いということ。
今回ご指摘いただいた資料の通り、それだけ沢山の農家さんが自家採取しているのなら、反対派の人達にとっては「買いたくもない種を農家が買わされる心配は無い」ということになり、不安感は減るはず。
ただ、違法に自家採取しているのなら別。でも、最初の記事に書いた通り「違法野菜なんて、それこそ普通は誰も買わないでしょ?」と。
「いや、そんなの栽培したり販売したりすること自体、プロ農家失格でしょ!違法CDを大量生産して販売しているのと同じでしょ‼︎」と。娘ながら、オヤジかっこいいじゃん(笑)
② 「種苗費が上昇した場合の影響について」:いただいたご質問をわかりやすくまとめ直すと「農家における種苗費が総経費の5%として、そのコスト(種苗費)が20%上がると総コストとして1%上がることになり、販売される野菜に価格転嫁されると最終的には消費者の購入価格に強く影響するのではないか?」というもの。
↓
「これはとてもよい質問で、説明しがいがある!」と。娘ながら、結局宣伝なんじゃねーの?(怒)
万が一、どこかの種苗会社が寡占状態になるとか、闇カルテルができて種苗価格が高値安定してしまうとか、そうなる可能性は資本主義世界で生きている限り、0(ゼロ)ではない。
まぁ、今までの二つの記事で説明してきた通り、考えにくいけどね(笑)
ここから先は、かなり個人的な意見。正直なところ、おそらく大半の農家は自分の意見とは違うかもしれない。でも、おそらく気持ちは一緒。それをまず言っておきたい。
「ただ、こういう馬鹿なプロ農家もいるということを知っておいてほしい」と。娘ながら、興味津々だね♪
自分はプライドとこだわりを持ってプロ農家をやっている。そのルールの一つに「販売価格は何があっても絶対に変えない」というのがある。
前述の通り、小さい農家の生き残る道として、自分はある意味変態的な農業を営んでいる。農薬・化学肥料不使用でやるとか、少量多品目栽培でやるとか、一人農業を実践するとか、これ以上畑の面積は絶対に増やさないとか、販売先は野菜の味にこだわってくれる飲食店さんと八百屋さんだけとか、その日に収穫した野菜をその日のうちにお得意先様に自ら納品するとか、できればその日のうちに消費してくださるお客様の胃袋の中へとか(笑)、宅配便対応は一切やらないとか、納品するエリアはこの範囲だけとか。
そりゃあもう、常識外れの商売。
でも、それが新規就農者でも今まで生き延びてきた秘策なんですよ。
普通、誰も真似しないから(苦笑)
勿論、真似してとも言わないし、真似されてもライバルが増えて困るけど(笑)
「こんなこと書くと、逆に説得力落ちるかなぁー」と。娘ながら、馬鹿なの?
で、「販売価格は何があっても絶対に変えない」に話を戻す。
自分は新規就農するにあたって野菜の販売価格を「この野菜を」、「この生産方法で」、「この販売手法で」ときちんと考えて色々経費等を計算して、「この価格で」と決めた。そして、一般的な流通価格と購入者の希望相場価格を比較して、微調整した価格に最終的に決めた。
その値段は新規就農して10年経った今でも変えていない。自然災害に襲われようが、季節の変わり目がおかしくなろうが、需要と供給のバランスが崩れようが、変えない。
市場価格はそれらにより、多大な影響を受けるよね。
だけど変えない。
なぜなら、かかるコスト(経費)とかける情熱は常に(ほぼ)同じだし、買ってくださるお客様に前記の理由を言い訳にして迷惑をかけたくないから。何にもならないプライドだというのはわかっているが、譲れない。ベンチャー企業とはいえ、メーカーに勤めていた人間の矜恃。
「かかるコスト(経費)は明確。お客様の求めている価格もある。それを他のことを言い訳にして、おいそれと変えられるか⁉︎」と。娘ながら、ちょっと今回、熱くなりすぎじゃね?(汗)
「だから、種苗費が万が一20%上がっても、自分が吸収する。それが俺のプロ農家プライド!」と。娘ながら、駄目だろそれ、経営者失格じゃん(爆笑)
他の農家さんにそれを無理強いはしない。価格転嫁できるならすればよい。でも資本主義社会では、あまりにも様々な要因や市場原理が絡むから正直それも難しいと思う。
ただ、おそらく全ての農家さんの気持ちは同じ。
「これだけの経費と労力をかけて生産したのだから、この価格で売りたい」と。
でも、販売価格を決めているのは、消費者や市場及び流通の求める「値段」というのが真実ではないか?皆、それをあまりにも当たり前のことのように、受け取ってしまっていませんか⁇
生きる為の食糧だから、ある意味仕方がないのはわかる。だけど、本当に農家を守りたい。日本の食を守りたい。そう叫ぶのであれば、考えてほしい。種苗開発者・育成者、生産者・農家の努力を。コストと時間をかけ、やってきた仕事に対する対価を求めて何が悪い?その権利を求める法改正の何が悪い⁇
熱くなり過ぎたので、話を元に戻す。
長くなったけど、これが回答。↓
「種苗費のコスト20%上昇、総経費の1%上昇」って、経営面からすると正直自分はそんなに影響ない。おそらく、どの農家も自分の中で吸収できるレベル。あるいは「価格転嫁せず吸収しろ」と言われるレベル。だから間違いなく、消費者の皆様への影響はない。
万が一、種苗費が上がることになったとしても、種苗費のわずかな上昇より、自然災害や、需要と供給のバランス(後述:参考資料参照)、消費者の求める価格が結果としての販売価格を決めているということ。つまり、残念ながら基本的に農家に価格決定権は無いということ。
でも俺は、キャベツは250円で売ると決めたから、市場価格が98円の時も400円の時も250円で売るけどね。
「俺が価格を決めているから!」と。
それにより、お客様は「○○から買う野菜や果樹は価格変動が無いから安心」と言って買ってくださる。その結果として、深い信頼関係を築くことができ、安定して仕入れを続けてくださるということ。
「おそらく、それって物作りと営業の経験があれば、普通の感覚でしょ?」と。娘ながら、納得ヽ(´▽`)/
参考資料
・一般品種の割合:農業共同新聞(JAcom)より→自家採取できる野菜の一般品種はなんと91%も♪
・一般品種の自家採取(自家増殖)について:農業共同新聞(JAcom)より→一般品種はこれまでと同様に自由に自家採取できるよ♫
・野菜の価格の決まり方:東京都中央卸売市場のホームページより→最初に「需要と供給のバランスなどによって決まります」と明記されている…。「『など』ねー(苦笑)」と。
今回も長くなりましたが、最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました♬
父に代わって御礼申し上げます。
「あくまでも、皆様のご参考になれば」とのことです。