見出し画像

【研究】個別化教授システムの実践と研究:一斉講義形式からの脱却

2024年10月4日(金)

金曜日は研究の話題で書いています。

富山大学に在職していた1990年代の私は、大学の授業のやり方を一斉講義形式から何か別の新しい形にしたいと思って、試行錯誤を繰り返していました。

そこでヒントになったのが、アメリカのフレッド・ケラーが1960年代に提唱した「個別化教授システム(Personalized System of Instruction, PSI)」でした。この考え方の土台は、行動分析学と完全習得学習(Mastery Learning)
です。学習者に無理のないスモールステップで学習を自己ペースで進め、最終的には、すべての学習者が学習内容を完全習得することを目指しています。そのための個別学習なのです。

PSIはアメリカの大学では1990年代にはほとんど途絶えました。それを日本の大学でマルチメディアの装いを新たにかぶせて復活させようと私は考えました。論文の中で次のように書いています。

これからの大学教育を改善していくために、もっとも重要なのは授業のシステム化である。授業のシステム化というのは、ハードウエアの導入のことを言っているのではない。そうではなく、主に人的資源の配分と情報の流れを制御することである。大学の授業はもはや教員一人がやるものではなくなった。つまり、教員は授業全体とカリキュラム全体から見たときの授業をデザインする役割を仕事とする。実際の授業は主にティーチング・アシスタント(TA)というような名前で呼ばれている指導者が働き手となる。そこでは教員は監督のような役割を担う。TAとしては大学院生やあるいは学部の上級学年の学生で優れた者が指名される。こうした形で教育の体験を積ませることによって次の世代の大学教員を育てていることにもなる。PSIの根底にはこうした授業のシステム化という考え方が流れている。

富山大学での授業の実践を積み重ねて、その実績に手応えを感じて書いたのが次の論文です。

向後千春(1999)個別化教授システム(PSI)の大学授業への適用, コンピュータ&エデュケーション, 7 巻 p. 117-122

抄録

大学の「情報処理」や「統計学」といった基礎的な科目で、個別化教授システム(PSI, Personalized System of Instruction)を実践している。この授業実践の特色は、Web化された教材の利用、受講生10人にひとりの割合でつくプロクター(指導者)、自己ペースによる進度、単元ごとの通過テストによる完全学習といった点にある。この報告では、授業実施にあたってのポイントを整理し、考察する。

この授業実践での成果は、私が富山大学から早稲田大学に移籍して、eスクールというインターネットを使った通信教育という新しいチャレンジに直面したときに活かされることになりました。

ここから先は

0字

向後千春が毎日読んだり、書いたり、考えたりしていることを共有しています。特に、教える技術、研究するこ…

学生割引プラン

¥150 / 月
初月無料

みんなのプラン

¥300 / 月
初月無料

ゼミプラン

¥600 / 月
初月無料

ご愛読ありがとうございます。もしお気に召しましたらマガジン「ちはるのファーストコンタクト」をご購読ください(月500円)。また、メンバーシップではマガジン購読に加え、掲示板に短い記事を投稿していますのでお得です(月300円)。記事は一週間は全文無料公開しています。