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【本】加藤秀俊『独学のすすめ』:レジャー、しごと、専門

2024年11月21日(木)

木曜日は読んだ本の紹介をしています。今回は過去の記事を再録します。

2022年10月19日(水)

加藤秀俊『独学のすすめ』(ちくま文庫, 1975, 2009)を読みました。初版は1975年に出ていて、確かそのころに一度読んでいたはずです。それが文庫になって2009年に出版されました。

生涯学習の時代にはいり、「独学」が、いま見直されていますので、この本も多くの人に読まれるといいと思います。50年前の本とは思えないほど、みずみずしくて、その見通しの鋭さに感心し、インスピレーションを刺激します。

何箇所か引用してみます。

お稽古ごと

まず注目していいのは、お稽古ごとというものが、一般的にいってレジャー教育につながりうるという可能性である。p.122

男のつまらなさ、というのは、子どものころにこうした情操教育、あるいはレジャー教育をうけなかったことと関係しているにちがいない。p.128

お稽古ごと、レジャー、趣味というのは人生の大切な部分であるにもかかわらず、これまであまり注目されず、研究も多くありませんでした。家庭、職場以外の第3の場所(サードプレイス)を見つけることとともに、レジャーや趣味をどのように形成していくかは幸せな人生を送る上で重要な視点だと思います。最近ですと、「推し」活動なんかもこれに含まれるかもしれません。

「しごと」の意味

たとえば食事のしたくをするとき、ティコピアでは、家族が総動員ではたらく。男も女も、若者も年よりも、みんなが、これまたアドリブで火をおこしたり、タロイモの皮をむいたり、ココナッツを割ったりする。なにがそのときに必要とされているか、をみんながそれぞれに判断して、なにかをしているのである。p.134

自分のもの、あなたのもの、かれのもの、といった、「個人」の境界線がそこにはない。ひとりの人間がする、ある作業は、そのまま、集団全体のなかにとけこんでいるのだ。p.135

たとえば、家族でキャンプ旅行に出たりしておとなも子どもも、妻も夫も、まきをひろい、火をおこしたりするとき、わたしたちは、なにかしら、日常とは別なうきうきした気持ちになるものだ。ティコピアの文化というのは、たぶんそういう文化なのである。そういう世界のなかで、わたしたちにとっての、「しごと」の意味は、ふだんのそれとまったくことなった新鮮なものでありうるのだ。p.140

レジャーのひとつであるキャンプにおいては、火をおこすことやコーヒーを入れることといった「しごと」の意味が全体として変わってきます。また、そうすることで集団の中で何らかの役割を果たすことによっても意味が変わってきます。こういうことを体験する場としてもレジャーやサードプレイスが重要なのだと思います。

「専門」とはなにか

さて、こんにちの学問や教育の「分業」はわたしのみるところでは、十九世紀の産物である。……むかしは、学者は学者であるという、きわめて単純明快なる理由によって、森羅万象にわたるあらゆる会話をたのしむことができた。「知識人」は、ひとつのクラブを形成することができた。しかし、いまの学者、知識人には、じつのところ、しばしば共通の話題がなくなってしまっているのである。p.208

しかし、それでいいのだろうか、というのがわたしの疑問なのである。知識のありかたがバラバラであればあるほど、じつは、それを互いにつなぎあわせ、総合化する努力が必要なのではないか。そして、人間のがわも、かつての人間がもっていた健全な多面性を要求されているのではないか。p.209

アメリカの各州の教育委員会はこの問題に挑戦して、まったくあたらしいカリキュラムをつくっている。すなわち、ある州では、小学校の課目を「わたしたちの環境」、「ひととひとをむすぶもの」、「わたしたち自身」という三つに分け、この第一の課目に従来の理科、社会などに相当するものをいれ、第二の課目に国語、社会、倫理、第三に図工、生物、体育などをはめこんで、従来のカリキュラムの名称もだんだん廃止してゆく、というプランが検討されているらしい。p.209

この問題は50年たった今も解決されていません。学問領域はますます専門的な分化が進んでいます。これは悪いことではありませんし、必然だと思います。しかし、それと同時に、知識や世界観を総合化する努力をしていかなければならないのだろうと思います。それがなければ、私たちは地図を持たずに徘徊しているようなものかもしれないのです。

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