【校閲ダヨリ】 vol.27 ふたつでひとつ(語・表現解説1)
みなさまおつかれさまです。
今回は、いつも私が「もともとはこういう意味なんだよなー」と思いつつ、言葉の変化に身を委ねている単語・表現を扱う第1回にしたいと思います。(いちおう、新企画です)
まず導入として、皆さんに質問を投げかけてみます。
問:干支、全部言えますか?
というものですが、さて、どうでしょうか。
……まあ、確かにそうなんですけど、本来、これは干支の一部ですよね。
干支(えと)という言葉は
「十干」と「十二支」のおしりの1文字を取ってつけた言葉です。
十二支といえば、上の12の動物で間違いありません。
なので、「十干」の部分が、本来の意味合いから欠如していることになります。
では、十干とは何でしょう?
十干は
の10です。
よく、「還暦」といいますが、それは、「十二支を5周すると還暦」ではなく、「干支を1周し終えた」という意味で還暦なのです。
では、昔の暦(こよみ)はどういう仕組みになっていたのでしょう?
十干と十二支を組み合わせるのですが、十二支それぞれに十干があるわけではありません。
そうしたら、還暦が120歳になってしまいます。
つまり、こういうことなんです。
十干と十二支、それぞれ勝手に進み、「甲子」のように上と下を合わせたものが干支になります。
個別に見ると、十干は10なので、10年で1周します。対して十二支は、12年で1周です。
10と12、互いに再び出会う年が、還暦となるわけです。
そうすると、10と12の最小公倍数という数学の知識で、60という数字を導き出せます。
これが、還暦のメカニズムです。
ちなみに、私は己巳という干支の生まれになります。
干支の読み方ですが、訓読み・音読みどちらでも状況に応じて使われ、私だと「つちのとへび」「きし」と発音します。
甲子園球場【こうしえんきゅうじょう】は音読みですが、甲子正宗【きのえねまさむね】(飯沼本家という千葉県の酒蔵の銘柄です)は訓読みですね。
こういった、干支がその名に用いられているものは、だいたいがその年に大きな関係があることがわかります。
「戊辰戦争」「壬申の乱」などもそうですね。
うーん、でも正直、十干のほうの読みとか覚えられる気がしないんだけど。なんか難しそうだし。
確かに、耳馴染みがない音ですからねえ……。
漢字とその並びは、暗記するしかありませんが(甲乙丙丁は簡単ですのであと6つです)、こと読み方となると、これは法則がありますので多少お力になれるかもしれません。
音読みはそのままですので、訓読みにフォーカスします。
まず、最初のひらがな1〜2文字に注目してください。
「甲・乙」、「丙・丁」のように、順に同じ文字が2回続いた後、別の文字に移っています。
き→ひ→つち→か→みず
ですね。
想像に難くないかもしれませんが、これは
木→火→土→金→水
に由来しているようです。
なんで「月火水木金」にしてくれなかったんだよ……とも思いますが
右から、水星→金星→地球(土)→火星→木星
と、太陽に近い順で覚えるのがわかりやすそうです。
(この並びの一致……偶然かもしれませんが、なぜかゾクゾクしませんか。地動説が証明されこの並びが発見されるのは10世紀以上後なんですよね)
次は、最後のひらがな1文字に注目です。
上から「え」「と」の順になっていますよね。(これは「干支(えと)」とは関係ありません)
兄(え)・弟(と)の関係を当てはめて呼び分けたようです。
これで最初の1文字のペアの中で区別ができるようになりました。
ちなみに、兄・弟は「陽」と「陰」の関係だそうで、木→火→土→金→水の関係と合わせて「陰陽五行」を表しているとされます。
こうなると次は陰陽五行説について知りたくなってきた読者の方がいるんじゃないかと思われますが、せっかくの学習欲を私がネタバレして削いでしまうわけにはいきませんので、今回のお便りはこのあたりでおしまいにしたいと思います。
それでは、また次回。
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