【校閲ダヨリ】 vol.22 日本語名のローマ字表記
みなさまおつかれさまです。
ローマ字はなかなか奥が深いので、今回は前号を引っ張って書きたいと思います。
日本語名のローマ字表記にかんして「どう思います?」と社内でちょっとしたご質問をいただきましたので、現状の共有と、今後の展開の予想をしてみたいと思います。
いま社会人の皆さんは、自分の名前をローマ字で書く際に
Takehira Ito
のように 名 → 姓 とすることをおそらく中学校の英語の授業で習ったのではないでしょうか。
これが、変わわりつつあります。
2019年9月に政府方針として公文書では「姓 → 名」の順で表記することが決定しました。
発端は2000年(嵐のデビュー1年後、ジョン・メイヤーのデビュー1年前です)、文部省の諮問機関・国語審議会(当時)が、言語や文化の多様性を踏まえる趣旨だとして 姓 → 名 が望ましいとの答申をまとめ、文化庁が通知を出したことに遡ります。
朝日新聞DIGITALによれば、
と、国語審議会の答申ではあまり進まなかったようです。
こうした背景の下、2019年9月5日の閣僚懇談会で柴山昌彦文部科学相(当時)が政府方針として「姓 → 名」の順で表記することを決定したと発表しました。
2020年1月1日の首相官邸HPでの年頭所感などではすでに「ABE Shinzo」と表記されています。
ここから先は私見ですが、今後の展開を予想してみると、「これを日本語母語話者や企業のあいだに浸透させるには相当の時間を要するだろうな」という感じです。
なぜか。
それは、英語圏の文化の流れに、ある種逆行して進まなければならないからです。
個人レベルでは、海外へ出たときに、日本語での姓をファーストネームと勘違いされてしまうでしょうし、それを避けるためには説明する文言を付け加えるというひと手間がかかってきます。
企業では、外資系の会社ではシステムレベルで見直す必要があるでしょうし、まず個人間で大きな潮流が生まれなければ、システムを再整備したとしても顧客の新規登録などでの誤入力も発生するかと考えられます。
「ある種」と申し上げたのは、英語においても 姓 → 名 と表記する場合がなくはないからです。
『nature』など学術系論文のクレジットではこの順で表記されているようですし、学校のクラス名簿などでも見られるようです。
なんだ、ネイティブでもそういう表記があるんじゃないか。ならいいじゃん。
と思う方もいらっしゃるかと思いますが、これはあくまでマイノリティな書き方ですし、ファーストネームとラストネームを混同しないような仕組みがちゃんと備わっています。
英語圏で 姓 → 名 の順で書き表す際は、姓の後に「 , 」を入れて区別するのが一般的のようです。
たとえば、私の名前でいくと
Ito, Takehira
となるようです。個人的には、日本もこの方法で表記すれば誤解釈を防げるのではないかなと思います。
今回の事例のように、他国の文化と複雑に絡む場面で統一表記の見直しを図る場合は、「慎重になる」というよりも、「相手の文化にストレスのかかりにくい方法を模索し、時間をかけて根気よく取り組む」ことが重要になるのではないかと考えさせられました。
難しい問題ではありますが、しかし、一歩を踏み出したことに意義があると私は思います。
英語圏だけの話ではなく、世界中の文化をリスペクトしつつ、上手に日本の文化を発信していきたいものですね。
今回は、個人的に大変思考を刺激される素晴らしいテーマを頂戴することができ、嬉しかったです。ご質問者さま、ありがとうございました。
校閲ダヨリでは、皆さんからのご質問を常に募集しております。日頃の生活で気になる言葉の使い方や、気になる言葉の起源の疑問、漢字の読み方や慣用句の使い方など些細なことでも大歓迎ですので、コメントにてご連絡いただけますと嬉しいです。
それでは、また次回。
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