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フードデザイン/アート/カルチャー2|フードデザインをよりよく知るための本

はじめに

前回の記事に引き続き、「デザイン文脈におけるフードデザイン」について、よりよく知ることに役立つ書籍を紹介したいと思います。
 今回はフードデザイン/アート/カルチャーの書籍を紹介する後編の記事です。中期的なフードデザインの歴史において取り上げられるDaniel Spoerri(1960年代にEat Artのムーブメントを主導した)や、短期的な歴史に大きな影響を与えたエル・ブジのクリエイティブチームメンバーのひとり、Luki Huberなどの作品集を取り上げつつ、食とデザインの分野で有名なものをピックアップしました。どのようなアイデアや表現が人々の心を動かしたのか?を学ぶきっかけになるはずです。


選書〈フードデザイン/アート/カルチャー〉

Designs and Sketches for Elbulli

Luki Huber
2019/07/18
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Designs and Sketches for Elbulli

・作品集、展覧会カタログ
・elBulliのクリエイティブチームで2002年から2005年の間に活躍したプロダクトデザイナーLuki Huberによるドローイングやスケッチ、記録写真を当時のストーリーと共に紹介
・フェラン・アドリア独自のテクニックや調理のために使われた人工物を多数収録

Pipette
what was suitable for a laboratory[a very hygienic environment] would also be suitable for a kitchen.

ピペット
実験室(非常に衛生的な環境)に適しているものは、キッチンにも適している。

p.150

Aluminium Tube
It was mainly used in the restaurant to hold a rather runny peanut praline, with which diners could finish a dish. This was a process Ferran pursued in certain preparations, letting diners themselves 'cook' by adding the final flourish.

アルミニウムチューブ
レストランでは、滑らかなピーナッツのプラリネを入れるために主に使用されていた。これは、フェランが特定の料理で取り入れていた方法で、最後のアクセントを加えることで、客自身に「料理」させるというものだった。

p.172

Stella Populis: Pop will eat itself

Blondey McCoy
2019
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Stella Populis: Pop will eat itself

・写真集
・人々が信仰するセレブリティ達をトーストの焦げ跡として浮かび上がらせる
・焦げ跡など様々な場所に神の存在を見ること(パレイドリア現象としても知られる)を元ネタにした作品

• Discover objectively who the false idols that today's society deem worthy of worship are.
• Cast these personal Jesuses in the role of the Jesus we all know and love, in a twist on the above-mentioned cliché[an abstract, messiah-like shaped burn in a piece of toast].

• 今日の社会が崇拝に値すると判断する偽の偶像が誰であるかを客観的に探求する。
• これらの個人的なジーザスを、私たちが皆知っていて愛しているジーザスの役割に置き換え、上述の定型句[神の姿や存在が日常の中で偶然にも現れる]に新しい解釈を加える。

p.6

The mark of a true star lies not only in their ability to amass a fanbase, but in their ability to nurture and grow it, holding their fans' attention and adoration for life.

真のスターの特徴は、ファンベースを獲得する能力だけではなく、それを大切に育てて拡大し、ファンの関心と愛情を一生涯保ち続ける能力にもある。

p.10

分子調理の日本食

石川伸一/石川繭子/桑原明
2021/04/26
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分子調理の日本食

・レシピ集
・分子調理×日本食をテーマに慣れ親しんだ料理を、科学と技術で変えてみることで、新たな食の可能性を提示する
・ゲル化や架橋化を用いた料理のレシピと、それぞれの分子調理法の解説を掲載

球状化は、日本で発明された人工イクラの技術を元に発展し、分子調理法で最も有名な方法の一つになった。

p.49

科学実験で古くから使われている実験器具や実験機器は、その原理を考えると、料理に応用できる宝の山のように思えてくる。

p.146

Daniel Spoerri

Ingried Brugger, Veronika Rudorfer (eds.)
2021/07/20
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Daniel Spoerri

・作品集
・オーストリア銀行美術フォーラムでの回顧展に合わせて刊行された一冊
・ダニエル・スペーリの作品や彼自身の蒐集品、インタビューを収録
・1960年代に食とアートの文脈を見出した前衛芸術家

I pointed to a table and explained to him[Alberto Giacometti] that that table, exactly the way it was, was an artwork, without any contribution from me. It's like a three-dimensional photograph, a snapshot of reality.

私はテーブルを指して、それがまさにその状態で、私の手を加えることなく、芸術作品だと彼[ジャコメッティ]に説明した。それは三次元の写真のようなもの、現実の一瞬を切り取ったものだ。

pp.74-75

The same principle of setting into motion through empathy and alienation can also be observed much later in the Snare-Pictures: while personal closeness is established during the course of an evening meal, distance is generated by the unusual placement, its hanging on the wall.

スネア写真においても、共感と異化を通じてもたらされる動きの原理が見受けられる。夜の食事中に個人的な親密さが深まる一方で、壁に掛けられるという一般的でない配置が距離感を生む。

p.132

The Poverty Line: Chow and Line

Stefen Chow et al.
2021/08/31
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The Poverty Line: Chow and Line

・写真集
・貧困ライン(それ以下の収入では、最低限の栄養、衣類、住まいのニーズが満たされなくなるというレベル)をテーマに、世界各国の貧困の現状を描写する
・貧困ラインとして定義される金額で、ひとりの生活者が1日に購入可能な食材の写真を掲載
・貧困を課題として捉える理由について、栄養不足や教育格差につながるという手段的な懸念と、道徳や人権といった本質的な懸念に言及

instant noodles have also become a prison currency in the US, replacing cigarettes as the most traded item.

アメリカの刑務所ではインスタントラーメンが通貨として使われるようになり、最も取引されるアイテムとしてタバコを追い越している。

p.367

"What does the International Poverty Line of USD 1.90 per person per day [calculated by the World Bank] allow a household to buy?"

世界銀行によって算出された国際貧困ライン、つまり1人1日1.90米ドルで、一家は何を買えるのか?

p.405

Odd Apples

William Mullan
2021/10/05
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Odd Apples

・写真集
・外は真っ白、中身がピンク、提灯のような形、カエルのような見た目、あるいは星形など、様々な種類のリンゴの写真を収録
・各品種の原産地、初めて記録された年、収穫場所を含めた説明を記載

there are estimated to be 7,500 known cultivars…some intentionally crossed and created by our heavy hand but many of them chance seedlings born out of luck. …The apple is expressive, wild, funny, and strange.

推定で7,500の既知の品種が存在し、その中には意図的に交配され、私たちの積極的な介入によって生み出されたものもあるが、多くは偶然に生まれた幸運な苗木である。…リンゴは表情豊かで、野生的で、ユーモラスで、そして奇妙だ。

p.8

EVERY TIME AN APPLE TREE GROWS FROM SEED, AN ENTIRELY NEW VARIETY IS BORN. THAT FRUIT WILL BEGIN AS A FIVE PETALED FLOWER, MATURING INTO A FRUIT AFTER POLLINATION. ONCE IT'S READY, IT WILL BE THE FIRST AND ONLY OF ITS KIND, A POMME SUI GENERIS, NEVER KNOWN OR TASTED BEFORE.

リンゴの木が種から育つたびに、まったく新しい品種が生まれる。その果実は5弁の花として始まり、受粉を経て果実へと成熟する。一度成熟すれば、それはその種の中で唯一無二のものとなり、それまで誰も知らなかった、また味わったことのない「特別な果実」となる。

p.33

Cooking With Scorsese: The Cookbook

Hato Press
2021/11/05
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Cooking With Scorsese: The Cookbook

・作品集、カット集
・ジャンルを問わず、食をテーマにした、あるいは食が登場する映画のシーンを切り取って収録
・調理や食事の所作、時にはセリフから食の美学やストーリーを想像させる

food is a presence in film – as in life – that embodies cultural and class values, states of mind, or simply helps the plot along from A to B.

映画における食べ物は、人生と同じく、文化や階級の価値観、心の状態を表現するものであり、また、物語をAからBへと進行させる役割も果たしている。

vol.1
p.5

the medium of film is nourished, never more so than when stories through food are brought to the screen be they wild, eccentric, or utterly endearing.

映画というメディアは、食べ物を通じた物語がスクリーンに映し出されるとき、特にその物語がワイルドであったり、変わり者であったり、または心から愛されるものであったりするときに、最も豊かになる。

vol.3
p.10

Better Food for Fighting Men

Matthieu Nicol
2022/09/24
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Better Food for Fighting Men

・米陸軍ナティック兵士研究開発技術センターで、主に1970年から80年代にアーカイブされた記録写真を収録
・食品の物撮りから、実験室での評価の様子、パッケージ、盛り付け例まで様々な角度でアーミー食を描写

For the world's most formidable army, feeding the troops is fraught with logistical, psychological and food safety challenges. Bacteria is an enemy; supply chains are vital, intricate delivery systems.

世界最強の軍隊にとっても、兵士への食事提供は、物流、心理面、そして食品安全に関する多くの課題に満ちている。細菌は敵であり、サプライチェーンは極めて重要な、複雑に組み合わさった配送システムである。

p.91

As is often the case, the innovations developed by the U.S. military had multiple applications in civilian life, many of which are manifest on the shelves of supermarkets today.

よくあることだが、米軍が開発した革新的な技術は民間でも多用され、今日その多くはスーパーの棚にも並んでいる。

p.91

以上がフードデザイン/アート/カルチャーに焦点を当てた書籍の紹介でした。フードデザインが一部の裕福な人々のためのものではないことや、食材の地域性と密接に関わること、映像作品の中で鑑賞者を作品に没頭させるためのツールとして有効であること、局地での食事は短期的なフードデザインが始まるより前にデザインされ始めていたことなど、各書籍がフードデザインをよりよく知るためにとても貴重な内容となっています。
 これにて一連の本紹介記事を終わりにしたいと思います!いかがだったでしょうか。マガジンにまとめているので、もしお読みになっていない記事が合う方は、ぜひチェックしてみてください!

ここまでに紹介しきれなかった面白い本もまだまだあるので、またいつか別の記事で取り上げられたらと思います。
 繰り返しになりますが、こうした内容を『フードデザイン:未来の食を探るデザインリサーチ』(BNN、2022)の中でも取り扱っています。この分野の変遷や周辺領域との関連性などを時間軸に沿ってまとめましたので、よろしければそちらもご覧ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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本記事中で引用した文献はDeepLを用いて翻訳し、ChatGPTを用いて修正したものとなります。致命的な誤訳等ございましたら、ご指摘いただけると幸いです。また、記事は執筆時点での情報をもとに書いたため、最新情報であるとは限らないことをご承知ください。さらに、本記事の内容は私見によるものであり、必ずしも所属企業の立場や戦略、意見を代表するものではありません。

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