夫婦別姓最高裁決定 三浦裁判官の違憲意見
今夜、判決読もうよ会が企画されていることを発見し、ぜひ参加してみたいところ
せめて違憲意見のひとつめは目を通しておこう
裁判官三浦守の意見は,次のとおりである。
私は,結論において多数意見に賛同するが,本件各規定に係る婚姻の要件について,法が夫婦別氏の選択肢を設けていないことは,憲法24条に違反すると考えるので,意見を述べる。
1 婚姻前の氏の維持に係る利益
氏名は,社会的にみれば,個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが,同時に,その個人からみれば,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,人格権の一内容を構成する(最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁参照)。
他方,氏は,一般に,名とは別に,婚姻及び家族に関する法制度の一部として,親子関係など一定の身分関係を反映し,また,身分関係の変動に伴って改められることがあり得るものであり,婚姻における氏の在り方も,こうした法制度全体において関連する仕組みが定められる。
しかし,そのような法律の内容如何によって,氏名について,その人格権の一内容としての意義が失われるものではない。氏は,名とあいまって,個人の識別特定機能を有するとともに,個人として尊重される基礎であって個人の人格の象徴であることを中核としつつ,婚姻及び家族に関する法制度の要素となるという複合的な性格を有するというべきである。
そして,氏の変更に関わる身分関係の変動が婚姻という自らの意思で選択するものである場合にも,その意思が当然に氏を改めるという意思を伴うものではない。
人が出生時に取得した氏は,名とあいまって,年を経るにつれて,個人を他人から識別し特定する機能を強めるとともに,その個人の人格の象徴としての意義を深めていくものであり,婚姻の際に氏を改めることは,個人の特定,識別の阻害により,その前後を通じた信用や評価を著しく損なうだけでなく,個人の人格の象徴を喪失する感情をもたらすなど,重大な不利益を生じさせ得ることは明らかである。
したがって,婚姻の際に婚姻前の氏を維持することに係る利益は,それが憲法上の権利として保障されるか否かの点は措くとしても,個人の重要な人格的利益ということができる。
改姓しないことは、「人格的利益」?!
2 婚姻の自由
平成27年大法廷判決は,憲法24条1項について,婚姻をするかどうか,いつ誰と婚姻をするかについては,当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものであるとしている。そして,最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁は,それに加えて,婚姻をするについての自由は,同項の規定の趣旨に照らし,十分尊重に値するとしたが,これは,民法の規定が,再婚をする際の要件に関し男女の区別をしていることにつき,憲法の平等原則との関係で考慮すべき点として判示したものであり,この自由の憲法上の位置付けや規範性を限定したものではないと解される。
そもそも,婚姻をするかどうか,いつ誰と婚姻をするかということは,単に,婚姻という法制度を利用するかどうかの選択ではない。婚姻は,その後の生活と人生を共にすべき伴侶に関する選択であり,個人の幸福の追求について自ら行う意思決定の中で最も重要なものの一つである。婚姻が法制度を前提とするものであるにしても,憲法24条1項に係る上記の趣旨は,個人の尊厳に基礎を置き,当事者の自律的な意思決定に対する不合理な制約を許さないことを中核とするということができる。
そして,憲法24条1項が,婚姻は両当事者の合意のみに基づいて成立する旨を明記していることを考え併せると,法律が,婚姻の成立について,両当事者の合意以外に,不合理な要件を定めることは,違憲の問題を生じさせるというべきであり,その意味において,婚姻の自由は,同項により保障されるものと解される。
他方で,婚姻及び家族に関する事項は,社会の種々の要因を踏まえつつ,夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断によって定められるものであり,その具体的な制度の構築は,第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねられる。しかし,そのことは,他の憲法上の権利の場合と同様に(財産権,選挙権等についても,憲法上,権利や制度の内容は,法律で定めることとされている。),婚姻の自由の保障を否定する理由となるものではない。
取り分け,平成27年大法廷判決が述べるように,憲法24条2項は,その立法に当たり,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきものとして,その裁量の限界を画しており,憲法上の権利として保障される人格権を不当に侵害する立法措置等を講ずることは許されない。そして,この要請は,形式的にも内容的にも,同条1項を前提とすることが明らかであり,そこにいう個人の尊厳は,婚姻の自由の保障を基礎付ける意義を含むものとして,立法の限界を画するということができる。
3 権利の制約及び合憲性判断の枠組み
民法750条は,婚姻の効力として夫婦が夫又は妻の氏を称することを規定するが,「婚姻の際に定めるところに従い」と規定し,婚姻の際にその氏を定めることを前提としている。そして,婚姻は,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生じ(民法739条1項),婚姻の届書には,夫婦が称する氏を記載して届け出なければならないから(戸籍法74条1号),婚姻をしようとする者は,夫婦が称する氏を定めて婚姻の届書に記載して届け出なければ,婚姻をすることができない。したがって,本件各規定は,民法739条1項とあいまって,夫婦が称する氏を定めることを婚姻の要件としており,法が他に選択肢を設けていないことは明らかである。
これにより,婚姻をするためには,二人のうちの一人が氏を変更するほかに選択の余地がない。これは,法の定める婚姻の要件が,個人の自由な意思決定について,意思に反しても氏の変更をして婚姻をするのか,意思に反しても婚姻をしないこととするのかという選択を迫るものである。婚姻の際に氏の変更を望まない当事者にとって,その氏の維持に係る人格的利益を放棄しなければ婚姻をすることができないことは,法制度の内容に意に沿わないところがあるか否かの問題ではなく,重要な法的利益を失うか否かの問題である。これは,婚姻をするかどうかについての自由な意思決定を制約するといわざるを得ない。
この制約は,法律上の要件により,夫婦が称する氏を定めない婚姻の成立を否定するものであって,夫婦同氏制が意図する直接的な制約といってよいが,ここでの問題は,本件各規定に係る婚姻の要件について,法が夫婦別氏の選択肢を設けていないことが,婚姻の自由を制約することの合理性である。法律上の要件について,憲法上の権利の制約との関係でその合理性が問題となる以上,当該権利の性質に応じて,合憲性の審査を行う必要がある。
婚姻の自由は,前記のとおり,個人の尊厳に基礎を置き,当事者の自律的な
意思決定に対する不合理な制約を許さないことを中核とする。そして,個人の尊厳は,法制度が立脚すべき基盤として立法の限界を画するものであり,立法裁量の指針や考慮要素にとどまるものではない。
したがって,この場合,婚姻の自由の制約が正当化されるかという観点から,その合理性を判断する必要がある。その判断は,法制度全体の仕組みを前提とするものであるが,この正当化と関連しない個々の仕組みの当否や立法裁量を問題とするわけではない。例えば,嫡出子の氏の取扱いは,嫡出子に関する仕組みの下で,それが夫婦別氏の選択肢を設けないことを正当化する事情となり得るかなど,その正当化との関連で考慮される。それを超えて,この選択肢を設ける場合の子の氏の取扱いについて,様々な可能性やその当否を検討することは,基本的に,立法裁量の範囲に属する問題であって,上記の判断を左右するものではないと考えられる。
このような婚姻及び家族に関する法制度は,社会の状況や国民の意識等の種々の要因を踏まえつつ,全体の整合性や現実的妥当性等を考慮して定められるものであり,上記の合理性の判断も,時代の状況に応じた変化と相応の幅があり得るが,それは,憲法上の権利に関する限界を前提としない立法裁量とは異なる。婚姻の自由を制約することの合理性が問題となる以上,その判断は,人格権や法の下の平等と同様に,憲法上の保障に関する法的な問題であり,民主主義的なプロセスに委ねるのがふさわしいというべき問題ではない。
以上を前提にして,憲法24条1項の保障する婚姻の自由の性質を踏まえるとともに,同条2項が立法に当たっての要請を明示していることに鑑みると,本件各規定に係る婚姻の要件について,婚姻の自由の制約が同条に適合するか否かについては,婚姻及び家族に関する法制度における本件各規定の趣旨,目的,当該自由の性質,内容,その制約の態様,程度等を総合的に衡量し,個人の尊厳と両性の本質的平等の要請を踏まえて,それが合理的なものとして是認できるか否かを判断する必要がある。
4 本件各規定についての合憲性
平成27年大法廷判決は,本件各規定に係る夫婦同氏制の趣旨,目的に関し,複数の点を指摘しているところ(同判決の第4の4 ア),それらについては,婚姻及び家族に関する法制度における相応の合理性があるといえる。しかし,ここで問題となるのは,夫婦同氏制がおよそ例外を許さないことが婚姻の自由の制約との関係で正当化されるかという合理性である。夫婦同氏制の趣旨,目的と,その例外を許さないこととの実質的な関連性ないし均衡の問題といってもよい。このような観点から検討すると,夫婦同氏制の趣旨,目的については,以下のような疑問がある。
第1に,社会の構成要素である家族の呼称を一つに定め,それを対外的に公示して識別するといっても,現実の社会において,家族として生活を営む集団の身分関係が極めて多様化していることである。
現行法は,同一の氏を称すべき家族の範囲を,日本国民の夫婦及びその間の未婚の子と養親子に限定し,それ以外の身分関係にある者を除外している。しかし,70年を超える時代の推移とともに,婚姻及び家族をめぐる状況は,大きく変化してきた。少子高齢化が著しく進展する中で,いわゆる晩婚化,非婚化が進んでいる上,離婚及び再婚も増加し,世帯の構成は,夫婦と子どものみの世帯の割合が大きく減少して多様化してきた。日本国民と外国人の婚姻も増加し,その間の子も生まれている。実際に,氏の異同を超えた家族の対応によって生計や子の養育等が支えられる場合もあり,家族の在り方は,著しく多様なものとなっている(最高裁平成24年(ク)第984号,第985号同25年9月4日大法廷決定・民集67巻6号1320頁も,婚姻及び家族の形態が著しく多様化してきたことを指摘する。)。
婚姻及び家族に関する法制度は,広く社会一般に関わることから,簡明で規格化される必要性が高いといえるが,それだけに,長い年月を経て,ますます多様化する現実社会から離れ,およそ例外を許さないことの合理的な根拠を説明することが難しくなっているといわざるを得ない。
第2に,同一の氏を称することにより家族の一員であることを実感する意義や家族の一体性を考慮するにしても,このような実感等は,何よりも,種々の困難を伴う日常生活の中で,相互の信頼とそれぞれの努力の積み重ねによって獲得されるところが大きいと考えられる。これらは,各家族の実情に応じ,その構成員の意思に委ねることができ,むしろそれがふさわしい性質のものであって,家族の在り方の多様化を前提に,夫婦同氏制の例外をおよそ許さないことの合理性を説明し得るものではない。
第3に,婚姻の重要な効果である嫡出子の仕組みを前提として,嫡出子がいずれの親とも氏を同じくすることによる利益を考慮するにしても,そのような利益は,嫡出推定や共同親権等のように子の養育の基礎となる具体的な権利利益とは異なる上(児童の権利に関する条約(平成6年条約第2号)にも,そのような利益に関する規定はない。),嫡出子であることを示すための仕組みとしての意義を併せて考慮することは,嫡出子と嫡出でない子をめぐる差別的な意識や取扱いを助長しかねない問題を含んでいる。また,婚姻の要件についてその例外を否定することは,子について,嫡出子に認められる上記の具体的権利利益を否定することになる。家族の在り方の多様化を前提にして,上記の利益について,法制度上の例外を許さない形でこれを特に保護することが,憲法上の権利の制約を正当化する合理性を基礎付けるとはいい難い。
なお,近年,婚姻前の氏を通称として使用する運用が様々な形で広がっており,このような措置によって,夫婦別氏の選択肢を欠くことによる不利益が緩和される面がある。しかし,これらは,任意の便宜的な措置であって,個人の人格に関わる本質的な問題を解消するものではない上,このような通称使用の広がり自体,家族の呼称としての氏の対外的な公示識別機能を始めとして,夫婦同氏制の趣旨等として説明された上記の諸点が,少なくとも例外を許さないという意味で十分な根拠とならないことを,図らずも示す結果となっている。
ア 他方において,本件各規定に係る婚姻の要件は,婚姻年齢や重婚等のように客観的な事実のみに係る要件ではなく,夫婦の氏を定めるという当事者の意思に関わる内容を要件としている。しかし,婚姻という個人の幸福追求に関し重要な意義を有する意思決定について,二人のうち一人が,重要な人格的利益を放棄することを要件として,その例外を許さないことは,個人の尊厳の要請に照らし,自由な意思決定に対し実質的な制約を課すものといわざるを得ない。現に,そのような不利益を回避するために,やむを得ず法律上の婚姻をしないという選択をする場合も生じている。
イ また,本件各規定は,その文言上性別に基づく差別的な取扱いを定めているわけではないが,長年にわたり,夫婦になろうとする者の間の個々の協議の結果として,夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めており,現実に,多くの女性が,婚姻の際に氏を改めることによる不利益を受けている。このことは,国民の間に,夫婦の氏の選択について極端な偏りを生じさせる意識や考え方が広く存在することを明らかに示しており,夫婦となろうとする者双方の真に自由な選択の結果ということ自体にも疑問が生ずるところである。
この点に関連して,平成27年大法廷判決は,旧民法(昭和22年法律第222号による改正前の明治31年法律第9号をいう。)施行以来,夫婦同氏制が我が国社会に定着してきたと評価している。しかし,昭和22年の上記改正までは,氏は家の呼称とされ,妻は婚姻により夫の家に入ることを原則とする家制度が定められていたものであり,それは,法律上妻の行為能力を著しく制限するなど,両性の本質的平等とはおよそ相容れないものであった。
また,上記改正により,家制度は廃止されたものの,夫婦及び子が同一の氏を称する原則が定められたことから,氏は,一定の親族関係を示す呼称として,男系の氏の維持,継続という意識を払拭するには至らなかったとの指摘には理由がある。
さらに,高度経済成長期を通じて,夫は外で働き妻は家庭を守るという,性別による固定的な役割分担(男女共同参画社会基本法4条参照)と,これを是とする意識が広まったが,そのような意識は,近年改善傾向にあるもの,男性の氏の維持に関する根強い意識等とあいまって,夫婦の氏の選択に関する上記傾向を支える要因となっていると考えられる。この問題に関する立法のプロセスについても,これらの事情に伴う影響を否定し難いところであろう。夫婦同氏制の「定着」は,こうして,それぞれの時代に,少なくない個人の痛みの上に成り立ってきたということもできる。
いずれにせよ,夫婦同氏制は,現実の問題として,明らかに女性に不利益を与える効果を伴っており,両性の実質的平等という点で著しい不均衡が生じている。婚姻の際に氏の変更を望まない女性にとって,婚姻の自由の制約は,より強制に近い負担となっているといわざるを得ない。
ウ さらに,70年以上の歳月を経て,その間の社会経済情勢の著しい変化等に伴い,国民の価値観や意識も大きく変化し,ライフスタイルや家族の生活の在り方も著しく多様化している。取り分け,女性の就業率の上昇とともに,いわゆる共働きの世帯が著しく増加しただけでなく,様々な分野において,継続的に社会と関わる活動等に携わる女性も大きく増加し,婚姻前の氏の維持に係る利益の重要性は,一層切実なものとなっている。
今日,我が国において,男女が,互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い,性別にかかわりなく,その個性と能力を十分に発揮することができる社会を実現することは,緊要な課題であり,そのためには,社会における制度又は慣行が男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響をできる限り中立的なものとすることが求められる(男女共同参画社会基本法前文,4条参照)。
エ 国際的な動向をみると,昭和54年に採択され,昭和60年に我が国も批准した「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(昭和60年条約第7号。以下「女子差別撤廃条約」という。)は,締約国に対し,いわゆる間接差別を含め,女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃を義務付け(1条,2条),自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利並びに姓を選択する権利を含む夫及び妻の同一の個人的権利について,女性に対する差別の撤廃を義務付けている(16条1項(b),(g))。そして,女子差別撤廃委員会は,一般勧告において,各パートナーは,自己の姓を選択する権利を有し,法又は慣習により,婚姻に際して自己の姓の変更を強制される場合には,女性は,その権利を否定されているものとし,さらに,我が国の定期報告に関する最終見解において,繰り返し,女性が婚姻前の姓を使用し続けられるように法律の規定を改正することを勧告している。
昭和22年当時は,夫婦が同一の姓を称する制度を定める国も少なくなかったが,その後,女子差別撤廃条約の採択及び発効等を経て,現在,同条約に加盟する国で,夫婦に同一の姓を義務付ける制度を採っている国は,我が国のほかには見当たらない。
婚姻及び家族に関する法制度は,それぞれの国の社会の状況や国民の意識等を踏まえて定められるものであるが,人権の普遍性及び憲法98条2項の趣旨に照らし,以上のような国際的規範に関する状況も考慮する必要がある。
夫婦別氏の選択肢を設ける場合には,嫡出子に関する仕組みの下における嫡出子の氏の取扱いや,氏を異にする夫婦及びその子の戸籍の編製の在り方などを定める必要があり,これらについては,政策的な検討と判断が必要である。しかし,平成8年に法制審議会が「民法の一部を改正する法律案要綱」の答申をしてからおよそ四半世紀が経過し,その間も様々な場における議論や上記勧告等がなされる中で,国会においては,具体的な検討や議論がほとんど行われてこなかったものとうかがわれ,上記の点が,夫婦別氏の選択肢を設けていないことを正当化する理由となるものではない。
以上のような事情の下において,本件各規定について,法が夫婦別氏の選択肢を設けていないことが,婚姻の自由を制約している状況は,個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らし,本件処分の時点で既に合理性を欠くに至っているといわざるを得ない。
したがって,本件各規定に係る婚姻の要件について,法が夫婦別氏の選択肢を設けていないこと,すなわち,国会がこの選択肢を定めるために所要の措置を執っていないことは,憲法24条の規定に違反する。
5 婚姻の届出の受理
本件各規定について,上記の違憲の問題があるとしても,婚姻の要件として,夫婦別氏の選択肢に関する法の定めがないことに変わりはない。
婚姻における氏の在り方は,婚姻及び家族に関する法制度全体において関連する仕組みが定められる。本件各規定は,そのような仕組みの一部として,夫婦同氏に係る婚姻の効力及び届書の記載事項を定めるものであり,その内容及び性質に鑑みると,それらが一つの選択肢に限定する部分については違憲無効であるというにしても,それを超えて,他の選択肢に係る婚姻の効力及び届書の記載事項が当然に加えられると解することには無理がある。
また,婚姻の届出は,婚姻の要件であるとともに(民法739条1項),戸籍の編製及び記載の根拠となるものであるところ(戸籍法15条,16条),戸籍は,一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに編製するものとされ(同法6条),夫婦別氏の選択肢を設けるには,子の氏に関する規律をも踏まえ,戸籍編製の在り方という制度の基本を見直す必要がある。その上で,夫婦の氏に関する当事者の選択を確認して戸籍事務を行うため,届書の記載事項を定めるとともに,その届出に基づいて行うべき戸籍事務(同法13条,14条,16条等参照)等について定める必要がある。国会においては,速やかに,これらを含む法制度全体について必要な立法措置が講じられなければならない。
こうした措置が講じられていない以上,本件各規定の内容及び性質という点からみても,法制度全体としてみても,法の定めがないまま,解釈によって,夫婦別氏の選択肢に関する規範が存在するということはできない。したがって,夫婦が称する氏を記載していない届書による届出を受理することはできないといわざるを得ない(民法740条)。
このような届出によって婚姻の効力が生ずると解することは,婚姻及び家族に関する事項について,重要な部分に関する法の欠缺という瑕疵を伴う法制度を設けるに等しく,社会的にも相応の混乱が生ずることとなる。これは,法の想定しない解釈というべきである。
以上のとおりであるから,抗告人らの申立てを却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。
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