【教える技術】08 会話は全部、怒っていないことを伝えるだけ
火曜日は「教える技術/学ぶ技術」のトピックで書いています。しばらくワーマンの『理解の秘密―マジカル・インストラクション』を材料に書いています。
ワーマンはコミュニケーションの大部分は、相手にしてほしいことを伝えるためのインストラクションだと言います。そうするとインストラクション以外のコミュニケーションは何かと言うと、あいさつや雑談や情報交換ということになります。こうしたコミュニケーションは直接相手に何かをしてほしいということではなくて、ただ情報交換をしているだけです。
この点について、ベイトソンはもっと明確に言っています。ベイトソンは、コミュニケーションには伝達 (report) と指令 (command) が含まれていると言っています。指令の部分がインストラクションであり、伝達の部分が情報交換です。そして次のように書いて、情報交換の意味は「私は怒っていませんよ」ということを伝えることだというのです。
D だってパパが、「会話は全部、怒っていないことを伝えるだけだ」って言うから、だから、あたし──
F いや、全部の会話がそうだというわけじゃない。話している二人が、相手の言うことをよく聞こうという構えでいれば、いろいろ細かな情報を伝えることもできるわけだよ。話すことが、ただ仲良くする以上のことになる。いや、情報を交換する以上のことだってできるかもしれない。二人とも知らなかったことがわかるとかね。
(『精神の生態学』より)
この通り、コミュニケーションのインストラクション以外の大部分は「私たちは仲間ですよ」ということを伝えるためのものです。このために、私たちはあいさつをして、雑談をして、あいづちを打っているというわけです。
「いや、私は相手との会話の中で、もう少し深い話をしていますよ。相手もそれについて意見を言ってくれますよ」という人もいるかもしれません。確かにそういう場合もあるでしょう。その場合は、もはや単なる情報交換ではなく、相手を変えようとするか、あるいは自分が変わろうとするか、あるいは自分も相手も新しい考え方に変わろうとするかという意図がはいってきます。そうなるとそれは単なる(仲間ですよという)情報交換ではなく、会話の参加者が多少なりとも変わるということが意図されたインストラクションであるということになります。
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