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【校閲ダヨリ】 号外 難解な、略語の海で漂流してみる (職場体験学習スペシャル)
みなさまおつかれさまです。
今回は、先日わが社を職場体験学習で訪れてくださった中学生のステファニーさん、まめさん(ともに仮名)とブレインストーミング・考察した内容をテーマにしたいと思います。(※仮名はご自身で考えていただきました)
テレビドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』のお力添えを多大に受けたことで、世間でも「言えばわかる」職業の仲間入りを果たしつつあるこの仕事ですが、ステファニーさんもまめさんも仕事の中身をよく知っていらっしゃり感激いたしました。
とてもよい機会だったので、凝り固まった私の脳内だけでは手に余るテーマの考察をお手伝いしていただこうということで、「略語」を主題に据えました。
結果として、「ジェネレーションギャップ」という、いままで感じ得なかった衝撃を体感したという事実に行き着きますが、なかなか面白い試みでもあったと思いますので、皆さんにもお裾分けいたしますね。
取り組みの流れとしましては、ステファニーさん、まめさん、校閲チームYの3名で略語に関するブレインストーミングを行い(20分)、生成の特徴ごとにグループ分けをする(10分)という進め方でした。
どんな略語が飛び出すのかとワクワクしていましたが、想像以上に豊かなものとなったので,かいつまんでご紹介させていただきます。
ステファニーさん:「あーね(あぁそうね)」「百ロー(百円ローソン)」「環八」「カワボ(可愛いボイス)」「世中研(世田谷区立中学校教育研究会)」など
まめさん:「パワポ」「三茶」「ポニテ」「とりま(とりあえずまぁ)」「イケボ(イケてるボイス)」など
校閲Y:「りょ / り(了解)」「クドカン(宮藤官九郎)」「ケンタ(ケンタッキー)」「100均」「駅チカ」など
私は、スタックしたときのために例を準備して臨んでいたのですが、必要ないくらい多くの例を得ることができました。
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/19175569/picture_pc_5a14acd5be4d5f714c78bd67ff3186fe.jpg?width=1200)
ショッキングな出来事を挙げるとしたら、みんな「二子玉(にこたま)」は古いから「二子(ふたこ)」と言うよとご指摘いただいたことや、「ブクロ(池袋)」と私が発言したらYがこちらにちらっと目をやったのみで話題が次の語へ移ってしまったことくらいです。
次に、順不同に出たこれらの例に秩序を見出す作業をします。
1. 最初と最初型
これは「キムタク(木村拓哉)」のように、連結する2つ以上のまとまりの先頭の1〜2文字を抽出しているグループです。
世間で見られる略語の多くがこれに当てはまるかと考えます。今回の調査でも出現数が一番多く、48例中28例(58%)でした。
ex:「キンプリ(King & Prince)」「マステ(マスキングテープ)」「フルグラ(フルーツグラノーラ)」「全日空(全日本空輸)」「三茶(三軒茶屋)」など
2. 最初だけ型
「最初と最初型」は連結する2つ以上のまとまりから抽出していますが、こちらは2つ以上のまとまりが見られる名称でも最初の1ブロックからのみ抽出しています。出現数は10(21%)でした。
ex:「スノ(Snowman)」「スト(SixTONES←ストーンズ)」「アシメ(アシメトリー)」「サイゼ(サイゼリヤ)」「コンビニ」など
3. 最後だけ型
1と2は前方からの抽出ですが、こちらは後方が選択されています。出現数は2(4%)。
ex:「JUMP(Hey! Say! JUMP)」「WEST(ジャニーズWEST)」
今回の調査では挙がりませんでしたが、その他「メット(ヘルメット)」「ガイシャ(被害者)」「バイト(アルバイト)」等もこちらに属します。
4. 特殊型1
1〜3に属さないものです。5例出ましたのでそれぞれ見ていきましょう。
・「教科書(教科用図書)」、「あーね(あぁそうね)」
この2つは関連性を見出すことができます。最初と最後から抽出しており、「ビフテキ(ビーフステーキ)」や「スト2(ストリートファイター2)」と同じ構造です。「最初と最後型」というグループになりそうですね。
・「マック(マクドナルド)」、「スマホ(スマートフォン)」
この2つは前方からの抽出ですが、純粋な抽出とは言えないグループです。1のグループに「バッシュ(バスケットボールシューズ)」が入っているのですが、これも「バスシュー」や「バスシュ」となってはいません。スマホが出始めた頃は「スマフォ」という表記も見られた記憶があるのですが、淘汰されたようですね。このグループは「発声のしやすさ」が重視されて現在の形になったと考えられます。
・「りょ / り(了解)」
こちらは、まさしく略語新時代の象徴ともいえそうな語ではないでしょうか。略語が生まれる背景として「適度に長い」ことがあると私は考えていたのですが、「了解」はそもそもそれほど長い単語ではありません。でも短くなりました。最近では「りょ」からさらに短くなって「り」でも通じる(人には通じる)ようです。
5. 特殊型2
こちらは、DAIGOさんの「DAI語」で世間に広く認知された記憶がありますが、始まりはネットスラングの「KY(空気読めない)」だったのではないでしょうか。構造では「最初と最初型」に分類されます。
ex:「NHK(日本放送協会)」「PK(パンツ食い込んだ)」
……NHKも、考えてみればこの例なんですね。KYよりも断然古いですので、昔からあった略し方ではあるのかもしれません。
その他「JK(女子高生)」「MK5(MajiでKoiする5秒前 / マジでキレる5秒前)」など、たくさんあるようです(『KY式日本語』大修館書店)。
NHKなど、古い例はちょっと置いておいて、近年のこのタイプの略語には、「即時性」と「集団意識」という概念が関係しているように私は思います。「すぐに作れる」ということと、よくも悪くも出来立ては「特定の集団で通じる」といった感じです。みんなが使い出せば「JK」のように一般的になり得るのでしょうね。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/19176416/picture_pc_850318f2fc5b5be5dc09323ee4ad07f5.jpg?width=1200)
さて、名残惜しいですがそろそろまとめに入りましょう。
略語を考えるときは、「構造的」な視点から大きくグループ分けできそうです。前からなのか、後からなのか、前後か。
今回は例が出ませんでしたが「別注(特別注文)」「スカジャン(ヨコスカジャンパー)」など、真ん中から抽出している例もあります。
一番よく見られるのは前方からの抽出ですが、ほかはがくっと割合が低下するようです。
文字数という観点では、これまでは4文字になることが多いとされてきたようですが、この流れは変わりつつあるように思われます。「りょ / り」のような例が今後増加するのでしょうか……個人的には楽しみです。
私見になりますが、「KY」のような作られ方は世間で認知されている「JK」のようなものは別として、今後は方法自体が淘汰されていくような気がしていますが、アンダーグラウンドでは残るかもしれません。
「位相語(業界用語のような、集団の中で用いられることば)」のような性格が強そうと判断したためですが、位相語もそれだけで面白いテーマですので、折を見てまたお話しすることにしたいと思います。
多大なるご協力をしてくださったステファニーさんとまめさん、心からありがとうございました。
難解なテーマではありましたが、お二人の協力でなんとか着陸できたと思います。
言葉を上手に使って、自分だけの世界を広げてください。応援しています!
それでは、また次回。
参考図書
『略語天国』(小学館)
『KY式日本語』(大修館書店)
『あるあるまだある 短縮語』(文芸社)
『現代用語の基礎知識 カタカナ・外来語 略語辞典 第5版』(自由国民社)
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