【校閲ダヨリ】 vol.69 残したい日本語 その1 「魔法瓶」
みなさまおつかれさまです。
立春は過ぎましたが、暖かさと出合えるのはまだ先かなと思わせる寒さですね。
私は花粉症なので、暖かくなればそれはそれでつらく、だいたい一年中、なにかしらストイックな環境に身を置いている気持ちなのですが、よく考えればみなさまと同じでございました(笑)。
言葉で、自分にご褒美をあげながら生きています。
ともあれ、例年に比べ雪がかなり降っているようですので、該当地域のみなさまは、雪下ろし、雪かき、スリップなど、お怪我なくご安全に過ごされますよう、心よりお祈りしております。
受験生のみなさま、今までの努力の成果が存分に発揮できますよう、お祈りしています。
さて、今回は、新しい企画です。
「Twitterをはじめたら、こんな展開できないかなあ」と期待をしていたところもあるのですが、ついに、フォローしてくださっている方とのコミュニケーションの中で、お便りのテーマを発掘することができたのです。
あらためまして、素敵な出合いをありがとうございました。
あくまで個人的に、完全に私の主観で「いいなあ。なくなってしまうには惜しい」と思う日本語をピックアップして深掘りしていく企画になればと思っています。
記念すべきその1は、「魔法瓶」です。
——実に素敵な響きです。
私の肌感覚で、当お便りをお読みの方の中にはおそらく、「魔法瓶って何?」という問いが出る方はいらっしゃらないのではないかなと思われますが、Z世代、デジタルネイティブ世代のみなさんの中にはもしかするとわからない方もいらっしゃるかもしれませんね。
これが、魔法瓶です。
私が言葉に対して「いいなあ、素敵だな」と思う際の基準なのですが、主に「語感」です。
耳に入ってくるなめらかさや、単語の組み合わせのセンス、それが用いられていた時代や場面の記憶、薫り、そんなものに私は左右されているような気がしています。
「魔法瓶」の場合は、なんというか、日常をひとっ飛びにファンタジーの世界へ連れて行ってくれる「魔法」という言葉の力、そして、単語にひも付く穏やかな記憶……そんなところが好きです。
「魔法瓶」って商標なんじゃない?
そう思いますよね。私もそうかと思って調べてみました。(深掘り開始です)
結論から申し上げますと、「魔法瓶」は商標ではありません。
なので、広く使うことができます。
ちなみに、社名として魔法瓶を使用している会社はあります。
あ、「タイガー魔法瓶」か!!
「タイガー魔法瓶株式会社」ですね。でも、調べてみると、ほかにもたくさんあるんですよ。
国税庁の「法人番号公表サイト」で見る限り、ほかにこれだけ「魔法瓶」と名につく会社があることがわかりました。
さっきの写真の魔法瓶は、上に挙げた会社のもの?
うちで使っているものは、象印のものでした。
ちなみに象印は「象印マホービン株式会社」で、カナ表記です。
なるほど。魔法瓶は、一般名詞なんだね。
そのようですね。私は自分の経験から、写真のように「電気を使わずに保温できるポット」のことをそう呼ぶものと思っていたのですが、辞書で調べると、より深いところまで探ることができました。
「魔法瓶」とは、そもそも「構造」のことを指すようです。
外側を開けると、中には二重のガラス瓶が入っており、二重の中間部分が「真空」で、内壁部分に銀めっきが施されているというのが基本構造です。この構造で密閉することで、電気の力を使わずともまるで魔法のように「熱の伝導」「対流」「放射」を防ぐことができるわけですね。
そして、その起こりは1893年までさかのぼります。ドイツの物理学者 A.F.ワインホルトの発見した原理に基づき、イギリスの科学者 J.デュワーが液体ガス保存のために発明しました。このため、「デュワー瓶」とも呼ばれるようです。
日本に入ってきたのは1910年頃。当時は「保温保冷24時間保証の真空瓶」と呼ばれていたようですが、私は「魔法瓶」のほうが好きです。
ふむふむ。「構造の名前」ということは、アイテムの形状は様々あっていいんだね?
おっしゃる通りです。
「魔法瓶」構造のポット、水筒、ジャーなど、たくさんのアイテム展開があります。
電源にコードをつないで使うものは、保温のために電気を使っているというより、お湯を出すポンプが電気式ということなので、このタイプも魔法瓶と呼べます。
ちなみに、「魔法瓶」を和英辞典でも引いてみたのですが、英語ではなんと呼ぶかというと
「thermos」でした。
あの「THERMOS」は日本の会社で、こちらは商標登録もされているようです。
あのさ、「魔法瓶」は、あくまで内部構造が「ガラス製」でないとそう呼べないの?
そこですよね。
私は「klean kanteen」というブランドの冷めにくいボトルを使っているのですが、これを「魔法瓶」と呼べるなら呼びたいのです。
そこで、さらに調べてみました。
先出の「THERMOS」のホームページでその答えが見つかりました。
「ステンレス製魔法びん(瓶)」と呼べばよいのです。
つまり、魔法瓶でOKです。
あくまで、「二重構造で中が真空」ということが条件になるようですが、私のお気に入りボトルもこれを満たしていたので、臆することなく「僕の魔法瓶」と呼ぶことができます。(リンクは代理店のものです)
みなさんも「魔法瓶」活動、はじめてみませんか。
それでは、また次回。
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