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【校閲ダヨリ】 vol.9 差別・不快語 (重要なテーマなので前回のつづきです)


みなさまおつかれさまです。
前回のお便りでYが「〜屋」という言葉がもつネガティブイメージのお話をしました。今回は、それを踏まえた上で、差別・不快語に対するお話をしたいと思います。


差別・不快語とは、ある特定の集団や個人、マイノリティ等(マジョリティの場合ももちろんあります)に不快感を抱かせてしまったり、もとよりその存在を疎外・否定するかのような印象を与えてしまう言葉のことです。皆さんはこの言葉自体が意味するところはおおかた把握されていることと思います。

読者、ファン、クライアントに対して発信することが多いマスメディア業界では、特に慎重になりたいテーマですよね。
これに関して、皆さんは恐らく「リストが欲しい」と思っているのではないでしょうか。

結論から申し上げると、全てが網羅されたリストを作成することは不可能です。(時間的に余裕がないなどの理由ではありません)

なぜか。

差別・不快語という概念は、「いじめ」や「ハラスメント」などが意味するところと同じと思っていただけるとわかりやすいかと思います。
どちらも、こんな行為をしたらいじめやハラスメントに該当します、という明文化された法律はありませんよね。

その行為を受けた側が、心身にダメージを負った段階で、確定するわけです。
差別・不快語も、読んだ側、聞いた側がそう受け取ってしまったら、そうだ、ということになります。ですので、全てをリスト化することは実質不可能なんです。

ですが、いじめやハラスメントで、こんな言動をしたらアウトだろうというものがあるように、差別語にもそのなかでマジョリティが存在します。ここでは大きな括りで紹介したいと思います。

・心身の障害、病気に関する言葉(めくら、おし、つんぼ、気違い、どもり など)
・職業に関する言葉(人夫、土方、百姓、床屋、町医者、浮浪者、こじき など)
・人種、民族、地域に関する言葉(土人、後進国、外人、支那竹 など)
・性差別に関する言葉(めかけ、婦人警官、才女、才色兼備、出戻り など)

以上は『第13版 共同通信社 記者ハンドブック』で掲載されているものです。
さすがにこんな表現がダメなことは知っているし、使いません」という人が多いでしょう。
みなさんがそのような認識でいるということは、世間にそれが差別・不快語であると認知されて久しいということです。
そうすると、次第に、対象の言葉が移り変わるという現象が起き始めます。

ここで、次の言葉について、ちょっとだけ考えてみてほしいのです。
先の『記者ハンドブック』では、「めかけ」という言葉について以下のように書いてあります。

「めかけ → 愛人」

これは、めかけと書かずに愛人と書け、ということです。
あくまで個人的に、ですが、私は「愛人」という言葉に関してもあまり良い印象はもちません。

「自閉症」という言葉を例にとっても同様のことが言えます。
自閉症は近年、発達障害のひとつとして「アスペルガー症候群」という名前で呼ばれるようになりました。
しかし言葉が置き換わっても、使用される場面や用いられ方に変化がないために、
アスペルガー症候群という名前から「自閉症スペクトラム」という新たな呼称に置き換えられつつあるるという現状があります。

これでは、堂々巡りですよね。当事者はいつまでたってもメディアや、周囲の何気ないひと言に傷つけられてしまいます
……リストやマニュアルには、あまり効果がないと言えるでしょう。



さて、いかがでしたでしょうか。
差別・不快表現において最も大切なのは、「立ち止まって、考えてみる」ということです。
マスメディアが世間に与える影響というのは計り知れないものがあります。
「大いなる力には、大いなる責任が伴う」のです。(スパイダーマンより)


では、また次回。


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