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【校閲ダヨリ】 vol.20 「全然」どう使っていますか?



みなさんお疲れさまです。
最近読書が趣味のご年配の紳士とお話をする機会があったのですが、そこでちょっとした議論が生じましたので、そのお話でも。

先にお伝えしておきますが、結論は出ませんでした。
 

ことの発端はちょっとした面倒事を頼まれた時に、私が何気なく発した
全然大丈夫
この、「全然」の使い方です。
 
全然とは否定の「〜ない」の前についてそれを強調する言葉であるため、全然の後に大丈夫と継ぐのは誤用、言葉の乱れという説。しかし紳士はこれを「全然(問題はない)大丈夫」という意味であり、言わずもがなの不要語句の省略形なのではないか、誤りとするのは早計では、と。


なるほどと思う気持ちもありつつ、いやいや、「全然」には「残りなく、すっかり」という意味もあったじゃないか、と簡単には納得しない万年反抗期の心が湧き出てきました。
その場でスマホからネット辞書を引いて、用例に錚々たる作家の面々が否定の意を伴わない「全然」を使っているのをお見せしました。一部を載せます。 



「荒地や沼や田ばかりだったのが、ぜんぜん工場や家でふさがっているのに」(『青べか物語』山本周五郎)
「腹の中の屈托は全然飯と肉に集注してゐるらしかった」(『それから』夏目漱石)
 


全てにおいて、すっかり大丈夫である

多少の違和感はあるものの、こちらの解釈も誤りとは言えないのでは? この後しばらく全然の用法について議論を重ねましたが、冒頭でも申し上げたように結論は出ず、言葉って移り変わるものだから、誤用とされるものから広く使われるようになる用法だけではなく、省略され使われるようになっていく言葉であったり、実は古い使い方のこともあるよね、という話になりました。
 

言葉の移り変わりは難しさであるとともに、面白さでもあるので、ぜひ、一度辞書で引いてみてください。誤りと思っていた使い方が、案外もともとは正道、ということもあるかもしれません。

では。
 

文責:Y


追伸 前号の練習問題、解答はこちらです。
 

【解答】ら抜き言葉の対象語句は下記の通り。
2.煮る  3.見る  4.食べる    
6.被せる  7.落ちる  8.寝る  11.壊れる  13.生きる  
14.試みる  15.揺れる  18.過ぎる  19.出る  20.揃える
21.着る  23.居る  24.忘れる  25.満ちる
27.消える  28.溶ける  29.強いる  



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