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【校閲ダヨリ】 vol.51 校正と校閲の違い




みなさまおつかれさまです。
また年が明けました。(もう1月もおしりから数えたほうが早いですが)
年末年始も何かと動いていた私ですが、「なんとなく気持ちが切り替わった」ので、新年という概念は不思議なものですね。
本年も、マイペースではありますが更新をしていきたいと考えています。読者のみなさまに感謝をしつつ、スタートを切らせていただきます。



さて、2021年1回目は、よく尋ねられるこんなテーマで進めたいと思います。


「校正」と「校閲」って、どこがどう違うの?


   

私の職業は「校正者」であり「校閲者」で、とどのつまりどちらでもよいのですが、みなさんの疑問を解消すべく、ご説明させていただきます。
   
個人的には、世間一般にこの職業を説明するときに伝わりやすい言い方は「校閲」だと感じています。(『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』がテレビドラマ放映された恩恵は多大にあります)
ドラマの影響も手伝い、校閲者が実際にどんな仕事をするのかも、ご存じの方が多くなりました。(ただし、「事実確認で出張できるのか」と問われれば、それは「奇跡が起きれば可能」と私は答えます)
   
校正校閲も、「間違いを探す」という点ではまったく同じです。
では、どこが異なるのか。これに関しては、時間の流れという概念も含めたとらえ方が必要になってきます。
   
   
まず、両者の辞書的な意味を載せますと
   

校正:(1)文字、文章をくらべあわせ、誤りを正すこと。きょうせい。校合(きょうごう)。
   (2)印刷物を印刷する前の過程で校正刷りを原稿に照らし合わせて、誤りを正すこと。また、「校正刷(こうせいずり)」の略。

校閲:(1)調べ検討すること。検査すること。調査すること。
   (2)特に、原稿、印刷物などを調べ、誤りや不備な点を正すこと。
(『日本国語大辞典』より引用)

   
となっています。
出版業界に明るい(本のできる過程を知っている)方であれば、この説明で事足りるかも知れませんが、一般の方にはいささか不十分な内容かと思われます。
つまり、「よくわからない」。
私の出る幕もあったもの、ということで、進めさせていただきます。
   
   
校正と校閲、どちらが先に出現した言葉かといいますと、これは「校正」だと考えられます。
   
前出の『日本国語大辞典』によりますと、確認できうる初出文献は奈良時代(763年)の『続日本紀』となっています。(辞書にはそれぞれ特徴があり、日本国語大辞典の場合はさかのぼれる限りの古い文献から用例を引っ張っていることがあります。詳しくは vol.4「辞書の性格」で!)
   

対して、「校閲」は明治時代(1872年)の『新撰字解』です。(中国の文献ではもっと古い使用もあります)
   
校正」は、コピーアンドペーストが使用できる時代になるまで、とても重要な仕事のうちのひとつでした。
印刷技術が発明される前は、本を増やす手段は「書き写す」ことでした。
源氏物語などは「写本」というかたちで世に広まり、写本がまた写本され、現代の私たちにも読めるようになっています。
しかしながら、書き写す行為は往々にして間違いを生みやすいものです。今ほど著作権の概念が浸透していない当時は、間違いならまだしも「内容を自分好みに変更する」といったことも珍しくなく行われていたといいます。
時代が進み、活版印刷という画期的な印刷技術が生まれた後も、人が手作業で原稿を組版するとあってはどうしても写し間違いが発生してしまいます。
長らくお待たせしましたが、こんな場面で登場するのが「校正」です。
   
   
校正とは、原稿など「もとの文章」と、誌面などの「現在の文章」を見比べる作業のことを指します。
」という字は「写本の文字の誤りを較べ(くらべ)正すこと。校正すること」(日本国語大辞典。ふりがなは筆者による)という意味があり、校正は「見比べて正す」という意味合いになるんです。
コピーアンドペーストが可能になると、この作業の出番は少なくなりますが、それでも、これができないと資料とのつけ合わせ作業や引用部の確認作業がままなりませんので、現在でも非常にベーシックなスキルのひとつといえるでしょう。
また、今日ではその意味するところが変化してきており、「素読み(見比べることはせず、ゲラの文章をそのまま読むこと)をして誤字脱字や体裁のおかしなところを探す」といった使われ方が一般的です。
   
   
対して、「校閲」は、コピーアンドペーストが生まれてだんだんとメジャーになってきた校正者の仕事のひとつです。
1文字1文字見比べる作業はとても時間がかかりましたが、それをする必要がなくなると、簡単な話が暇になってしまうわけです。
生業としてこの仕事を続けるために、新たに「記載の情報が正しいかどうか調べます」というサービスを行い始めました。スタートはもしかすると「調べてよ」というオーダーがあってのことだったのかもしれませんが、そこは定かではありません。
   
現在ではこの「校閲」が校正者のメインの仕事になりつつあります。
掲載店舗の住所電話番号URLなどにはじまり、文章中の歴史的・地理的事実の確認や人物プロフィール等、調べられるものはなんでも調べています。
   
ちなみに、編集者がよく使うのは「校正」のほうだという実感があります。
修正作業を繰り返して文章を整えていく「初校」「再校」「3校」など、掲載店やクライアントに確認をお願いする「先方校正」、色をみる「色校正」といったものがありますが、これらは「見比べる」概念が薄まった現在にも残る「新解釈(素読み)での校正」や、「校閲よりもライトな」というイメージで使用されている向きがあります。
対して校閲は、「校閲者の目を通す」「別のフィルターを通す」といった印象があり、専門的な作業に分類されているのかなという感じがします。
   
   
たとえば、ご自身が自費出版で本をお出しになるというときに、担当編集者に
   
・「校正もこちらでしっかりかけさせていただきます」
   
と言われるのと
   
・「校閲もこちらでしっかりかけさせていただきます」
   
と言われるのとでは、対応に差があると私は感じてしまうわけです。
   
   
業界に身を置く者にとって、「校正」をしっかりせず出版してしまうことなどありえません。つまり、別段特筆すべきサービスではない、いわば当たり前の対応を誇張して言っているようなものが上段の文句です。
一方下段は、自費出版のプランに事実確認をする「校閲」が入っているということになりますから、これは安心感が増すなということになるのです。
     
あくまで校正と校閲の言葉の違いを考えるための一例ですが、これから自費出版を考えている方がいらっしゃれば、参考にしていただけるのではないかとも思います。
   
   
さて、いかがでしたでしょうか。
本年も、昨年に引き続きのんびりペースの発信となりますが、もしよろしければ、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。
   
   
それでは、また次回。
   


参考
日本国語大辞典』(小学館)



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