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【校閲ダヨリ】 vol.58 「すみません」でリスクを回避?



みなさまおつかれさまです。

今回は、私が最近(というかここ数年)感じていることを吐露する号になりそうです。
いわゆる「若者言葉に対しての云々」というよりかは、幅広い年齢で見受けられる事象になっている感があり、
実際にその言葉について広く意見をお聞きしてみたいところもあったりします。
ぜひ、お気軽にコメントいただければ幸いです。


テーマは「すみません」です。

よりフォーカスすると、これの音便形「すいません」についてお話ししていきます。

ご存じの通り、「すみません」は「すまない」の丁寧語であり、軽度の謝罪やお礼の意を表す場面などで用いられます。
この「すません」は、対話において、発音上の便宜から音便(イ音便)化され「すません」という音で話されることが一般的になってきています。



で、思うところって何?



それは、「書き言葉」の場面で「すません」という表記を目にすることが増え、「違和感甚だしい」と感じていることです。
なんというか、「軽薄」な印象を受けてしまうのです。
ここでいう書き言葉の場面というのは「メール」「LINE」「Slack(オフィス系チャットツール)」「Twitter」などです。

一点、明言しておきたいのは、私個人としては違和感・軽薄な印象を覚えるという話で、現在「すいません」を書き言葉で使用されている方を攻撃するつもりは毛頭ありません、ということです。だんだん私の言語感覚が「オールドスクール」なものになってきている可能性もありますから、「実際のところ皆さんはどう感じていらっしゃるのか知りたい」とう点が本記事のメインになります。

また、この音便化は、日本語においてとても一般的といいますか、時代を経る過程で当たり前に起こっている現象です。

「漕で(漕て)」「呼で(呼て)」「降て(降て)」などは、もともとは( )内のように使われていましたが、発音の便宜上音が変化し、いまでは書き言葉でも音便形のまま使用されています



なんだ、間違いとかそういう話じゃないんだね。



その通りです。
音便化自体は言葉の進化の一過程であるのでそこまでナーバスになる必要はないのですが、「すみません/すいません」で厄介なのは「叙情表現である」という点です。
つまり、感情を表す言葉で、それを受け取る相手がいるということ。
言葉の本質は「伝達」なので、使い手の意思がそのまま伝わらなければ、コミュニケーションは失敗したということになるわけです。

例えば私が何かミスをして、申し訳ないという気持ちで「すません」と書いて(打って)送信したときに、読んだ相手が「伊藤は本当に謝っているのかこれ」と感じてしまったら、その時点でコミュニケーションの失敗が決定するということです。
社内でのやりとりであればまだしも、対取引先では致命的ですよね。(しかしまあ、私は社外やりとりでも「すません」メールをさんざん受け取ってはいます)

正解・間違いの話ではないけれども、「TPO的に間違いになり得る選択肢」が存在する、難しい言葉だと思います。



「すいません」は軽薄な感じと言ったけど、どんなところがそう感じるの?



なんとも形容し難いのですが、強いて言うなら「m」を打っていないところですかね。
おそらく「すません」の本来の形が「すません」であることはほとんどの社会人が知っているところと思うのですが、そういった前提条件の上であえて「すいません」と打っている気がしてしまう
打つべきものを打たないのは、時間なり気持ち的なものを省こうとしているのではないか。
こんな風に瞬間的に感じ取ってしまうのだと思います。
時は金なり」といいますが、誰かに誠意を伝えるときにも時間は金たり得ます。
机に落ちた髪の毛の凹凸を余裕で判別できてしまう指の感覚と同じように、人間の感受性は鋭敏です。
m」の差は、意外に大きいかもしれません。


言葉の本質は「伝達」と先ほど述べましたが、文章や文字それ自体は単なるツールにすぎません
言うなれば、中身が空のギフトボックスです。
中身は、言葉を発する人の思想や気持ちなんですね。
「そんなつもりで『すません』を使っていない」という方がほとんどだとは思いますが、受け取り方に関しては、これは完全に相手次第で、多くの場合黙ってその判断がなされてしまいます
そんな、「大損をして得られるものは何もないというリスク」があるということを、本記事では伝えたいです。


最後に、先述した「LINE」「Slack(オフィス系チャットツール)」「Twitter」というプラットフォームについて「書き言葉と話し言葉の境界があいまいなメディアである」という補足をしておく必要があるかと思います。
話し言葉的に書き言葉で伝えやすい、という意味ですが、「Slack」「Twitter」においては特に多数に向けての発信になる場面が多いので、「m」のリスク回避策(安全策)を取ってもよいかもしれません。

言葉は感情と密接に結び付いているだけに複雑なんですが、それゆえの面白さもあります。
自分なりに、愛情をもって育ててみてください。


それでは、また次回。



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