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【校閲ダヨリ】 vol.23 あいまいなニッポン


   
   
みなさまおつかれさまです。
少し言葉の話題が続いたので、ちょっと息抜きしましょう。
   
今回は、「日本の地域」に関するあいまいな問題です。
   

この仕事をしていると、日本の各都道府県を「〜地方」というくくりで紹介するページに出合います。
(トビラやショルダーで多く見かけます)
   

要素が1つ加わるので、ページを埋めることができ便利なのかもしれませんが、私たちは確認する事項が1つ増えるわけです。
しかも、なかなかセンシティブなテーマなので、校閲ルーキーは何気に体力を消耗します。

   
なぜ、地方分けにそこまで体力を使うんだ? というと

きちんと定義されてはいない」からです。
   

そう、またスッキリとしない話題です。
   
さて、みなさん下記の例を見てください。


北海道
東北地方
北陸地方
関東甲信越地方
中部地方
関西地方
中国地方
四国地方
九州地方

   
   
これは、よく見る地方分けのワードです。
一見すると「特におかしいところはない」と思われるかもしれませんが、本当にそうでしょうか?(この仕事は疑うことが大切です)
実際に各都道府県を当ててみてほしいのですが、みなさんお忙しいと思うので私がやってしまいます。
関西地方など、行政組織によって区分けが異なるものもあるので、あくまで「一般的に」です。(順不同)


北海道:北海道
東北地方:青森県、秋田県、岩手県、宮城県、山形県、福島県
北陸地方:新潟県、富山県、石川県、福井県
関東甲信越地方:東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県、群馬県、山梨県、長野県、新潟県
中部地方:新潟県、富山県、石川県、福井県、岐阜県、長野県、山梨県、静岡県、愛知県
関西地方:京都府、大阪府、滋賀県、奈良県、兵庫県、和歌山県
中国地方:岡山県、広島県、山口県、鳥取県、島根県
四国地方:香川県、徳島県、高知県、愛媛県
九州地方:福岡県、長崎県、佐賀県、大分県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県

   
……53都道府県になってしまいました。
これはおかしいですね。47都道府県のはずなので、この区分けだとうまくいかないことがわかります。
そして、この区分けでは「三重県」がどこにも入りません
   

地方の名称は、その土地の文化として根付いているものでもあるので、オフィスの席替えのように簡単にいくものではありませんが、今回は実験的に「現在認知されている地方の名称はそのままで、一番丸く収まる区分け」を考えてみたいと思います。
   
   
まず、重複している県を見てみましょう。

北陸地方:新潟県富山県石川県福井県
関東甲信越地方:東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県、群馬県、山梨県長野県新潟県
中部地方:新潟県富山県石川県福井県、岐阜県、長野県山梨県、静岡県、愛知県

   
太字の県が重複しています。

   
現在、関東甲信越とひとくくりにしてしまっているので、これを関東地方と甲信越地方に分けます。
すると


北陸地方:新潟県富山県石川県福井県
関東地方:東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県、群馬県
甲信越地方:山梨県長野県新潟県
中部地方:新潟県富山県石川県福井県、岐阜県、長野県山梨県、静岡県、愛知県

   
   
となり、関東地方には重複の県がなくなりました。(ので、ひとまず削除いたします)

北陸地方:新潟県富山県石川県福井県
甲信越地方:山梨県長野県新潟県
中部地方:新潟県富山県石川県福井県、岐阜県、長野県山梨県、静岡県、愛知県

   
北陸地方と甲信越地方は耳馴染みがあり、歴史もある呼称ですが、中部地方という広い領域をカバーしている地方があるのでここに一元化します。
   
現状、こんな感じで整理できました。


北海道:北海道
東北地方:青森県、秋田県、岩手県、宮城県、山形県、福島県
関東地方:東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県、群馬県
中部地方:新潟県、富山県、石川県、福井県、岐阜県、長野県、山梨県、静岡県、愛知県

   
東日本はOKそうですね。
   
   

次は、西日本です。

関西地方:京都府、大阪府、滋賀県、奈良県、兵庫県、和歌山県
中国地方:岡山県、広島県、山口県、鳥取県、島根県
四国地方:香川県、徳島県、高知県、愛媛県
九州地方:福岡県、長崎県、佐賀県、大分県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県

   
   
となっていますが、「三重県」が足りません。
   
ここで、「関西地方」に注目しましょう。
関西地方には「近畿地方」という別の呼び方もあります。
多くの辞書で、三重県は近畿地方に属することが書かれていますので、ここでは
   
近畿地方:京都府、大阪府、滋賀県、奈良県、兵庫県、和歌山県、三重県
   
としてみます。
   
そうしますと


北海道:北海道
東北地方:青森県、秋田県、岩手県、宮城県、山形県、福島県
関東地方:東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県、群馬県
中部地方:新潟県、富山県、石川県、福井県、岐阜県、長野県、山梨県、静岡県、愛知県
近畿地方:京都府、大阪府、滋賀県、奈良県、兵庫県、和歌山県、三重県
中国地方:岡山県、広島県、山口県、鳥取県、島根県
四国地方:香川県、徳島県、高知県、愛媛県
九州地方:福岡県、長崎県、佐賀県、大分県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県

   
   
47都道府県になりました。
   
誤解のないように申し上げたいのは、「これが正解ではありません」ということです。
正解は存在しません。
   

上で私が提案したものは、全ての都道府県を地方分けする必要がある場合には齟齬がない区分けだと思いますが、特定の地方をクローズアップする場合などは、たとえば「中部地方」ではくくりが広すぎる場合もあるでしょう。
また、関西圏にお住まいの方々は、「近畿」よりも「関西」のほうを好まれるという印象もあるようです。(関東に対して「関西」という対照性の重視や、「きんき」という音が英語の「kinky(性的に異常な / 変態の)」に聞こえてしまうという要素が指摘されています。kinky に似た音ということにかんしては、「近畿大学」が同じ理由で英文名称を「KINKI UNIVERSITY」から「KINDAI UNIVERSITY」に変更したというニュースからも重要なファクターであることがうかがえます。)
   
   
……さて、いかがでしたでしょうか。
今回は提案という、ある種実験的な取り組みをしてしまいましたが、読者のみなさんにおかれましては「筆者が信用に足る人物ではないので、にわかに受け入れ難い」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。
実際、今回の提案は下調べをあまりせず見切り発車的に行いましたので、私の地方区分を完成させた後、実態調査を敢行いたしました。結果を添付いたしますので、参考程度に併せてご覧くださいませ。
   
   
それでは、また次回。
   
   

地方区分け調査



参考「気象警報・注意報や天気予報の発表区域」(気象庁HP)「YAHOO! JAPAN 天気・災害」(YAHOO! HP)
各地の天気」(tenki.jp HP)
天気予報 ch.」(Weathernews HP)
社会科資料集 インターネット資料集」(文溪堂)
デジタル社会科資料集(デジしゃか)」(光文書院)
社会科資料集 5年 2019年度版」(正進社)


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