見出し画像

【研究】「課題の分離」の出自と変遷について

金曜日は研究の話題で書いています。

2025年1月10日(金)

「課題の分離という考え方はアドラー心理学の真髄である」というような文章を見かけることがあります。しかし、これはまったくの誤解です。課題の分離という考え方は、もともとアドラーのものでもなく、アドラー心理学の重要なアイデアでもありません

では、課題の分離という考え方はどこから来て、どのようにしてアドラー心理学に取り入れられ、広まったのでしょうか。その経緯を明らかにしたのが次の論文です。

向後千春 (2024) 「課題の分離」の出自と変遷について アドレリアン v37, n2, p9-12

要旨: 『嫌われる勇気』が広く読まれた影響で、「課題の分離」という考え方がアドラー心理学の真髄であるという誤解が広まった。しかし、課題の分離はアドラー心理学の概念ではない。それは、T. GordonのParent Effectiveness Training(PET)で「問題の所有者(Problem Ownership)」として提示されたのが最初である。それをD. DinkmeyerとG. D. McKayがSystematic Training for Effective Parenting(STEP)の中で、アドラー心理学の協力に至る文脈でこれを取り入れた。その後、野田俊作は自身の親教育プログラムの中でこのアイデアを「課題の分離」として提示し、それがさらに『嫌われる勇気』に取り込まれるという経緯となった。

「課題の分離」の出自についての結論としては、次のようにまとめることができます。

  1. 課題の分離モデルは、ロジャーズ派であるGordonのParent Effectiveness Training(PET)の中で、Problem Ownership(問題の所有者)として初めて登場した。

  2. その後、アドラー派のDinkmeyerとMcKayが、Systematic Training for Effective Parenting(STEP)で、問題の所有者の考え方を引き継いだ上で、協力(Cooperation)に向けて勇気づけることが重要だとした。

  3. さらにこれを引き継いで、野田はSMILEを開発し、さらにPassgeで「課題の分離」としてキーワード化した。

  4. 『嫌われる勇気』ではこのキーワードをとりわけ印象的なものとして紹介したため、アドラー心理学の重要な概念であるという誤解が広まった。


この論文を読みたいという方は、kogo@waseda.jpまでご請求ください。PDFをお送りします。

ここから先は

0字

向後千春が毎日読んだり、書いたり、考えたりしていることを共有しています。特に、教える技術、研究するこ…

学生割引プラン

¥150 / 月
初月無料

みんなのプラン

¥300 / 月
初月無料

ゼミプラン

¥600 / 月
初月無料

ご愛読ありがとうございます。もしお気に召しましたらマガジン「ちはるのファーストコンタクト」をご購読ください(月500円)。また、メンバーシップではマガジン購読に加え、掲示板に短い記事を投稿していますのでお得です(月300円)。記事は一週間は全文無料公開しています。