
【研究】教育工学の「世界の構成」と研究方法
2024年9月27日(金)
金曜日は研究の話題で書いています。
日本教育工学会(JSET)は昔の論文をJ-STAGEで公開する活動をしている。素晴らしい。こういう地味な活動がすごく大切だ。オンライン上で閲覧できない論文はほぼ無視される時代に入りつつある。
私の論文をオンライン公開してほしいと一年前に申請したものが、公開された。以下の論文。
向後 千春(2002) 教育工学の「世界の構成」と研究方法, 日本教育工学雑誌, 26 巻 3 号 p. 257-263
抄録
教育工学における研究方法についての過去の研究成果を概観しながら,これからの方向性を予測する.まず,ここ10数年で注目されてきた質的研究法の3つの側面について,実証主義との関係から整理する.さらに,それがポストモダンにおける「世界の構成」のためのシンボル的な方法とされてきたことを明らかにする.最後に,教育工学の複数の研究パラダイムについて,それが方向性と対話を失った混乱状態におちいらないためにパラダイム同士の理解が必要なこと,さらに,その分野で成果を上げるためには研究方法の転換と拡大と,そのための記述方法の合意が必要であることを主張する.
この論文はとても思い出深い。まず、原著や資料というカテゴリーではなく「寄書」というカテゴリーの論文である。このカテゴリーはレビューや意見論文のためのもので、当時はほとんど使われていなかった。わざわざ意見論文として書いたのは、自分自身が教育工学の研究方法論に迷っていて、何らかの決断をしたいという欲求があったのだと思う。
もうひとつの思い出は、当時の編集長の清水康敬(やすたか)先生から、この論文について「こんな小説みたいな投稿が来た」という言葉をもらったことだ。そのとき、私は編集委員で、その言葉を編集委員会で聞いたのである。私は若手だったので、たぶん清水先生はその論文の著者がまさにそこにいることを知らなかったのだろうと思う。
その言葉は半分はがっかりしたが、半分は洞察を与えてくれた。それは、私は小説みたいな論文が書きたいのだ、ということだ。
その後、私はJSETの編集委員会で清水編集長のもとで、編集委員としての修行を長く続けることになった。それは、私自身の成長を促してくれたと感謝している。
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