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【校閲ダヨリ】 vol. 33 付属と附属


みなさまおつかれさまです。

今回は、こんなテーマでお話ししてみたいと思います。

両者の違いは現在となっては「どちらでもいい」、むしろ 附属 に関しては「ただの洒落た書き方」くらいにしか思われていないかもしれません。
しかし、文字が違えばそこには何らかの差異が当然あるわけで、まったく同じということはありません。

世間の人々が気にも留めないニッチな言語事項を扱ってこその、本お便りだと自負しているところもあり、このようなテーマを立てました。


さて、広く目にする機会のある「付属」には特に説明はいらないと考えますが、「附属」のほうに関しては、「え? そんなもの見たことがない」という方々もいらっしゃるかもしれませんので、少し実例を出して紹介します。

附属」の文字を目にするときは、固有名詞に組み込まれていることが多いです。

東京大学医学部附属病院
千葉大学教育学部附属中学校
中央大学附属中学校・高等学校
   
このように、「●●大学(~学部)附属」という形で多く登場しますが
   
明治大学付属中野八王子中学高等学校
   
など、公式表記で「付属」を用いている学校もあります。
   
   

結局、同じ場面で使用できるってことでしょ? 今号、読む意味あるの?

   
   
ちょっと待ってください、結論を急ぎすぎるともったいないかもしれません。
   
些細な言語事項ですが、どうでもいい問題と流してしまうと、たくさんの有意義なこととサヨウナラしてしまうことになりかねません。今回は少し、こだわってみたいと思います。
   
   
教科書の出版社として有名な「教育出版」は、公式ウェブサイトでこんなことを書いています。
   

本来の表記は「附属」であるが,一般的には「付属」もかなり広く使われている。

   
なんと、「付属」は古くからある書き方ではないようです。
   
   
同サイトでは「戦前は,「附」と「付」の使い分けがほぼ定着し」とあり、下記のようにその用いられ方に差があったようです。
   

附:つく・つけるの意を含む語(ex. 附属、附表)

付:わたす・あたえる・さずけるの意を含む語(ex. 交付、給付)

   
……確かに、付属や付表とは書き換えられても、交附給附には親しみがありません。
意味するところ(ニュアンス)が異なるというのは納得できます。
しかし、「付」の訓読みが「つく」であるように、「附」と共通した領域があることも、人々は広く知っていますよね。「附」は、限定用語と捉えることができるわけです。
   
では、どこの段階から統一的に「付」を用いるようになったのでしょう。
先の教育出版ウェブサイトによると、これは、昭和21年の「当用漢字表」(常用漢字表の前身)に起源をもつようです。
   
当用漢字表では、「同じ音で意味の近いものは一方を省く」という方針がありました。不特定多数の国民が広く読み書きできる必要がある漢字群になるので、当然といっては当然のことですよね。
興味深いのは、「付」で統一されるのかと思いきや、最終的には「附」も記載されることになった点です。
これはなぜかというと、「日本国憲法に「附」が用いられている」からという理由のようです。

(参考:第三十七条 3 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。)

   
当用漢字表の威力は絶大で、新聞にはじまるメディア業界は「付属」を使用していくことになります。
一方、法令や公用文においては「附属」が用いられ、それがそのまま現在まで続きます。
   
   
このような背景があって、行政と関係が深い国公立大学の「ふぞく」は軒並み「附属」となっているのです。
   
当用漢字表は現在その効力を失い、先述の「常用漢字表」(vol. 26参照)が主権を握っていますが、根本的な考え方は生きているため、「附」も、記載されています。(探してみてください)
   
   
以上より、「」と「」における「結局、同じ場面で使用できるってことでしょ?」という問いにかんしては、残念ながら答えはNOのようです。
些細なことですが、知っていることで、例えば「附録」のような洒脱な表現が可能にもなりますから、私は重箱の隅をつつくことをやめないのです。
   
   
それでは、また次回。


参考
「附属」か「付属」か」  (『言葉のてびき』教育出版)
デジタル大辞泉』(小学館) 
日本国憲法



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