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【アドラー教科書】(38) 早期回想がライフスタイルを明らかにするのはなぜか

火曜日は『アドラー心理学の教科書』の記事を連載しています。

2025年1月14日(火)

第1部 自己のしくみとその動き

第4章 ライフスタイルを知る

4.6 早期回想がライフスタイルを明らかにするのはなぜか

早期回想を出してもらって、それを材料にしてライフスタイルを分析する方法について述べました。アドラーは、早期回想はその人自身のライフスタイルを「投影 (Projection)」するものだと考えたのです。それは、こういう理由です。

人生の最も最初の記憶のほとんどは忘れ去られています。しかし、「思い出してください」と言われたときに、少しですけれども思い出せるエピソードがあります。なぜそのエピソードを覚えているかというと、そのエピソードがその人自身にとって「重要」だからです。なぜ重要かというと、そのエピソードがその人の現在と未来の行動を選択するために有用だからです。言い換えれば、そのエピソードによって目標への動きの方向づけを決めているのです。だからそのエピソードはその人にとってのコンパスのようなものなのです。だから長い間、記憶に保持されてきたのです。

記憶されているものが重要で役立つものだというのであれば、なぜ人生最初期の記憶である早期回想に注目するのでしょうか。早期回想でなくても、最近の記憶でも良いのではないでしょうか。確かにそうです。しかし、最近の記憶には善悪のバイアスがかかっていて、思い出して話すときに変形や脚色がされています。

一方で、早期回想には善悪のバイアスがかかりません。なぜなら、小さい子どものときのことですので、どんな変なことでも、恥ずかしいことでも、子どもだから許されるということなのです。ですので正直に話すことができます。そうした子供時代のエピソードに、その人の現在の姿やライフスタイルが投影されるのです。ですので、早期回想をライフスタイル分析の素材として使うのです。

それでも、自分の早期回想はやるたびに違うものが出てくるし、その早期回想はそもそも正確な記憶ではない、という人もいるでしょう。はい、それでいいのです。毎回違う早期回想が出てきたとしても、そこにはバイアスのかかっていないあなたのライフスタイルが投影されているはずです。どんなに異なるエピソードが出てきたとしても、あなたの一貫したライフスタイルがそれぞれのエピソードに反映されているはずです。それを読み解けばいいのです。

また、正確な記憶ではないということについても、またそれでいいのです。多少変形されたとしても、また細かなディテールが違ったとしても(そもそも本当のことは検証できません)、ライフスタイル分析をする素材としてはまったく問題ないのです。そのエピソードに何が投影されているかということだけが本質だからです。

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