3-研究19a

【研究】09 研究のつまずき:締切を自分で作らなくてはならない

水曜日は「研究すること」のトピックで書いています。しばらく「研究におけるつまずき」というテーマで書いています。

前回は、質問を受けたときに即座に自分の研究の価値や意味について説明できるようにしておくことについて書きました。その答え方としては「今説明した私の研究はテーマや範囲も限定されているし、特殊なケースかもしれないけれども、これを明らかにすることで◯◯という<より大きな>問題を理解したり、解決するのに役立つのですよ」というパターンが典型的です。

今回は、「締切を自分で作らなくてはならない」ということを書きます。

研究は自発的に進めるものです。誰かに依頼されてするものでもなければ、指示されてするものでもありません。また、研究することで報酬を得るということも、自発的な研究に関してはありません。こうしたことは自由があって良さそうに見えます。その独立性こそが研究することの意義を支えていると考えられます。

しかしこの自由さは一方で、いつまでたっても研究の成果をまとめることができないというリスクを生みます。特に独立系研究者は、大学などの組織の中にいるわけではないので、外からの制約が働きません。卒業論文を書いて学士号を得る場合や、修士論文を書いて修士号を得る場合は、決められた年限、つまり締切が決められています。また、同期で入学した仲間がいることが、一緒に卒業しようという動機づけを高めますので、お互いに励ましあい、協力しあって締切に間に合わせる力として働きます。

この点で、基本的に1人で進めなければならない独立研究者は、あえて自分で締切を設定する必要があります。締切がなければ、研究をまとめようという力が働きません。いつまでも不十分、不満足な段階にとどまってしまい、永久に先延ばしをするのです。

博士号を取得する率が、学士号や修士号と比較して圧倒的に低いのは、もちろん博士論文を書くことが大変であることがその第一の理由です。しかし同時に、博士論文をまとめるための明確な締切がないことも一因だと考えられます。最短で3年、最長で6年間の指導期間が設定されていて、その間累積3年の休学が認められています。その中で、準備ができた段階で博士論文を書くことを申請するのです。この自由度の高さが逆に先延ばしの原因となります。首尾よく博士号を取得した人の例を見るとたいていは最短の3年間で博士号を取るという締切を自ら決めた人です(それでも3年で書ける人はまれです)。

独立系研究者の締切はどのように決めたらいいでしょうか。それは論文投稿を最終ゴールとして決め、そのステップとして学会や研究会での発表を計画するのがいいでしょう。学会や研究会での発表で満足するのではなく、あくまでも投稿するためのステップとして考えることです。それも含めて自分で締切を決めて進めていく覚悟が必要です。そうでなければ、<姿勢としては>研究に取り組んではいるけれども、いつまでたっても研究を<進めている>とはいえないのです。

マガジン「ちはるのファーストコンタクト」をお読みいただきありがとうございます。定期購読者が増えるたびに感謝を込めて全文公開しています。このマガジンは毎日更新(出張時除く)の月額課金(500円)マガジンです。テーマは曜日により、(月)アドラー心理学(火)教える/学ぶ(水)研究する(木)お勧めの本(金)思うこと/したいこと(土)経験と感じ(日)お題拝借で書いています。ご購読いただければ嬉しいです。

ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 100

ご愛読ありがとうございます。もしお気に召しましたらマガジン「ちはるのファーストコンタクト」をご購読ください(月500円)。また、メンバーシップではマガジン購読に加え、掲示板に短い記事を投稿していますのでお得です(月300円)。記事は一週間は全文無料公開しています。