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【アドラー教科書】(43) 私的感覚を知る

火曜日は『アドラー心理学の教科書』の記事を連載しています。

2025年2月18日(火)

第2部 感情と信念

第6章 私的感覚と共通感覚

6.1 私的感覚を知る

私的感覚とは、個人がプライベートに持っている自己、他者、世界についての仮想的な価値観です。私的感覚は本人が生まれてから長い時間をかけて作ってきたものですので、本人にとっては無意識的なものであり、ふだんは自覚することなく生活しています。

自分の私的感覚は、感情によって意識することができます。なぜなら、感情は、自分の私的感覚によって生み出された仮想的目標と、現実に起こった出来事との比較によって発生するからです。つまり、現実の出来事が自分の仮想的目標と違うものであれば、それをなんとかしようとしてネガティブな感情(怒りや悲しみなど)を生み出します。ネガティブ感情によって対処行動を促進しようとするのです。逆に、現実の出来事が自分の仮想的目標に合致していれば、ポジティブな感情(うれしい、楽しいなど)を生み出します。ポジティブ感情はそれ自体で充足感を生み出します。

自分の私的感覚を知るためのアドラー派特有の技法はエピソード分析です。エピソードとは、多くの場合対人関係の場面で、言葉のやり取りがあり、感情を伴った一連のできごとです。記憶にとどめておくにしてもそうでないにしても、私たちは毎日いくつものエピソードを体験します。記憶に残ったエピソードは、なんらかの意味、つまり個人的な目的があって記憶したものだとアドラーは言っています。エピソード分析は記憶されたエピソードを材料として分析していきます。

取り上げるエピソードとしては感情をともなったものが良い材料となります。感情をともなったエピソードの多くには自分以外の人物が登場します。まれに自分一人で怒ったり悲しんだりする場合もありますけれども、そこでも自分の思考の中に自分以外の人物が登場しているはずです。そして、自分と登場人物の間に言葉のやりとりがあるはずです。そこに感情が伴います。一連のエピソードをこのように取り出していきます。

エピソード分析では感情を手掛かりにして、何がその人にとっての問題なのかということを特定していきます。そこでは、その人の意識していない期待や願いを明らかにして、最終的にはその人の「私的感覚」つまり「世界についてのプライベートな価値観」を解き明かしていくのです。

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