【校閲ダヨリ】 vol. 38 いっこくもはやいしゅうそくをねがう
みなさまおつかれさまです。
世の中が変わって早数カ月。たくさんの尊い命と引き換えに、世界は日々新たな局面へと進み続けています。
私におきましては、普段何気なく顔を合わせ、そして何気ないやりとりを交わす中で得られていた社内のコミュニケーションが、在宅勤務により「必要最低限の能動的コミュニケーション」に変化しました。話し言葉が書き言葉に置き換わったことで、コミュニケーションの温度も下がった気がします。
言葉の大切さ、難しさを日々実感しています。
コロナ禍が一刻も早く終わることを願って、亡くなられた世界中の尊い命を偲んで、今回はタイトルのようなテーマを設定いたしました。
さて、どうしてすべて「ひらがな」にしたかというと、例によって皆さんに変換していただきたいからです。
少し時間(行間)を取りますので、頭の中ででもやってみてください。
できましたか?
個人的には、大きく2パターンの回答の仕方があると考えています。
・一刻も早い収束を願う
・一刻も早い終息を願う
このような文では、「しゅうそく」の使い分けでふたつに分かれることが多いです。
どちらが正しいんだ
せっかちな方からのこういった声が聞こえてきそうですが、言葉は急いではいけません。
単語だけをとらえた「正しい・正しくない」という判断基準では破綻する場合があるということをお伝えできる良い素材なので、どうか最後までお付き合いいただけますように。
さて、「単語だけをとらえた『正しい・正しくない』という判断基準では破綻する場合がある」と申し上げましたが、言語にはこのような場合が数多く存在します。
「どちらでもいい」場合は、そのうちのひとつです。
この文脈(現在の社会的背景を含む)では「収束」でも「終息」でも、どちらでもいいことになります。ですが、含まれるニュアンスが微妙に異なってきますので、意味を理解した上で使用しないと以降の文章で齟齬が発生することになるかもしれません。
それぞれの意味はこうです。
用例が付いているので、わかりやすいのではないでしょうか。
・一刻も早い収束を願う
とした場合は、「新型コロナウイルス感染症によって引き起こされた混乱が収まることを願う」というニュアンスになります。
対して
・一刻も早い終息を願う
とした場合は、「新型コロナウイルス感染症それ自体が終わりを迎えることを願う」というニュアンスになります。
現在の社会状況を踏まえると「収束」「終息」どちらも使用することができ、同じような意味に受け取れますが、漢字が違うぶん、厳密には言っていることが変わります。
同じような場面で用いることができる場合もありますが、そうでない場合もあります。
・父の勝利という形で、伊藤家第3回モノポリー大会が 収束/終息 した。
これは両方用いることができる場合です。「収束」とすると、ワイワイガヤガヤ、「あー! お父さん(お母さん)ずるい!」といった声が上がってもいそうな、楽しそうな会が終わったように取れますが、「終息」とすると、粛々と、落ち着いた終わり方をしたように感じられますね。
・約3時間にも及ぶ会議が、ようやく 収束/終息 した。
「収束」とすると、さまざまな人がいろいろな意見を言ってまとまりがつかなかったのかなと匂わせますが、「終息」とすると、誰かが長々と持論を述べ、周囲は我慢して聞いていたのかなという印象になります。
「収束」は、分裂したり、混乱したものを収めるという意味なので、「終息」のほうがプレーンな使用ができる場合があります。
・大切に育てていたアサガオが花を咲かせ、命を 終息 させた。種ができたので、来年も楽しみだ。
この文においては、「収束」とはしにくいと思います。収束が使いづらい場面として、命が終わりを迎えるときがあります。
個人的に、ですが「収束」が使えて「終息」が使えない場面というのは、あまり思い浮かびません。終息のほうがプレーンな使用ができるぶん、範囲も広いのではないでしょうか。
ただし、「収束」が醸し出す混乱のニュアンスは「終息」ではイメージさせにくい場合もあることは事実です。
先に、「単語だけをとらえた『正しい・正しくない』という判断基準では破綻する場合がある」と述べたのは、皆さんにしっかり言葉の意味を噛み砕いて使用していただきたかったからです。
言葉は、誰かに何かを伝えるためのツールですので、「うまく伝わらなかった」ということが一番正しくないことになると私は考えます。
判断基準の最たるものは、「皆さんが伝えたい内容」です。
そこを正として言葉を選ぶと、自ずと正しい語選択ができる、シンプルな仕組みです。
言葉は急いではいけません。丁寧に選んで、生きていきたいものですね。
それでは、また次回。
#校閲ダヨリ #校閲 #校正 #出版 #雑誌 #本 #書籍 #エディトリアル #日本語 #言語 #言葉 #国語学 #文法 #proofreading #magazine #book #publishing #create #editorial #language #peacs