【本】橋本努『消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神』:ミニマリズムの流れを知る
2024年12月5日(木)
2023年8月2日(水)
今回は、橋本努『消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神』(筑摩書房, 2021)を紹介します。
ミニマリズムは1つの倫理=行動規範である。そこには脱資本主義の精神に通じる回路がある。脱資本主義とは、資本の支配力に抗して、新たな文化を生み出す気概の1つである。
第1章 消費ミニマリズムの流行とその背景
こんまり、佐々木典士(ふみお)『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』、ミニマリストしぶなどを紹介する。スマホの普及は、人々に欲求はモノの購入で満たされるのではなく、モノを使用する活動によって満たされることを示した。モノを購入する場合は、どこにでもなじむ雰囲気「ノームコア」を持つモノを厳選する。
第2章 消費社会とその批判
ポスト近代は、1) 記号消費、2) 多様化と個性化、3) 生産者兼消費者=プロシューマー、で特徴づけられると考えられた。しかし、バブル後、記号消費は進まなかった。人々は差異を消費することに関心を持たず、ユニクロや無印良品のようなモノを購入することで満足し、個性を商品によって表現しなくてもいいと考えた。近代化は人々に便利な生活を提供した結果、人々はあまり考えずに生きるようになった。しかし、生活が不便なほうが「習熟する喜び」や「主体的になる喜び」がある。受動的な生活を捨てて、能動的な生活を送ることの素晴らしさを発見する。
第3章 正統と逸脱の脱消費論
社会は人が働くことを過剰に評価している。その結果、人が働きすぎる。仕事を通じて自己を確立しようとする企てはやめたほうがいい。会社はあなたの自己表現の場ではない。意義ある人生を送るための収入はそれほど多くなくてもいいかもしれない。私有財産を追求する過程で、飽き飽きしながらも蓄財してしまう傾向がある。ミニマリズムは「無所有」の理想を掲げる。これは社会の複雑な問題に対するシンプルな実践である。
第4章 ミニマリズムの類型分析
エッツィオーニの分類によると、1) ダウンシフターズ:高級なブレザーにジーンズ、2) Strong Simplifier:リタイアしてボランティア、3) Holistic Simplifier:田舎に移住。
第5章 ミニマリズムの倫理
まずモノを捨ててみる。そのあとで人生を考える。人生の目的が見えなくても、人生の新しい一歩を踏み出すための倫理がミニマリズムである。アメリカでのスモールハウス運動は、スモールハウスに人間の精神を入れようというもの。それは擬似的な「自分専用の宇宙」になる。
シンプルに生きるためにはモノを買わないだけではなく、何もしない時間が必要だ。心からやりたいことに直結していない日常生活のToDoリストはノイズに過ぎない。インパクトのある仕事をするためには、時間とエネルギーを1つの事柄に注ぎ込まねばならない。自己実現ではなく「自己との和解」。
第6章 ミニマリズムと禅
すべてを得るためにはすべてを捨てねばならない。「無所有」となること。ミニマリズムとはこの世界のすべてを獲得するための生き方である。ミニマリストはすべてを捨て、「何者でもない自分」を発見しようとする。禅によれば、悟りを求める心もまた執着心である。悟りを求める心をこそ手放さなければならない。
第7章 資本主義の超克
資本主義においては貨幣のみが唯一の富の基準である。しかしそれは価値の代理表象に過ぎない。脱成長(decroissance)とは「より多いことがより良い」という信仰を放棄することである。脱資本主義の精神は、勤労倫理と快楽消費を拒否する。しかし、人々は勤労の義務を内面化してしまったので、これ以外の生き方を良い生き方とはみなせなくなってしまった。
ここから先は
ご愛読ありがとうございます。もしお気に召しましたらマガジン「ちはるのファーストコンタクト」をご購読ください(月500円)。また、メンバーシップではマガジン購読に加え、掲示板に短い記事を投稿していますのでお得です(月300円)。記事は一週間は全文無料公開しています。