“正しい”日本語、“正しい”こぎん刺し~「本来の意味を知っていれば」とは。
「何々という言葉の意味を何%の人が誤って覚えていた」というような調査結果がたびたび報道される。
「日本語の乱れ」を言いたいのかもしれないけど、ことばは使ううちに変わっていくものだ。
(しかしSNSを見ていると特に、どう見てもこれは違う意味になったり何を言ってるのかわからないだろ…というレベルの表現も見かける。いわゆる若者言葉ではなく、もっと大人の人による純粋な間違い?)
同時代の読者の多くの人が違和感を持つような誤用でなければ良いのではないかと私は考えている。
本来の意味を知っていれば。
この「本来の意味を知っていれば」という部分は、こぎん刺しにも通じるところがあると感じる。
こぎん刺しはそもそも麻布に綿の糸で布目を埋めるように刺して、保温や補強をしていた。
やがて模様ができて、一目、三目と奇数の刺し目で布全体に柄を作るようになった。
古作こぎんにみられる模様(もどこ)を基本の伝統模様としている。
2010年代から、こぎんが広まっていく中で、北欧風の新しいデザイン模様が生まれた。そもそもこぎん刺しのもようはものによっては北欧風だったり、アーガイルやアジアの織物に形が似ていると言われていた。
ほっこりした北の手仕事、と言う受け止めもあったのだろうと思う。
本来の模様を知らない人は、古作模様も北欧風のデザイン模様も区別なくこぎんと認識して、「この模様はこぎんと言えるのだろうか」と言うものも生まれた。
また、こぎん刺しは織り目の横に向かって刺し進め、端まで行ったらまた横に向かって刺し進めながら戻る形になる。
仕立てるときに向きを気をつけないと、模様の向きがおかしくなる。
ヘアゴムなど1つの模様を刺したものを、90°回転してつけている人も見かけた。
ピンブローチやヘアゴムは使いかたで回転する場合もあるので仕方がないが、アップリケのように縫い付けるものだと事情は変わる。本来は◆の形になる模様が、■の形になってしまっているのだ。
こぎんを知っている立場からすると、非常に違和感がある。
広まるのは良いことだけど、本来の形を踏まえた上で広がらないとなあ…と考えてしまうことである。
しかし果たして、先人はこの状況をどう思うだろうかと想像すると、意外とそんなに目くじらを立てないのでは、という気がした。
先人が刺した「古作こぎん」を見てみると、模様を刺し間違えてもそのまま進んでいつの間にか柄に取り込まれて辻褄があっている。
偶数目で模様を構成する南部地方(青森県東部)の菱刺しの模様や刺し方を取り込んでみたり、自由である。
これだけ創意工夫が逞しいと、「好きなようにやればいい」と言われるような気がする。
それでも私は、できるだけ伝統模様の形を受けついて、それをぬいぐるみの形で次に伝えたいと考えている。
伝統の模様のよさや美しさが好きだから、そうしたいというだけのこと。
人に押しつけず、あくまで私個人のスタンスとしてそうありたいと思う。
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