ゾンビ男子の自分語りが新しい! B級イメージを裏切る恋愛映画の快作『ウォーム・ボディーズ』
雪ですね…。
こんな日はホットな作品を。
お互いの家の対立が二人の恋愛の障害となる物語といえば「ロミオ&ジュリエット」。
今回ご紹介する2013年のアメリカ映画『ウォーム・ボディーズ』は、ゾンビ版「ロミオ&ジュリエット」ともいえる作品なのだ。
物語の中で恋する二人に立ちはだかるのは、人間とゾンビという明確過ぎる壁!
どうですか、皆さん。
あまり期待できなさそうでしょう??
異種間の恋愛としては、人間と半魚人の恋愛を描いた『シェイプ・オブ・ウォーター』があるけど、
ゾンビと人間の恋愛って、要は死体との恋愛みたいなことでしょ(歩くけど)。
見た感じ、B級臭もプンプンだし、
こんなの、ヘソで茶沸かし案件よね…。
(死体愛の映画もあるけど、それはまた別ジャンルの話。あと死体映画の傑作といえば『スイス・アーミー・マン』よね)
…という皆さんの気持ちは分かる。
ただね、この作品。
面白いんですよ。
しかもね、
B級映画を楽しむ時の、いかにもなネタ目線の面白さじゃなく、
ちゃんと面白いですよ!!(語彙)
◾️あらすじ
ゾンビと人類が戦いを繰り広げる近未来。ゾンビのR(ニコラス・ホルト)は、仲間と一緒に食糧である生きた人間を探しに街へと繰り出す。人間の一団と激闘する中、彼は自分にショットガンを向けた美少女ジュリー(テリーサ・パーマー)に心を奪われてしまう。ほかのゾンビに襲われる彼女を救い出し、自分たちの居住区へと連れ帰るR。彼の好意をかたくなにはねつけていたジュリーだったが、徐々にその純粋さと優しさに気付き出す。ついに思いを寄せ合うようになった二人は、ゾンビと人類の壁を打ち壊そうとするが……。
出典:シネマトゥデイ
主演は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のニュークス役(白塗りで「俺を見ろ」の彼↓)を演じた演技派俳優ニコラス・ホルト。
本作は、このニコラス演じるゾンビ〝R〟のモノローグ(独り言のナレーションみたいなやつね)から始まる。
え? ゾンビの独り言? と疑問に思った人もいるだろう。
そう…何を隠そう本作に登場するゾンビには〝意識〟がある!!(見た目はふつうのゾンビ)
つまり本作は、〝意識〟を持つゾンビによる〝ゾンビ目線〟の映画なのである。
生前の記憶はほとんどないものの、下手に意識があるから、人を襲って食べる時に「これは誰にも見られたくないな」という羞恥心もある。
にも関わらず、ゾンビとしての衝動を抑えきれずに結局食べちゃうという、ちょいグロなのについついプププな面白さがあるのだ!(ちなみに僕にはそういう設定の〝ゾンビ漫談〟というネタがある)
さらに本作のゾンビは、なんと生きた人間とも喋る事ができる(喋る能力に関しては個体差があるようで、Rはゾンビの中ではまぁまぁ喋れる方)。
また、襲ったヒトの脳みそを食べると、ある特殊な作用があらわれる仕様になっているが、その詳細はぜひ自分の目で確かめてほしい!
血は出ない、眠れない、動きは不自由という点は他のゾンビと一緒だが、瞳が綺麗で妙に清潔感のあるゾンビのR(清潔感のあるw)。彼のたどたどしく話す姿が、物語の中盤には魅力的に見えてくるから不思議。
ラブストーリーゆえのエモいやりとりがある一方、終盤では戦闘アクションにも発展するエンタメ仕様。この一筋縄にいかないゾンビラブコメは、ディープなゾンビファンをも唸らせる内容なのだ。
ちなみに、ゾンビ目線の映画としては『コリン LOVE OF THE DEAD』を思い出すゾンビファンもいるかも。
◾️こがけんの「ここを観ろ!」 :Rに起こる変化
人は恋をすると、相手を前にして頬が赤らんだり、心臓がドキドキしたりの生理的変化があるじゃないすか。
はたまたロングスパンで考えてみると、相手を意識して急に身だしなみを気をつけるようになるなど、日々の行動パターンまで変化する。
本作の面白さは、そんな
「あいつ、好きな子が出来たって言ってたけど、最近なんか変わったよね」
的な〝変化〟が、ゾンビのRにあらわれるところ。
もちろん人間じゃないので、その〝変化〟は一味違う。それがどういった変化なのか…ぜひ注目して観て欲しい!
いわゆるゾンビのメインストリートでゾンビらしく生きてきたRが、どんどんゾンビ道を踏み外していき、その結果どうなってしまうのか。初々しい恋の結末や如何に…!?
◾️【ネタバレ】バカバカしくて最高のオチ
※これより下は映画を観終わった人向けのネタバレあり。作品観賞後に読むのをおすすめします。あるいは薄目で読んでね!
まさかのゾンビ×人間の恋愛ストーリーの本作。
R目線のモノローグで進められることで補足できない部分もあり、知らず知らずのうちにRに起こる変化を一度観ただけでは完全に把握するのが難しい作りになっている。だからこそ、何回観ても面白い。
恋する事でみるみる生気を取り戻し、
最後には、ついに人間として生き返っちゃうR。
恋愛でドキドキするうちに、死んだはずの心臓がドキドキと脈打ち出して、最終的には生きた肉体を取り戻すなんて、まるで新作落語の小噺みたいな、なんてバカバカしい作り話だろう!!(最高の褒め言葉)
そしてこの作品の良さは、最高なバカ映画という点だけじゃない!
実は〝死亡フラグ〟の観点で見てみると、実に面白い(フレミングの手を額に置いて)。
◾️【ネタバレ】巧みな〝死亡フラグ〟あつかい
Rがジュリーを自分ん家に連れ帰っちゃった時点で、Rにはいわゆる〝死亡フラグ〟が立っちゃうワケだけど(たとえば、ジュリーがRに襲われてると勘違いした人間が事情も知らないのにRを殺しちゃいそう、などなど)、
それと同時に、
ジュリーへの恋心にともなうRの身体的変化により、〝生存フラグ〟ならぬ〝生き返りフラグ〟も立っちゃうワケなんですよ!
そう!
本作は、
〝死亡フラグ〟と〝生き返りフラグ〟のせめぎ合いムービーでもあるんです!!
たとえば終盤、高所から二人でプールに飛び込むシーン。飛び込んだあと、Rが軍の追っ手に撃たれちゃうという完全に〝死亡フラグ〟優勢な状況からの…
撃たれた箇所から新鮮な血液が流れ出ることにより、Rが生きた人間に戻ったことが判明するという〝生き返りフラグ〟が逆転勝利する展開!!!
立っていたはずの〝死亡フラグ〟を単純に裏切るのと比べて、
その胸熱度が違うんですよね!!!
時間にしてたった2〜3分のシーンなのに、これだけ感情が揺さぶられる作りになっているなんて、憎いよジョナサン・レヴィン監督!!
(死亡フラグつながりで「死亡フラグの唄」貼っておきました)
◾️【ネタバレ】まとめ
作中、恋するゾンビRには様々な変化が起こった。
心臓が鼓動を打ち、眠れるようになり、夢を見るようになった。
何より、序盤では恥の意識があってもゾンビとしての衝動に負けて人間を襲って食べるしかなかったRが、ジュリーを好きになってから、ジュリーはもちろんのこと人間を一度も襲わなかったという事実よ!(泣ける)
彼の身に起こる変化が「もしや人間らしさを取り戻しているのでは…?」と無理なく思える自然な演出だったからこそ、最後にRが人間に戻るシーンをハッピーエンドとして素直に受け入れられた人は多いのではないか。
そして、ラストのRとジュリーのシーン。
生前の記憶が戻らないRにジュリーが
「生まれ変わったんだから、名前を新しくつけようよ」
と言うと、Rは、
「このままでいい。今が一番幸せだから」
と返す。
最高かよ!
(と同時に『バック・トゥ・ザフューチャー』の結末が〝本当にハッピーエンドなのか問題〟を蒸し返してみる)
ゾンビが愛の力で生き返るという、バカバカしくもホロリと泣ける愛の力を視覚化した本作は、もうゾンビ映画というジャンルをも超えた傑作。
『ウォーム・ボディーズ』は超S級のB級映画なのだ!
ちなみに本作は、Amazonビデオでレンタル可能なんで、是非皆さん観てみて下さいねー。
『ウォーム・ボディーズ』